増える仲間
「うきゃあああぁぁぁ」
そんなレイチェルの悲鳴で目を覚ました。魔物かと思い慌てて立ち上がってみたが…
「「「「「あぁ…起きちゃった…」」」」」
どうやら目が覚めたときに、レイチェルの寝顔をガン見していた、ブライス達5人に見つめられていたため驚いた悲鳴のようだった。
ブライス達全員が目の下にクマを作っているところから、一晩中見つめていたように思う。
ホラーだなこれは…そう思いながら俺は伸びをした。
慣れてきたのか、気にするのをやめたのか、他の仲間は朝食の準備を始めていた。
「女の子の寝顔を覗き見るなんて趣味悪いことなんだからね!」
ブライス達はレイチェルに怒られていた。
23歳って女の子って歳かとも思ったが、我が身を案じて黙っておいた。
「「「「「怒った顔もイイ!」」」」」
………。
総勢16人になった俺たちは、ヴォルフの町に向かう。ヴォルフの町まではもう一晩野宿が必要で、レイチェルが俺に今晩は寝るときに《エルフの外套》を貸して欲しいと懇願してきた。
まぁあれじゃ目覚めも悪いだろうからね。俺もさすがに了承したさ。
「そう言えばサハラさん達とキリシュさん達はパーティーを組んだんですか?」
そうエンセキが訪ねてきた。
キリシュがヴィロームでの苦労話から話しだし、長い長い苦労話を終え、俺たちとの再会までを話した。そして今では協力関係で、別行動こそするが仲間である事まで何とかたどり着いた。
「それ良いな」
エンセキではなく、無言でずっとそばを歩いていたブライスが答えた。
通常、冒険者達はお互いがライバルであり、常に何かする行動は大抵仕事であり、利益を得る事を最優先で考える。善意では飯を食っていけないからだ。
それを真逆のような考えをしている俺たちに、ブライスも感銘したようで俺たちも加わりたいと申し出てきた。
レイチェルを取り囲んで歩いていた、ブライスの仲間達も何か感づいたのか、そばに来てリーダーであるブライスに何の話か尋ねていた。
その間に俺はキリシュとどうするか相談してみると、エンセキは信用できる人だから、あの人が信用してずっと一緒にいるブライス達は大丈夫だと自信を持って言っている。ここで本当ならズィーにも相談したいところだが、偵察で先行している為それも出来なかった。
まぁ癖は強いが、悪い人達じゃあなさそうだからいいかな?
ブライス達も話がまとまったようで、俺の返事を待っているようだ。
「それでは今日から仲間という事で、お願いします」
「こちらこそよろしく頼むな。大将」
「やめてくださいよ。仲間なんだから上下関係は無しです」
「ならその畏まったのも辞めてくれな?」
「う…分かった…よ」
そんな感じでブライス達も仲間に加わることになり、俺はカイの元に使い魔のツバメに報告させに飛ばさせた。
これが良い選択だったのかエンセキ、ブライス達と出会い、仲間になってから魔物との遭遇もなく野営地点にたどり着けた。
歩きながらではなく、やっと落ち着いた場所に着いたついでに、改めて皆んなにエンセキとブライス達が仲間になった事を俺は伝え、お互いに握手しあったのだが…
「「「「「この手洗わねぇ!」」」」」
アイドルとの握手会かよ!
その後、ルールと言うか連絡のやり取りの仕方なんかを教えるわけだが、始原の魔術のところで一瞬迷い、思わずズィーを見てしまう。ここ数日一緒にいて、正直この中で俺が一番迷った時に頼りになる男だと思った。
ズィーも気がついて頷くと、俺の代わりにズィーが上手く説明してくれたので助かった。
「始原の魔術って言ったら、魔法の大元って言われるやつだよね!サハラは凄いなぁ…あんな諸刃の剣みたいな魔術使おうとするなんてさ!」
リプトは羨ましそうにではなく、俺をマトモじゃないかの様に言ってのけた。
まぁ確かに2回使った2回とも、俺の想像以上の結果が出ているから、リプトの言うことも分からないでもないな。
ひとまず説明も無事終わり、始原の魔術の事も上手く伝えられることができた。
見張りの順番も人数もいる事だしと、小分けにして一人一人の睡眠時間を出来るだけ長くとれる様にすると、レイチェルに《エルフの外套》を渡して休む事にした。
翌朝何事も起こらずに朝を迎え、朝食を済ませると、ヴォルフの町に向かう俺たちにブライスが注意をしてきた。
「こっから先は多少魔物が増えるんだけどな。雑魚ばかりで危険も少ないわけだが、農地で畑も多いから傷つけない様にな?見張りで雇われてる冒険者に見つかったら、膨大な賠償金請求されるからな」
しばらく街道を進んでいくと、ブライスの言うように畑や果樹園のようなものがチラホラ見えてきて、あちらこちらで害虫、害獣と戦っていたり、追い払ったりする冒険者達の姿が見えた。
「良い香りがあちこちでするわね」
「そうね、新鮮なフルーツが食べられそうだわ」
「甘くて美味しそうな香りなの」
「ヴォルフの町に着いたら、買って食べましょう!」
女性陣はフルーツの香りに魅了されているようで、ガールズトークに花を咲かせているようだ。
人を狙って魔物が近寄るわけではないため、俺たちが街道を歩く限り、襲われる心配もなく夕方にはヴォルフの町にたどり着く事ができた。
町中は夕方にもかかわらず今まで見てきた他所の町とは違い、人が行き交い、キャッキャウフフなカップルも結構見られ、ヴァリューム以上の活気を見せていた。
エンセキがお勧めの宿屋に連れて行き、部屋を取って支払いを済ませるとレイチェル、セーラム、セレン、エラウェラリエルの4人は、そそくさと町へ出て行ってしまった。
「女性はやっぱり甘いものに目がないですね」
「俺も一緒に行きたかったな」
「フルーツを頬張るレイチェルちゃん、堪らんぞ!」
「ブライス達はやっぱりそっちなんだね」
「「「「「当然!」」」」」
夕飯まではまだ時間があるため、それまで各自思い思いの行動をしはじめる。
キリシュ達は冒険者ギルドに向かったようで、ブライス達はエンセキと売り物の取り引きを済ませると出て行った。
残された俺とセッターは、待っているのも暇だと男2人で町をぶらつく。
「本当に凄い活気のある町ですね。お!」
「うん、ヴィロームとヴェニデとは雲泥の差だね。ん、どうした?」
「いえ、ちょっとあれ良いなと」
ん、コイツ実はそっち系だったのか?
「ネックレスじゃないか。セッター男の癖にそんなの身につける気なのか?」
「いや、俺じゃないですよ。その…」
「ん〜?好きな子にでもいるのか?」
「そういうんじゃないですよ、そのレイチェルが着けたら、その、似合うかなって思ったんですよ」
そっち系じゃなさそうで一安心ってとこか。
「へぇ〜〜〜そうなんだ」
「…何ですかマスター?」
「いや、別に?」
意外だった。どうやらセッターの奴は、レイチェルに気があるみたいだ。
しかも結構肉食系のようで、行く時は行く達のようでネックレスを購入していた。
俺は他愛のない会話なら誰とでも出来る方だと思うが、男女関系の話の方になると、自分からグイグイ行ける方じゃないから正直セッターが羨ましく見える。
「マスターはいいんですか?」
買い物を済ませたセッターがそんな事を聞いてきた。
「俺が?誰に?」
「またまたぁ、マスター結構エラウェラリエルさんのこと、あれなんじゃないんですか?」
あれってなんだあれって…いや確かにエラウェラリエルはエルフだし美人だと思う。でもだからと言って、エラウェラリエルが俺の事を気にかけてるとは思えない。
「マスターってそっち方面は鈍いですよね」
「ウェラが俺に恋愛感情なんてあるわけないだろ」
「やっぱり鈍いですね。マスターって結構ヴァリュームでも人気あったんですよ?」
なんと!全く気がつかなかったが、どうやら俺は結構モテていたそうだ。
セッターがコレなんて良さそうですよと、商人顔負けで進めてきて、俺もちょっとその気になり手を出そうとしたが、その時フッとルースミアの何とも言えない表情の顔が脳裏に浮かび手が止まる。
「いや、やっぱり俺はいいよ」
手を慌てて引っ込めて言った俺の顔を見たセッターは、様子から感づいたのかあからさまに話を変えてきた。
「あ、そうだマスター、セーラムの服を売ってる店探しましょう。この町なら良いのが見つかるかもしれないですよ」
「あぁ、そうだね」
その後は適当に服を扱う店を見て回り、いい時間になった頃に宿屋に戻って行った。
読んでくれてありがとうございます。
次回更新は来週までに溜め込んで更新させる予定です。
続きものの為、前作[凡人の異世界転移物語]を読んでいただかないとわからない事が多々あり、ご迷惑をおかけしているかと思いますが、前作は転移物語とルースミアが主体でしたので、一区切りにさせてもらいました。
誤字脱字、説明不十分などありましたら、出来るだけ対応させていただきますのでお知らせください。
また、感想もいただけたら筆が進みます。




