自己犠牲
「相手は国王陛下だぞ!武器に手をかけるな、無礼だぞ!」
何故か分からないがレフィクルは間違いなく強く危険だ。
俺は慌ててセッターとマルスを抑えようと声をかけ振り返ると…
「是非もなし」
マルスとセッター、セレヴェリヴェンが倒れていて、俺の前にいたはずのレフィクルがそこに立っていた。
「マルス!セッター!セレヴェリヴェンさん!」
「感謝しろ、殺さないでやった」
一体何が起こったんだ。振り返った一瞬で3人が倒れていたぞ!
やはりコイツ化け物だ…
「さぁどうする、余は無手だぞ?」
レイチェル、セーラム、エラウェラリエル、そして俺は動くことが出来なかった。
「興が冷めた。余の命を狙っていたのでは無いのか?
フン!レジスタンスとはこの程度か、くだらん」
どうする、どうする、どうすればいい。
命は取られていないんだ。ここはなんとかしのぐ他ないだろ。
「余に歯向かえばどうなるか…これは警告だ」
その言葉に不安がよぎった俺は予測を使う。レフィクルは側にいたレイチェルに向かって手刀を振り上げ狙いを定めると振り下ろした。レイチェルは状況が読み込めずただ呆然と見つめているだけだ。
「や、止めろーーーーーーーー!!」
とっさに俺は杖で振り落とそうとしている手首を狙うが、予測で攻撃が躱され、そして標的が俺に変わるのが分かり、慌てて杖を引っ込め防御しようとするがそれよりも早くレフィクルの手刀が俺の心臓を貫こうと抜手が迫る。
「ぐっ…」
「ま、間に合った…の…」
紡いだ盾を持ったセーラムが、滑り込むように俺とレフィクルの間に割って入り手刀を防いでいた。
「小娘が…珍妙な真似を」
レフィクルは止まる事なく、セーラムに今度はいつの間にか握られているダガーを持つ反対の手で攻撃を仕掛けてきた。
慌ててセーラムを守ろうとするが、俺は体制が崩れていたため行動が遅れてしまった。
「魔法の矢よ敵を打て!魔法矢!」
光の矢が5本レフィクルに命中するが、触れた瞬間にかき消えてしまう。
「抵抗⁉︎そんなこと!」
「な…んだと!」
同時に声が上がる。
1つはエラウェラリエルで魔法が掻き消された驚きの声で、もう1つはレフィクルからだった。
セーラムを貫こうとしたダガーはセーラムが紡いだ黄金の鎧で防がれ、手にした紡いだ短槍で逆に刺し貫いていた。
「トドメなの!雷撃!」
そして驚く事にセーラムは貫いたままの短槍から直接雷撃を叩き込んだ。
バリバリと電撃が短槍から放出され、レフィクルの体を突き抜けていく。
「グオオオオオオオオ!」
だがレフィクルが息絶える事はなかった。
普通槍で貫かれた挙句電撃が突き抜けたんだから…普通死ぬだろ!いや、死ねよ。
レフィクルは貫かれた短槍から無理矢理体を引き抜くと流石に大ダメージとなったのか、足元はふらつき口と貫かれた箇所から血を流し苦悶の表情を浮かべている。
「中途半端に生かしたのがあんたの運の尽きだったな!」
目を覚ましたマルスとセッターも手に武器を持ち包囲する。セレヴェリヴェンは矢をつがえ標的を定め、俺も杖を逆手で構える。
圧倒的に俺たちが有利な状況的に見えるが、創造神には魂を死極に閉じ込めてからと言っていた為、今ここで倒してしまっても大丈夫なのか不安がよぎる。
「この小娘が…」
包囲されていると言うのにレフィクルは他には目もくれず、貫かれた腹部を抑えながらセーラムだけを睨みつけている。
そのセーラムはと言うと、全てがキンキラの短槍に盾と鎧を身につけ、片眉を上げてフフンとでも言いたげなドヤ顔だけ見なければ、まるでワルキューレのように神々しく見えただろう。
考えろ、考えるんだ。魂を残して肉体だけが滅びた場合、なぜダメなのか、何が問題なのか。絶対に何か理由があるはずだ。
答えは出ないが嫌な予感だけがする。
「はぁ!」
マルスが掛け声と共にレフィクルに切り掛かる。同時にセッターとセーラムも動いた。
レフィクルを殺してはダメだ。
ダメだダメだダメだダメだダメだ。
マルスの剣アルダを腰から抜いた剣で受け止め、セッターの7つ星の剣を逆の手に持ったダガーで受け止める。
がら空きになった胴を2人よりも腕の劣るセーラムが紡いだ短槍でトドメと言わんばかりに突き入れようとする。
その瞬間に俺は見た。
レフィクルの顔がニヤケているのを…
しかもその顔は決して死を覚悟したものの顔ではなく、むしろそれが最初から狙いであったようだ。
肉体は唯の入れ物に過ぎない。
より良い入れ物があれば?
「セーラムダメだ!レフィクルを攻撃するなー!」
俺がそう叫び終えたとき、既にセーラムはレフィクルを刺し貫いていた。
「何で…なの?」
セーラムが振り返り俺に問いかける。深々と刺さっているように見える手元には紡いだ短槍が消えていた。
そこへ…
ズガッ!
セレヴェリヴェンが放った矢がレフィクルの頭部を貫いた。
当たり前の事だが、矢は一度弓から放たれれば止める事は出来ない。
バタッとレフィクルが崩れ落ち、そのまま動く事のない屍となった。それと同時にセレヴェリヴェンも続くようにその場に倒れた。が、すぐに起き上がり体の各所を確認するように動かしている。
「やったぜ!レフィクルを倒したぞ」
「セレヴェリヴェン…さん?」
「どうしたんですかセレヴェリヴェンさん」
セッターが近寄ろうとするとセレヴェリヴェンが距離を置いた。
「その小娘が狙いであったが…」
奇妙な事をセレヴェリヴェンは言いだす。それは俺の想像通りであり、最悪なことになってしまった。
「レフィクル、セレヴェリヴェンさんを返せ」
「え?」
「サハラ?」
「貴様、国王であるレフィクルを呼び捨てるか?」
「黙れこの悪魔が!さっさとセレヴェリヴェンさんを返せ!」
「な!セレヴェリヴェンがレフィクル⁉︎」
「私…もう無理…です。
貴様まだ意識を持つか。
マルス、ア…ルダを…」
差し出してくる手にマルスがアルダを手渡す。そして震える手でセレヴェリヴェンは己の胸を心臓を突き刺した。
「無駄だ。辞めておけ、貴様死ぬぞ?
どちらにしても…同じ事です…自害であれば、貴方も乗り移れ…無いでしょう…
愚かな、そんな事で余が絶えるとでも思ったか。
時間は稼げる…でしょう?皆さん…急いで…目的を…後を…セーラム様を頼み…ます…」
それだけを言うとセレヴェリヴェンはそれきり動く事は無い屍となった。
しかしその死に顔は何処かやり遂げた満足そうな顔をしているようにも見えた。
「せ、セレヴェリヴェン…」
「セレヴェリヴェンさん!」
「ダメなの!死なないで!」
時間は稼げる?急ぎ目的を?乗り移られていた所為で何かセレヴェリヴェンは分かったのか?言葉の意味で考えれば、レフィクルはまだ死んでいないように聞こえる。
…あぁ、そうか、これが魂を死極へ閉じ込めてからと言う意味だったのか。
「皆んな…行こう…」
「何処へですか、マスター」
「勿論目的を果たす」
「だって、レフィクルはセレヴェリヴェンさんが!」
「奴は死んで無い。魂が残っている限り」
「せめて埋葬ぐらいしてから」
「セレヴェリヴェンさんは言っただろ。急いで目的をと」
それだけ言うと俺は霊峰の町に続く街道を進み始めた。本音は埋葬したいし、出来れば故郷の世界樹の森に返したい。
奥歯がギリギリと音を立てるのが聞こえるほど歯を食いしばり、俺は足を進めた。
「レフィクル、絶対に許さねぇ」
マルスがセレヴェリヴェンの体からアルダを引き抜くとサハラの後に続く。セッターも無言で行動に移り、その後に静かに祈りを捧げたエラウェラリエルが続いた。
「セレヴェリヴェンさん、絶対に仇は取るなの…」
一言かけてからセーラムも続く。瞳からは大粒の涙を零しながら、腕でそれをぬぐいながらその場を離れる。
「セレヴェリヴェンさん、これ、借りるわね。上手く使えるか分からないけれど、一緒に戦おうね。
【愛と美の神アーティドロファ】様セレヴェリヴェンさんをお願いします」
レイチェルは寵愛を受ける神に祈りを捧げると、セレヴェリヴェンが愛用していた弓と矢筒を持つと小走りで追いかけていった。
数時間後の朝日が昇る頃、彼等は1人欠けて霊峰の町に辿り着いた。
「グオオオオオオオオ…己、彼奴らめ…」
元の肉体に戻り目が覚めたレフィクルが苦悶の表情を浮かべ全身の激痛に耐えている。
「レフィクル様、随分と酷いお姿になりましたね。だからあれ程己の力を過信しない様進言させて頂いてきたと言うのに」
「五月蝿い!ルベズリーブ、さっさと余を運べ!」
「やれやれ、分かりました。ですがその怪我、暫くは療養が必要になりますよ」
ルベズリーブと呼ばれた男は見窄らしく汚らしいローブに身を包んでいて、顔もフードの所為でよく見えない。
レフィクルに対してこれだけの発言が出来るのは、彼がレフィクルの絶対なる信用を得ている腹心の1人だから言えるのだろう。
「…ゲート。
さぁ戻りましょう。戻って早く休んでくださいな」
ヨロヨロとレフィクルは歩き、魔法で作り出された魔法の門をくぐり、後を追う様にルベズリーブも門をくぐると2人の姿は消え、少しした後にゲートも消えた。
後には残された1体の屍のみがその場に残った…
いつも読んでくれてありがとう。
これで第4章は終わりです。
まぁ定番と言われれば定番な感じになってしまったかもしれません。
第5章の方は霊峰竜角山登頂の細部は省くことにして先に進めさせていただくことにしました。
最も戦闘が主体で、細部とは言っても何処まで描写できるか不安でしたが…
次回更新ですが、予定では来週の日曜なのですが、当方の予定で、もしかしたら遅れてしまうか、再来週になってしまうかもしれません。楽しみにしてくれている方には本当に申し訳ない限りです。




