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始原の魔術師〜時を旅する者〜  作者: 小さな枝切れ
第1章 旧帝都を目指して
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デッドエンド

街道沿いに俺たちは歩いていた。


「ねぇ、ヴィローム行くの?それとも森を抜けて行くの?ん?」

「あれからヴィロームがどうなったか気になるし、もしかしたらセーラムの母親の情報も得られるかもしれないからヴィロームに行ってみようと思う」



そんな話をしながら進んでいき、懐かしい野営地点にたどり着いた。思えばここで大量のオークを相手にルースミアと一緒に無双したんだっけな。


振り返るとレイチェルがセッターとセーラムに野営の準備の仕方を教えていた。



翌日になり、道中ヴィローム方面からの商隊とすれ違いながら、また次の野営地点に到着する。順調な旅だった。



3日目の日が落ち始める頃ヴィロームが見えてきた。


町の入り口で冒険者証を見せて難なく町中に入ると、さすがに5年も経っているためオークによる侵略の傷跡残すことなく元に戻っていた。とは言っても昔の人が住んでいた頃のヴィロームを俺は見たことはなかったから、元に戻ったのかは分からない。…ただ、町の割に人気が少ないな。



宿を決めようと思ったが、土地勘もないから場所もわからない。その為少ない通行人を捕まえ場所を聞くと、生気のない感じで指だけ指ししめすと足早に去っていった。


「なんか雰囲気が暗い町ですね。マスター」

「そうだね。とりあえず宿を決めたらすぐに冒険者ギルドに行っていろいろ聞いてみよう」


指し示された方角へ行くと宿屋の看板が見える。他の宿屋を探す時間が惜しかったため、選ぶことなくそこに入った。


やはり生気のない店主とやり取りを行い、1人一泊銀貨2枚(2万円相当)も支払い部屋に入った。


「なんか町全体が死んでるみたいね。

それにしても食事無しでこの宿泊費は高すぎるわ」


確かに高い。だがなレイチェル、全員の宿泊費を支払ったのは俺だよ。



「とりあえず宿は取れたので冒険者ギルドに行きますか?マスター」

「うん、あ、そうだ、一応荷物は全部俺の鞄に入れておこう」


武装以外を鞄に詰め込み、宿の店主に冒険者ギルドの場所を聞いて向かうことにした。



冒険者ギルドは宿屋の近くで、中に入るとチラホラなぜか疲れきった顔をした他の冒険者も見えた。カウンターまで行き、受け付けの人に声をかける。


「すいません、今日ヴァリュームから来たばかりの冒険者なんですが…」

「ようこそヴィロームへ。先ずはお仲間全員の冒険者証提示お願いします」


ヴァリュームでは一度も仲間全員の冒険者証提示を求められた事なんてなかったよな。

ここは素直に応じて、全員の冒険者証提示を済ますと俺はこの町について聞いてみた。


あれからヴィロームはガウシアン王国によって復興がなされ、最初こそ町は活気に満ち溢れたけど、新たに領主が到着するなり暴政が始まったそうだ。


町では高額な税収に加え、ガウシアン王国の国王レフィクルを讃えさせられ、逆らう者は容赦なく処刑されたそうだ。


また冒険者は町へ入る時は不問で入れてる癖に、町から出る時に高額なお金を要求する為、町から出る為だけに冒険者はギルドの仕事を引き受けて、お金を貯めると町を足早に去っていくらしい。


「ヴァリュームではその様な話聞いたことがなかったんですけど」

「ヴァリュームは冒険者ギルドの活動停止の命令が出てますからね。わざわざ稼げない町に向かう冒険者はいません」


そういう事か。



この後どんな仕事があるか確認すると、大半がヴィローム大湿原のオーク討伐やダークエルフの居場所を探しだすことなど、駆け出し冒険者では厳しい依頼ばかりで、討伐以外のものは商隊の往復(・・)護衛などだった。


そうそう、お金を支払わずに町を抜け出した冒険者は冒険者ギルドで違反者として各地にお尋ね者にされ、発見されると処刑されるそうだ。




俺は聞きたいことが聞けたので、宿へ戻ろうとすると新たに冒険者達が入ってきて、俺達を見るなり声をかけてきた。


「あ…もしかしたらサハラさん!やっぱりそうだ!」

「え?あ、キリシュさんじゃないですか。お久しぶりです」


そこには5年前に商人の護衛で知りあった冒険者達がいた。キリシュはそのパーティーのリーダーをしている戦士だ。リーダーになったのは他の仲間がリーダーになるのを嫌がった為らしい。


少し待っててください、そう言うとカウンターで何かを報告をすると報酬でも貰っているのだろう。



「ここでは何ですから、食事でもしながら話をしませんか?」


疲れきり、浮かない顔をしたキリシュの仲間達に連れられ、俺たちは大きな酒場に入った。

中は冒険者達で溢れかえっていて、ここは活気があった。


「凄い混んでますね。人気のお店なんですか?」


俺がそう言うとキリシュは首を横に振り、ポツンと空いていた席に向かっていった。


「ん?キリシュさん、この人数だとちょっと狭くないですか?」

「サハラは今日初めてこの町に来たんだろ?」


キリシュの代わりに答えた男はフードを深く被ったキリシュの仲間、盗賊のズィーだ。

ズィーは本名では無い。あくまで仲間内でそう呼ばれているだけで、素性はキリシュ達にも教えないらしい。


「えぇ、ズィーさんも久しぶりです」

「ハハハ変わんないな。前も言ったけど、ズィーでいいって。

でだ、ここのこの席が今の俺たちの寝床だよ」

「「「はぁ⁉︎」」」


俺とレイチェルとセッターが同時に叫んだ。何だ?今間違いなく寝床って言ったぞ。


「まぁ説明するんで狭いですが、座ってください」


言われるままぎゅうぎゅう詰めに座った。


先ずは食事と思ったが、キリシュではなくズィーが話を進めだした。内容はほとんどギルドで聞いたことと変わりがなかったが、冒険者連中はこの町の事を、デッドエンドと呼んでいる。デッドエンドつまり行き止まりか。


そして驚いたのが町を出るのに金貨1枚(10万円相当)かかるそうだ。それも1人につきだ。



「で、これが今日の報酬だ」


見せてくれた金額は銀貨3枚(3万円相当)だった。ちょっと待て、俺たち宿屋の代金1人銀貨2枚だぞ!こんな金額じゃ宿にも…


俺の顔を見て察したのかズィーが話を続けた。


「そうだ、宿にも泊まれない。そんな俺らを見かねた元冒険者だった、この店のおやっさんが1テーブル銀貨1枚で寝食を提供してくれてる」


そこで頼んでもいないのに料理が運ばれてきた。


「今日はえらく人数いるな。満足に寝れないと明日に響くぞ」


そう言って戻っていった。あの人がおやっさんと言われてる人かな。

運ばれてきた大皿には、得体の知れない物が乗っていて、キリシュが小皿に取り分けていった。飲み物もピッチャー1つをグラスに均一に分けていた。



「それでサハラさん達は今までどうしていたんですか?」


キリシュに聞かれ、今まであったことを話した。やっぱりスレイドの裏切りと死には驚いていた。またルースミアが俺の元を離れて旅立った事については空気を読んでくれたのか何も聞かれなかった。



「ところで気になったのですが、そちらにいる子はエルフ…いえ、ハイエルフですよね」

「え?ハイエルフ?」


そう言ってきたのはエラウェラリエルと言うエルフのウィザードで、エルフ好きな俺だからかもしれないが、目を合わせると照れ笑いしてしまうほどの美人だ。


みんなの目が集中するとセーラムは俺の外套にしがみついてきた。


「ハイエルフをご存知ではなかったんですか?」

「いえ、そうではなく、セーラムがハイエルフだったと言うのに驚いたんです」



エルフは1,000年生きると言われる長寿の美しい森の妖精だ。ハイエルフはそのエルフの上位種と言われていて、寿命がないと言われている。まぁ今の俺も似たようなもんだけどな…



エラウェラリエルにセーラムについていろいろ聞かれそれに答えた。そうですかと何やら意味深な返事をすると、その後は何か考えているのか喋らなくなった。




「サハラさん頼みがあるんだ。もし、もしだけど余裕があったらお金を貸して欲しい。

こんな事冒険者としてみっともないかもしれないけど、このままじゃ僕達はここで死ぬまでその日暮らしが続いちゃう」


驚きはしたが、この町の今の状況を聞いた後だとキリシュのこの申し出は分からなくもない。


すぐに了承するのも何かと思ったため、明日まで考えさせてもらう事にして、俺たちは宿に戻った。





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