迷い
今週も3話更新になります。
今週分で第4章が終わり、来週から第5章に突入します。
久しぶりにベッドでゆっくり休んだ俺たちは翌日早々から霊峰竜角山のある町に向かって旧王都を出た。
ヴェニデの様なこともなく普通に出入りができて正直なところホッとする。
「言われてたほど恐怖政治って感じられなかったわね?」
「確かに以前の様に生き生きとしてる雰囲気はなかったが、苦しんで入り様にも見えなかった」
昨日の自由行動で特に何かあった者もなく、ごく普通に旧王都を過ごせた。俺もエラウェラリエルと普通に店を見回ったりして楽しめたと思う。
「最初だけ引き締める感じだったということでしょうか?」
確かにガウシアン王国が支配して相当経つ。いつまでも恐怖で支配すれば当然反乱だのが起こってもおかしくないだろう。
「もしこれで平和になるんだとしたら、俺らのやろうとしてることは正しいことなのか?」
「でも、サハラさんに創造神様がレフィクルは悪魔と言うものにされたのですよね」
トラキアル王都だけじゃない。思い返せばヴェニデ以外では悪い印象は感じられなかった。もしかするとヴェニデも今は変わっている可能性もないとは言い切れない。
皆んなが皆んな今回のトラキアル王都の事で頭を悩ませ始めている様だ。だけど…
「どっちが正しいかは正直わからない。けど1つだけわかることがある。それはやらなければ俺たち全員が死ぬということだ」
全員がハッとなって思い出した様だ。そう、レフィクルを倒せなければこの世界は大洪水によって洗い流されることになる。
「ならば私たちは準備だけはしておくとしましょう。それなら問題ないでしょうマスター」
「そうだな」
神に善か悪かは関係ない。関係あるのは神の存在を脅かす者は排除するか。
ルースミアならどういう答えを出したんだろうな。
「ここから霊峰まであと少しです」
「随分想定よりも早かったな」
「サハラ殿の狼ソリのおかげですね」
そんなわけで後は街道に沿っていけばたどり着くらしく、気分的に楽な状況になっていた。
だが霊峰の町まであと半日ほどまで来た時それは起こった。
「マスター!」
「ああ…」
「一体どうしたってんだ?雲行きが怪しくなっただけだろ」
「それが十分問題なのよ。間違いなく霊峰の町にいるって事ね」
前にもあった俺の始原の魔術を上回る天候操作能力…なのか?こんな事を出来る奴はレフィクルだけだろう。こんなこと他にも出来る奴がいるというのは勘弁してほしい。
「旧王都でレフィクル視察の噂は無かったはずですが…セレヴェリヴェン、霊峰の町までは旧王都を経由しなくても行けますか?」
「街道を使わなければ可能ですが、そんな隠れて行くような理由はないでしょう?」
「霊峰のゴールドドラゴンの可能性はないかしら?」
「精霊が応じない。ゴールドドラゴンが出来るのなら話は別だけど、根拠はないけど多分違う」
「もしそうなら好都合じゃないか。単騎でうろついてるなんて最高のチャンスだろ」
「一応相手は人の領域を超えた存在で、しかも【闘争の神エナブ】を殺しているんだぞ」
「マスターもマルスも忘れてませんか?
レフィクルの魂を神が死極に閉じ込めてから、我々が倒さないといけないのでしょう?」
「「そうだった」」
本来であれば夕方頃には霊峰の町に着くところだったが、ちょっとした用事であればすぐにいなくなるかもしれないという事で、ここで野宿する事にしてもしもの対処手段を考える事で決まった。
まず明日の朝に出発することは決まり、精霊が応じない場合の事を相談する。
現状リーダーであるセッターが話をまとめていき、極力避け、関与せず、交戦しない方向で決まった。
「もし、もしもだけど、誰かが襲われている現場に出くわしたりしたらどうするの?」
レイチェルのその一言は皆んなを黙らせ、セッターに顔が向く。
「その時も関与しないでその場を離れてください。私だけで対処します」
「お前何言ってんだ!」
「マルス、貴方はレイチェルがいます。セーラムにはマスターが必要でエラウェラリエルさんも同じく。そうなると私が1番適しているでしょう?」
「私もいますよ?」
「セレヴェリヴェンさんはセーラムを守らねばいけないでしょう」
「分かった。その時はセッターに任せる」
「パパ!」
「サハラ⁉︎」
「あくまで想定の話だろ?」
「ですね」
セッターはあいつを見た事がない。見ただけでわかる。もしそんな状況であいつと出くわしたら逃してなんか貰えないさ。
かと言ってたぶん総当たりしたとしても…
たった一度遠目に見ただけだが、見つめられた瞬間に分かった。あれは異質だ。これでも一応この世界で5年過ごし戦えるだけの力も持ったし正直なところ自信もある。
だが、あの時見つめられただけで恐怖に支配された気がした。
それに町を出た時に話したことのせいか迷いもある。
俺たちのしていることは創造神から見れば善だが…
暗い雰囲気の中、更に日も落ち辺りも暗くなってくる。最も最初から曇っているせいで時間ははっきりしていないが。
そんな空気の中、夕飯を食べ終え全員で茶を飲みながら一休みしていると霊峰方面から人がこちらに向かってくる。
ここは街道のため夜寝る間も惜しんで急ぐ人がいてもなんらおかしくはないのだが、向かってくる人影はたった1人だった。
たった1人で街道を歩くその人物の姿は商人の様に荷物は無いところから冒険者なのだろう。何か嫌な予感がした俺は念の為フードを下ろし顔を隠しておいた。
そして俺たちが野宿しているところまで来ると立ち止まり、ちょうど街道を挟んだ反対側の地面に座りこんだ。
その顔が見えた時俺の心臓は飛び上がり、あの時の不安と恐怖が蘇る。
見間違うはずはない。
その人物はレフィクルだった。




