ズィーの過去
ひとまず落ち着きを取り戻した俺以外全員は、やっと本題の方に入ってきた。
「取り敢えず資金に問題は無さそうだ。それをまず少し俺達に分けて欲しい」
ホイなといった感じで、俺はズィーの出された小袋に、鷲掴みしながら鞄から取り出した金貨を1回、2回、3回…
よし!もう限界だろ。詰め放題は俺得意なんだよな。
「おい、おいっ!…サハラ」
「ん?まだ入りそうだった?」
ズィーがレイチェルを見て一緒に溜息ついてるが、俺なんかやらかしたか?
「レイチェルの言う通り、サハラが本当に金に無頓着なのがよく分かった」
軍資金なんだからそれ相応量必要だろ?俺間違ってるか?
資金を渡した後、作戦をズィーが静かに目を閉じて考え、思いついた案を説明し始めた。
取り敢えず旧帝都まで行き、ズィーはシーフギルドで情報収集し、場合によってはズィー単独でレジスタンスに潜入を試みる。
「…以上だ」
全員が?と当然なる。
「僕らはどうするんだ?」
当然そう言ってくる人が出るわけで、だからといって勿論手伝えるような事じゃない。
「そのレジスタンスがどれだけの規模かも分かってないんだ。下手に動かれてマズい事になる事を考えたら、適当に過ごしていてくれた方が助かる」
「適当って…じゃあ僕らは、旧帝都の冒険者ギルドで仕事の依頼でもしてればいいのか?」
「でもキリシュ、資金は出してくれているから働く意味も無いわよ?」
「鍛錬ですよ!ね、マスター」
「確かにこれから戦う相手を考えたら、腕を磨く事は大事じゃな」
この様子だと流石にその日暮らししながら待ってる。ってわけにはいかないな。
というのは冗談として1つ疑問がある。これまでキリシュのパーティを見てきたなかで、俺の知っているTRPGなどで考えると、キリシュ達の平均レベルは恐らく5〜6といったところだ。
そう思った理由はエラウェラリエルの使う魔法で、雷撃が恐らく今使える最大魔法で、しかも日に1度以上使っていない。
この5年で分かったが、この世界は魔法の記憶方式や魔法の種類、神の種類などから、かなりD&Dと言われるゲームに近い。
ただ、ドルイドだけは全く違う。というよりも、はっきり言えば設定が狂っている。
そして疑問というのが、情報収集まではシーフであるズィーの得意分野なのはわかるが、単独潜入となるとたかだかレベル5〜6程度のシーフだとGMの手心でも加えない限り、通常なら確実に命に関わるような行為だ。
それをズィーはやると言う。もちろんレジスタンスが危険な存在とは限らないが、少なくとも…俺ならやらない。
そしてマンティコアで躊躇なくやって見せたあの急所攻撃。
恐らくだが、ズィーは強い。…だけでは無さそうだ。
俺は1つ試してみる事にした。
「じゃあ、今から旧帝都に行くわけにもいかないし、明日町を出よう。
ズィー、ちょっといいかな?」
俺を見つめてくるエラウェラリエルにちょっとゴメンねと謝ると、手に杖を持ちズィーと一緒に宿屋を後にした。
「サハラ、要件はなんだ?」
「もう少し先に行ってからで」
そう言って俺は町を出た人のいない場所まで移動した。
「ズィー、誰かいる気配はある?」
「いや、いないと思うぞ。おいおい、まさか俺はそっちの気はないぞ?」
笑いながら陽気に答えているズィーに、俺は杖でいきなりの全力で攻撃した。
「何すんだサハラ!気でも狂ったか!」
もともと杖術は活殺、俺は加減する事なく攻撃するが、ズィーはそれをやすやすとまではいわないが躱した。
「どういうつもりだ?」
ズィーの気配が変わり、左右の手にそれぞれ剣とダガーを構えた。
俺は予測を使い、無言のまま攻撃を繰り出した。
変幻自在に繰り出す俺の杖を、ズィーは剣とダガーを使い全てではないが捌き躱してみせた。
俺は距離をとる。やっぱりな、俺は《賢人の腕輪》で杖術はグランドマスターの腕前になっていて、加えて予測まで使っているにも関わらず、ズィーは対応しきった。
「ズィー、あんた何者だ?」
「……そういう事か……いつから気がついていた?」
「だいぶ前、マンティコアと戦った頃からかな」
俺が武器の構えを解くとそれを見たズィーも剣とダガーをしまう。
「先に聞いておきたい。俺の正体を知ってサハラはどうするんだ?」
あ…そうだ。知ったからどうって事もなかった。
「その顔じゃ、単に何者かまでしか考えてなかったって所か」
「いや、その〜何だ?」
「いいよ、俺が当ててやるよ。サハラは俺がキリシュ達の仲間にいる理由だろう?」
そうだ!それだ。かなりの強さを持ったシーフなのに、キリシュ達と行動を共にしている理由が知りたかった。
俺はズィーにそっと頷いた。
「いいよ。教えてやる。ただし誰にも、特にキリシュには言わない約束をして欲しい」
そう言うとズィーは昔話を始めた。
あるところに任務を失敗し、追っ手に手傷を負わされ死にかけの男が倒れているのを見つけた夫婦がいて、必死の看病によってその男は九死に一生を得た。
そこまでは良かったが、それを見られた夫婦も狙われてしまう事になり、傷が癒えたばかりのズィーが追っ手を何とか殺したが、その時に夫婦の夫が深手を負ってしまい亡くなってしまった。
その夫婦には小さな子供が居て…それがキリシュだった。
ズィーは詫びても詫びきれず、それならと出来うる限り側で見守ると誓ったそうだ。
まぁこの調子じゃズィーは母子の為に生活資金なんかも送り続けたんだろうな。
本来なら全く関係のない親子が巻き込まれたってやつか。
「確かにキリシュ達には言えないな。
ただ腑に落ちない事が1つあるんだけど、戦えば最初から追っ手は倒せたのか?」
「戦えた…ならばな」
なるほどね。理由は聞かなかったが、恐らく何らかの理由で戦えない状況だったというところか。




