恋路
お待たせしました。後数話更新します。
宿屋に戻り他の仲間達が戻るのを待っている間、セッターは嬉しそうに袋に入れられたネックレスを何度も覗き見ている。
レイチェルの事だから喜んで貰うとは思うが、もしセッターがそのまま告白でもした場合に、例に漏れず俺に勝てたらなどと言い出したりしないかと言う不安がおれにはあった。
しばらくすると、時計でも持ってるのかと思うぐらい次々と仲間達が戻ってくる。
揃うと、それぞれ想い想いの顔をしながらも、何を言うでもなく夕飯を食べに食堂に向かった。
女性達はスイーツを食べてきたにもかかわらず、普通に俺らと同じように食べているのには驚かされ、念のため尋ねてみると、やはりこの世界でもスイーツは別腹と言う想像通りの答えが返ってきた。
また、ブライス達は言うまでもなく、レイチェルを囲って楽しく過ごしている様なので、俺たちはレイチェルに任せることにした。
ちなみにセーラムはブライス達を恐れてか、俺の隣で隠れる様に食べている。
食事もひと段落つくと、キリシュが話を切り出し、さっきまで騒いでいたブライス達も静かになって耳を傾ける。
「さっき冒険者ギルドに行って、僕達にできる仕事がここには驚くほどたくさんあるから、僕達はこの町に残ることにします」
何も聞かされていなかったセレンとエラウェラリエルは驚いたようだが、何も言うことなく決定に従うようだった。
キリシュの話を皮切りに、ブライス達も今後の身の振りを話だした。
エンセキとブライス達はまず旧帝都に行き、そこからガウシアン王都の北方へ向かうそうだ。
俺たちもとりあえず旧帝都まで行って、そこから後は行ってから考えることにするとだけ言っておいた。
「それじゃあ、今後はウェラの使い魔で、俺たちはやり取りすればいいんだよな」
「うん、でもこの町を出るのは明後日なんだ。明日はセーラムに服を買おうと思ってね」
「あぁ、それな。前から思ってたんだよ。旅用じゃないもんな」
チラッとセーラムの服を見てそう言い、当のセーラムは服を買ってもらえると聞いて喜んでいた。
「そうそう、皆さんにはこれを渡しておきましょう。本来絶対に手に入らない貴重な物ですよ」
そう言ってテーブルに出したのは、冒険者証に似た感じのもので、これが何か聞こうとする前に、ズィーが普段聞くことのない高いトーンで声を上げる。
「こ、これは、商人ギルド証じゃないか!」
「さすがズィーさん、ご存知のようですね」
「ああ、これは冒険者証と違ってほとんどの町で、商業サービスを受けられるんだったよな。これさえあれば、ヴィロームだって素通りできるって言う代物だ」
それは凄いな。でもどうしてそんな貴重な物を、いくら仲間になったからとはいえくれるんだろう?
「私も仲間になった、と言っても所詮は商人です。戦いは専門では無いですから、緊急時に助けを求められても何もできません。なので私は私なりに考えて、皆さんのバックアップサポートで貢献させてもらおうと思いましてね」
なるほど、商人であるエンセキが出来ることといえば、確かにバックアップになるだろう。
俺たちはありがたく商人ギルド証を頂くことにした。
「冒険者ギルドに行く時以外は、商人ギルド証を使った方が間違いも起こりにくいと思いますよ」
「本当に助かります。でも、そこまでしてくれる真意はなんですか?」
なんとなく、ただ本当になんとなく聞いてみたつもりだったが、エンセキの口からは驚く言葉が出てきた。
「ハハハ、サハラさんは感づきましたか。
ええ、実は各地の情報が素早く手に入るという事は、商人としてそれは儲けに繋がります。
必要になるものを素早く手配し、誰よりも早く運べば儲けも大きいのですよ」
エンセキの商魂たくましさには舌を巻かれる。ちなみにブライス達はとっくに商人ギルド証を持っていて、町では似非商人なんだそうだ。
食事も終わり、話もひと段落ついたところで解散となり、それぞれ部屋に戻っていく時に俺をエラウェラリエルが呼び止めた。
「サハラさん、少し時間いただいても良いですか?」
先ほどセッターから余計な事を聞いたせいか、妙に意識してしまうな。俺は冷静を装いながら頷いて席に着こうとするが…
「外でも行きませんか?」
こ、これは…イヤ、まさかな。
「あ、うん。別に良いですよ」
照れ隠しにチラッと仲間の方にを目をやると、セッターは片腕を胸の辺りで、握り拳を作り2、3度震わせている。レイチェルに目をやるとムスッとした顔をしていて、セーラムは眠いのか欠伸をしながら手を振っていた。
レイチェルなんか機嫌悪いな。
そのままエラウェラリエルに連れられ夜の町に出た。時間にして9〜10時頃といったところか。
宿屋から離れ、無言のまま広場のような場所へ辿り着くと、エラウェラリエルが草むらに座り、座った自分の横に手を差し出す。誘われるまま俺も横に座る。
月明かりに照らされた薄暗い周りを見れば、ちらほらカップルの姿も見られ、中にはイチャイチャしてるカップルも見受けられる。
「えーと、エラウェラリエル、さん?」
先ほどから無言のエラウェラリエルと、場の空気に耐えられなくなった俺は、ウェラではなくついエラウェラリエルで呼んでしまい、声をかける時に顔を横に向けると、月明かりでもはっきりと分かるほど、顔を真っ赤にさせたエラウェラリエルが俺を見つめていた。
こ、この展開は…イヤ、焦るな俺。きっと聞かれたくない話でもあって、仲間が近寄り難いところにわざと誘い出しただけだ。
「サハラさん…その、誘い出したのは、あの…えっと…」
あーこれは勘違いとかじゃないかも。
「好き…です」
やっぱり。
「その、やっぱり迷惑ですよね」
エラウェラリエルが顔を下げて、消え入りそうな小さな声でそう言ってきた。
「えーと、ですね…いえ…嬉しいですよ」
「…分かってます。貴方の中に今もルースミアさんがいることは。でも、それでも気持ちだけでも伝えておきたかった」
分かってて言ったのか。だが勘違いだ。俺はルースミアの事は好きだ。だけどそれは恋愛感情や愛情とは…違う…たぶん…
「我儘を言っても良いですか?」
「ええ、どうぞ」
「ルースミアさんがいない間だけでも良いので、私も(・)見てもらえませんか?」
いやいやいや、エルフ好きの俺だよ?エルフに、エルフからここまで言われるとは夢にも思ってなかった。
「やべぇ、マジ嬉しい」
つぶやいたつもりが口に出てしまった。
その言葉を聞いたエラウェラリエルは目を見開いたと思ったら、俺にしなだれかかってきた。
「フフッ、そう言う喋り方もするんですね。初めて聞きました」
「いや、えっと。あはは」
そこでフッとエラウェラリエルが暗い顔になる。
「でも、明後日にはお別れなんですよね。
出来れば私も貴方と一緒に旅がしたい…」
「それは…」
「分かってます。私がいないとキリシュ達が貴方と連絡が取れなくなってしまいますからね。それに…」
そこでエラウェラリエルが口ごもった。
それに?それに何かあるのか?
「明日、買い物は午前中で済むはずだから、午後デートしよう?」
「あ…はい!嬉しい」
「うっわ、可愛い反応」
普段冷静で淑やかなエラウェラリエルからは考えられないような反応に、我慢が出来なくなった俺は、思わず抱き寄せて口づけをした。
抵抗することなく受け入れてくれるエラウェラリエルが愛おしく、しばらくの間そのままでいた。
口を離すとエラウェラリエルは照れた顔で、髪をたくし上げると立ち上がる。
「明日楽しみにしてます。帰りが遅いと仲間達が心配するといけないので、そろそろ戻りましょう」
俺も立ち上がり、宿屋へ向かおうとした時、後ろからエラウェラリエルが抱きしめてきた。
「少しだけ…」
しばらくすると離れ、今まで見たことのない笑顔を見せた。
「戻りましょうか」
「うん、ウェラ」
宿屋まで俺たちは手を繋ぎながら戻った。




