混浴!
何かすごく期待されていたようで、一斉に全員の首がガクッと垂れた。
「なんだいなんだい、しけた顔しちゃって。何があったか知らないけど、ほら、これサービスしておくから元気だしな」
そう言って注文していない料理をテーブルに置いたのはグラマラスな女将だ。
「あんた達を探し回ってる奴がいるよ」
小声でそう言うと酒場の女将は仕事に戻った。女将は元冒険者時代はシーフで、仲間だった親父さんと超年の差婚をして、こうしてここで頑張っている冒険者を応援してくれ、そして今の様に情報をくれたりもする。
「あたし達を探し回ってるって事は、顔を知らないって事なのなの?」
「そうなるな」
「この町で私達知らない人ってそういないと思うんだけど」
「そうですね。私達は今では最も金竜に近いパーティ、ですからね」
「となるとよそ者って事になるな。
どうするセッター、レフィクルの手のものかもしれないぜ」
「マルスの言う様にレフィクルの手のものなら、今まで兵士が手を出してこなかった理由が不明です」
良い読みだセッター。もしレフィクル絡みならとっくに兵士を動かしているはずだ。あるいは本人が来る可能性も否定できない。
となると、全くの無関係の人物か?探している理由は何だ?
「お〜い、女将さん。追加注文頼むわ」
手をパタパタ振りながらマルスが女将を呼ぶ。
実はここの女将、情報は流してくれるが肝心な部分は言わない。理由はそれを儲けに繋げるためだ。
「はいはい、お待たせ。それで追加注文は何にするんだい?」
「ん〜、適当に2皿頼む。それと、人数と素性を教えてくれるとありがたいな」
「あいよ、ちょっと待っとき」
つまり聞きたい情報の数につき、お任せの料理の数となる。料理の代金はもちろん情報料だ。
「今回の料理は高そうな予感がするの」
「そうねぇ、安かったら吹っかけられたってところかしらね」
「そりゃそれで仕方が無いさ。何しろ俺らにはこれがまだまだあるから、あまりここで食わないからなぁ」
マルスが世界樹の森でエルフに貰ったエルフの携帯食を取り出す。別に金をケチっているわけじゃ無く、はっきり言うとここの料理があまり美味くない。むしろ不味い。
「はいよ、お待ちどうさま。人数1人で素性は不明だねぇ」
「そりゃないぜ女将さん」
「しょうがないじゃないさね。分からないもんは分からないんだ。銅貨3枚でいいよ」
新たに運ばれた雑な料理を置くと代金をもらう為手を差し出し、銅貨3枚渡すとそそくさと戻っていった。
「相手は1人か…どうするよ」
「素性が不明という事は少なくともレフィクル絡みでは無さそうですね…
マスター、どうしますか?」
「そのすぐ俺を頼る癖いい加減やめろよ。しかしそうだなぁ…」
相談した結果、ガウシアン王国とレフィクルに関係はやはり無さそうなのと、久しぶりに町に戻ったばかりで少し休養を取りたかったこと、下手に竜角山で待ち伏せられたりするよりは町中のここの酒場でならそう手出しもできないだろうと判断し、会うだけ会ってみる事で決まると女将さんをもう一度呼び、明日ここで会うセッティングを頼み、俺たちは酒場を出て町にいる間いつも寝泊まりする宿屋へ向かった。
宿屋はかなりランクの高い所を選んでいる。と言うのも町にいる期間はせいぜい3日、長くても5日ほどで、その後は竜角山にすぐ戻る。せめて町に戻ったときぐらいはふかふかのベッドで休みたいと言うレイチェルのたっての希望に誰も反対する者はいなかった。
「は〜、やっぱりランクが高いだけあるわよねぇ。ベッドはふかふか、大浴場入り放題、警備万端、これはウチじゃ敵わないわね」
「でもでも、レッドエンペラードラゴンインはアットホームでとても暖かくてあたしは大好きなの」
「うふふ、セーラムありがと」
たった今レイチェルが言ったように、この町が冒険者に人気なのは竜角山があるだけではなく、竜角山の地熱で出る温泉があるのも大きな理由だ。戦い疲れた疲れを癒してくれる。
またトラキアルの観光地でもあり、霊峰竜角山を見ながら温泉に浸かるなんて、まるで富士山を眺めながら入る温泉のようだ。
しかも運が良ければゴールドドラゴンが見られる事もあると言う。
そして今、俺たちも類なく宿屋の大浴場でのんびりしているところだ。
もちろん男女に浴場が分かれているなんてことはなく混浴のため、今のレイチェルとセーラムの会話が聞こえていたわけだが、残念な事に湯浴み着はしっかり存在している。しかもだ、元の世界のように透けそうな薄いものは作れないのか、バスローブのような湯浴み着だ。
着用は強制ではないが、まぁ、女性は皆んな着ている…
セーラムが初めて温泉に来た時真っ裸で入ろうとしたが、レイチェルとエラウェラリエルに全力で止められてからはきちんと着るようになった。
この世界では露出の高い服装や武装は存在しない為、こういった浴場での湯浴み着は十分にエロい。
しかも貸切とかはない為他の宿泊客もいる。しかもランクが高いだけあって女性客も多く、綺麗な貴族令嬢っぽい者からあまり見かけない獣人族までいる。マルスが鼻の下を伸ばしているとレイチェルにぶっ飛ばされる、なんてのはもう見慣れた。
「少しはセッターとサハラを見習いなさいよね!」
「お前らそれでも男児か!」
「一緒にしないで頂きたいですね」
「俺にはウェラがいるから十分だ」
「……(ジト〜)」
「パパはムッツリなの」
ジト目でエラウェラリエルが俺を見つめる。
そうだった、すっかり忘れていたがエルフの勘は鋭かったんだっけ…あはははは…そうだよ、俺だって男だよ…顔を動かさないように視線だけでチラ見してたよ。バレてないと思ったんだけどなぁ…
セッターにまでジト目で見られると、マルスも俺も黙って首まで湯に浸かる。
…こいつはもはや男じゃねぇ!
浴場から出た俺らは部屋に戻ると明日会う事にした、俺らを探している奴とやらの事について話し合い、ある程度考えられる状況を想定し対応できるように準備をすると休む事にした。
翌朝起きると外は暗く今にも降り出しそうな雨空だった。旅をしている訳ではない為天候操作はしていない。精霊の力も感じることから、この天気はレフィクルの影響ではないのは確認済みだ。
エラウェラリエルが魔法の記憶が終わると朝食を取りに酒場に行く。この酒場はオーダーの終了時間こそあるが、店は閉めず24時間やっている。
一体いつ休んでいるんだと思うが、まぁ俺には関係ない事だ。
「お!来たね。相手さん、個室を希望したから空いてる個室に通しておいたよ。2番ルーム行きな」
そう言うとすれ違いざまに耳打ちしてくる。
「どうにも胡散臭い奴だよ。十分気をつけな」
2番と書かれた扉をノックする。中から「どうぞ」と男の声が聞こえ、扉を開けてマルスを先頭にフードを深く被った俺たちが続いて入った。




