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始原の魔術師〜時を旅する者〜  作者: 小さな枝切れ
第3章 レジスタンス
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プリンセス

レイチェルが魔物の巣食う下へ落ちて、不安な一晩を過ごした。


こんな状況で寝れるはずもなく、与えられた部屋のベッドで落ち着かず早く助けに行きたい気持ちで俺は一杯だった。

それはキリシュ達も同じで心配してくれていたが、場所も特定できない以上どうする事も出来ないまま一夜を明かした。



翌朝さっそく捜索隊が編成され、最も危険だとされる場所を優先的に捜索することになり、いざ出発となった時2人が戻ったと知らせが入り、俺は急いで2人の元に向かった。



2人の元にたどり着いた俺が目にしたのは、ボロボロになったマルスの姿と少し薄汚れたレイチェルが支えるように歩く姿だったが、怪我の類もなく俺たちを見つけると元気そうに手を振ってきた。


「心配したぞ。無事でよかった」

「俺が付いていたんだ。当たり前だろ?」

「マルス、ありが…と…う?」


マルスがレイチェルの肩を抱き寄せながら言ったため思わず礼の言葉が詰まってしまう。

あれ?気のせいかなんか2人仲良くなってない?


「そ、それでマルスは随分ボロボロだけど…」

「あぁ、ドラゴンと戦ったからな」


その言葉で周りに集まっていた連中も驚きの声が上がる。

マルス本人は気楽な感じに言ってるが、ドラゴン相手に戦った?


「「流石はマルス様です!」」


すかさずカインとアベルが主人を賞賛する。


「まぁ後ちょいって所で逃げられちまったけどな。

所であんた、サハラ、後でちょいと顔貸してもらうぜ」


えーっと、俺、なんかした?


ワイプオールの使いが来ると、ひとまず最初に連れて行かれた会議室に顔を出すように言われ、俺たち全員で会議室へと向かった。

道中仲良さそうに話しながら歩くレイチェルとマルスを見て、セッターをチラッと見ると俺の視線に気がついたセッターは首を振って返してきた。


「いいのか?」

「彼女が選んだのなら」

「そうか」


目の前で今まで好きだった相手が、別の男と親しげにしているのを見せつけられていたら、俺がセッターにかけてやる言葉は浮かばれなかった。



会議室に着くと9人が椅子に座って待っていて、空いていた1つに何の躊躇もなくマルスが座った。


「その娘が最後の1人の仲間ですかな?」


ワイプオールがそう切り出してきた。俺が頷くとワイプオールはジロジロとレイチェルを見る。

このジジィ、ロリコンか?


そして隣に座る2人の人物にも何かヒソヒソと話し出した。


「済まないが、貴女の出身を聞かせてもらえないだろうか?」


何故か唐突にレイチェルの出身なんかを聞き始め、レイチェルは自身が捨て子でヴァリュームの義理の両親に育てられた事を話した。

話が終わるとまたヒソヒソと話し合いだす。


「1つ聞かせてもらいたい。

体のどこかに痣はないかね?そう、例えば右肩の後ろ辺りに牛の顔のように見える」

「…!

あ、あります。なんでそれを…」

「申し訳有りませんが拝見させて貰ってもよろしいですかな?」


ん?さっきからレイチェルに対して妙に言葉使いが丁寧な気がするぞ。


レイチェルは頷くとローブを脱ぎ、俺に手渡すとシャツの肩口を引っ張るようにして痣を見せる。

確かにそこには立派なツノのある牛の顔のように見える痣があった。


「おおおおお!間違いない。いや、もう1つ確認したい。何か小さい頃から持っていたものはなかっただろうか。例えば…」

「「指輪」」


ワイプオールとレイチェルの声が同時に出た。レイチェルは懐からゴソゴソとなんの変哲もない指輪を取り出すとワイプオールのところまで持って行き手渡した。

一同の視線がその小さな指輪に注がれる。


「指輪に秘められしレドナクセラの血筋を示したまえ」


ワイプオールがそう言うとなんの変哲もなかった指輪が形を変え、何か模様のような彫刻が表にあたる部分に現れると、ワイプオールと隣に座る2人が驚きの声をあげた。


「これは!間違いなくレドナクセラの家紋。

レイチェル様、貴女は亡きレドナクセラ皇帝の娘です!」


辺りが一斉にどよめき出す。もちろん俺達も驚きを隠せない。まさか今まで普通に接していたレイチェルがレドナクセラ帝国の皇帝の娘、姫だっただなんて思いもしなかった。


だけど当然ながら疑問が生まれる。

何故レイチェルは生まれて間もなく捨てられたのかだ。


それはワイプオールが説明してくれて、レドナクセラ帝国では帝位を継ぐのは正妻から生まれたレイチェルだったのだが、同時期に妾にも子供が生まれ、そちらは男の子だった。


正妻の子を帝位にとするのが当然とする連中と、やはり帝位には男の子につかせるべきだという連中で争いになり、当時妾を味方する者が圧倒的に多かったためレイチェルは命を狙われる立場にまでなったそうだ。

このままでは帝位どころか正妻の子の命すら危ういと分かると、信用できる1人の騎士にレイチェルを託し逃すことにした。

それを知った妾もすぐに刺客を送り騎士とレイチェルの命を奪おうとしたそうだ。

その後行方が分からず終いとなった。

後にこれを知った皇帝は怒り、妾は処刑されその味方をした貴族たちを罰せられたが、帝位を継がせる子は妾の子しかいなくなってしまったため、正妻の子として育てられることになったそうだ。



「ご無事で何より!喜べ皆の者!これでレドナクセラ帝国の血は途絶えていない。

レドナクセラを何としても取り戻すんだ」


ワイプオールは喜び隣に座る2人も大いに喜んでいた。

レイチェルは俺の元に来るとローブを受け取って身につけ終わると覗き込むように俺を見てくる。


「えーと…サハラ、私、プリンセスだったみたいよ」

「そうだ…ですね?」


思わず敬語でかえした俺にレイチェルはムスッとした顔になった。


「辞めてよ。今まで通りでいて…って言うかそれだけなの⁉︎」

「あー、うん。ええ⁉︎」


俺はレイチェルが少しわからなくなってきた。

セッターと仲よかったり、マルスと親しげにしていたり、そして前々から好意を感じてはいたが俺の今の反応で怒る。


周りは大いに盛り上がっていたが、俺とレイチェルの間が少しだけずれが生じた気がした瞬間だった。



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