久しぶりの再会
ヴェニデの町から3日が経った。
朝食を取り、エラウェラリエルが魔法の選択をしている間に、昨日の男ゲラルドルフの火葬を済ませた。
街道を歩いているとやはりと言うか当然昨日の話になる。
人間離れした力に俺を狙っていたこと、そしてなにより魔法の武器でないと倒せないことだ。
「もし魔物だったとしたら何に該当するのかしら?」
セレンは魔物前提にして考えてみているようだ。
こういう話になった時、宿屋で今まで普通に育ったレイチェルは知識がない為、ほとんど喋ることがない。それはセーラムも同じでセッターも従者として下働きのようなことしかしていない為無口になるが、話をしっかりと聞いて学んでいっているようだ。
キリシュ達は結構冒険者期間が長いみたいだが、それでも昨晩の様なことは経験が全くなかった様だ。
俺は皆んなが話し合っている事よりも、俺だけを狙っていた事が気になって仕方がなかった。
考えられる原因はただ1つだけ、レフィクルを隠れ見ていた事だけだ。
だが、仮にそれが原因だったとしても、昨日のあの男ゲラルドルフが俺を認識しているのはおかしすぎる。
何故なら、レフィクルが町を出て行った後に俺たちは町を出た。そうなるとレフィクルがゲラルドルフに指示を出す時間はなかったはずだ。
仮に使い魔を使ったとしても、言葉だけで俺の容姿まで認識させる事は出来ない。
そんな事を考えていると、いつの間にか心配そうな顔をしたセーラムが俺を見上げていた。
「パパ、大丈夫?
昨日の人凄く邪悪で、あたし怖くて何もできなかったの…」
キリシュ達の会話に飽きたのか、1人考え込んでいる俺を心配したのか俺の側にくっつく様に歩いている。
心配させるのも良くないだろうと、俺はこの事を考えるのをやめて、セーラムと話しながら歩いた。
結局野営地点に着くまで、キリシュ達はゲラルドルフの事で盛り上がっていたようだった。
「昨日今日が日数的にちょうど中間地点になるけど、色々ありすぎてもう何日も経った感じがしますね」
「さすがに今日はこのまま何事も起こらないで欲しいもんじゃな」
「そ〜んな事言ってるとフラグがたっちゃうわよ?」
「レイチェル、俺のセリフを取らないでくれよ。で、ズィー、この辺はやっぱり危険なんだよね?」
「もちろんだ。そもそも町から離れて安全なんてないがね」
そらそうだな。
野営と食事の準備をしながら、そんな他愛もない会話をしていた。
「馬車が来るわ。商隊かしら」
見張りをしていたセレンが俺たちに知らせる。
作業を一旦やめ様子を伺っていると、馬車は声が届く距離まで来ると制止した。
「おーい、そこにいる人たちは冒険しゃあああぁぁああっ!
レイチェルちゃんがいるぞぉ!」
「なに!マジか?」
「俺が見間違えるはずないな」
護衛らしい冒険者が声をかけてきたが、途中でレイチェルに気がつくと突然喜びだし、警戒もよそに商隊の馬車ごとこっちに向かってきた。
馬車の馬は馬ではなく、ラバだったが…ん?前にもこんな事あったような…
「あ、サハラさんとキリシュさん達じゃないですか」
「エンセキさんじゃないですか!久しぶりですね」
キリシュ達と出会ったきっかけでもある、商人のエンセキだった。
なるほど、ラバもエンセキの時だったか。
そしてその護衛についている冒険者達は、5年以上前からレッドエンペラードラゴンインを、レイチェル目当てで宿泊しまくっていた冒険者達だったらしい。
「こんなところでレイチェルちゃんに会えるとは俺たち最高にラッキーだな!」
「しかも超ベッピンさんになってるときたもんじゃ!」
「ありがとう!」
レイチェルのほうはレイチェルのほうで奇妙な盛り上がりを見せていて、俺たちには眼中にないといった感じだった。
エンセキ達と野営をする事になり、俺たち10人にエンセキとその護衛の冒険者5人で、16人とかなりの大人数になった。
食事をしながら、エンセキとあの後の話を聞いてみた。
ヴァリュームに戻った後、結局ガウシアン王国領になるまでは居たそうで、その後はすぐに物資が大量に必要になるだろうと商魂逞ましく各地を転々としたそうだ。
「お陰さまで懐はぽっかぽかですよ!」
と、何故かぼってりしたお腹を叩いていた。
今護衛をしている冒険者達は、その頃からずっとお世話になっているらしく、今では信用できる仲間のような状態らしい。
リーダーがブライスと言って人間の戦士、ドワーフ戦士のベアリンク、人間で神官のグレーン、人間でウィザードのリプト、最後に猫獣人のリューダーの5人だ。
エンセキにざっと教えてもらっていたら、1人が気がついたようで、オイ!と仲間に声をかけると俺の方に集まってきた。
「いやぁすまないな。ついレイチェルちゃんに会えて、すっかり自己紹介を忘れてたな!」
そう言うと一人一人律儀に自己紹介をし始めた。のだが…
「俺はブライス、ここのリーダーをしていてな、レイチェルちゃんへの想いは誰にも負けないな」
「フン!何を言うか!ワシの方が想いは上じゃい。っと、ベアリンクじゃ」
「グレーンです。【商売の神ニークアウォ】の神官です。そしてレイチェルさんの神官でもあります」
「リプト、ウィザードだよ。皆んなレイチェルさんの事ばっかだね」
「ふっ、ムッツリの君がどの口を開くんだか。リューダーと言う。レイチェルさんのハートをいつか盗んで見せる」
…………。
固まった。俺ら全員がその自己紹介に固まってしまった。
「ふ、普段はこんな感じじゃないんですけどねぇ」
慌ててエンセキが助け舟を出すが、それでもしばらくは固まってしまった。
「皆んなどうしたの?面白い人達でしょ?ん?」
あれを簡単にあしらえるレイチェルも凄いよ。キャバ嬢出来るよ。キャバクラ行ったことないから知らないけどさ。
で、なんとか持ち直した俺たちも自己紹介をしていくのだが、ここでまた…もはや事件といった方がいいだろう、が発生してしまった。
「せ、セーラムなの…」
「「「「「おおおおおおおお!」」」」」
そのどよめきに怯えたセーラムは俺の影に隠れる。
「「「「「ああぁぁぁぁぁぁ…」」」」」
マジでコイツら何なんだよ…
それにベアリンクよ、ドワーフはエルフと仲悪いんじゃないのかよ。あ、でもエラウェラリエルとボルゾイは仲悪くないか。
そんなこんなで自己紹介も終わり、俺たちはこれから行くヴォルフの町の情報を聞いてみることにした。
ヴォルフの町は元帝都の隣の町で、有事の際の支援物資のためのような町だ。
農工が盛んであり、レドナクセラ帝国だった頃の武器や防具、食糧などの大半がここで生産されていた。それはガウシアン王国領になった今も変わらず農工で生計を立てていて、高額な税収もなんのそのといった収益により、町は活気にあふれているそうだ。
「エンセキさん達はこれから何処まで行くんですか?」
「これから彼らの強い希望で、ヴァリューム…「エンセキ、ヴァリュームは中止だな」」
はい?とエンセキがブライスを見るとブライスの仲間達も頷き合っている。
「ヴァリュームへは、レイチェルちゃんに久しぶりに会いたくて向かう事にしたんだがな。
だけどそこにレイチェルちゃんはいない」
「なぜなら!ワシのレイチェルちゃんはここにいるからじゃ!」
「ふっ、何がワシのだ」
もうヤダ…
その後ブライス達とエンセキで話し合いが始まり、結果、一緒にヴォルフの町に行く事になった。
経費がぁと嘆くエンセキに対しブライス達は、宿代よりは安く上がったなと言われ黙るしかなかったようだ。
「そうと決まれば、もう休むといいな。見張りは俺たちでしっかりやるから、君達は安心して寝てくれな」
ブライス達が見張りを買って出たが、それでは申し訳ないと俺が言ったが、次いで出た言葉で諦めて任せて寝る事にした。
「「「「「こんな機会を見逃せるわけがない!」」」」」
何の事か何となく分かったよ。




