タイトル:ダンシング・ウィズ・パンプキンス②~ブルー・ガールとチェシャ・キャット~
差出人不明のインビテーション、凪を経由して聖エウセビオ学園の生徒たちに届けました。
今回は、あえて聖エウセビオきってのクールビューティー、釘宮桃さんにスポットを当てて彼女の心をほんの少しのぞいてみようと思います。
さあ、どんなパーティーが始まるのでしょうか……
「僕だよ、僕。川西丈一郎だよ」
今日生まれて初めて、神に殺意を覚えた。
……本当に川西君? 確かに川西君は男だけどあたしより背は低いし、顔もどっちかっていうと中性的だから、まあ似合ってもおかしくはないんだけど……肩幅がちょっと広いことを除けば
「なんでなんで男の子なのにこんなにかわいくなるんだ?」
はあ、なんであたしは女なのに、こんなに女っ気がない見た目なんだ……
「あははは、ほら、奈緒ちゃんが本格的にメイクまでしてくれたから、そのせいだと思うよ」
苦笑して頬をかくけど……男のくせに、なんでそんなにかわいいんだ?
「おお、にあうじゃねぇか、ぎゃはははは」
この男は何かにつけて単純だな。
「なんだかよ、桃ちゃんよりも女っぽく見えるぜ」
ゴキッ!
「げへっ!」
うーん、右半身の骨盤と肋骨の間を的確にレバーをえぐるこの感覚、なんだか身に沁みちゃってる用で自分が怖いな。
「……あのな……本気でそろそろ人体の急所ばかり狙ってくるのはやめろ……本気で死ぬぞ……」
バカが苦しそうに息を詰まらせて何か言ってるけど、まあ聞こえないな。
デリカシーのない男の言葉に耳を傾けるほどあたしは暇じゃないんだ。
「……うーん、なんだかすごく似合うなー……似合いすぎだけど……」
奈緒が複雑な表情。
女同士ケンカが起きないように川西君をアリスにしたんだろうけど……マー坊と川西君を並ばせたら、本物の男女の組み合わせみたいに見えちゃうから、余計な心配してるんだろうな……
「とにかくっ! 桃ちゃん! はいこれっ!」
なんだかヤケだな……何だろうこの紙袋……ああ、これ
「これがあたしの衣装?」
大きめの紙袋の中に、ビニールで小分けされた衣装らしきものが見える。
……なんか不安だな……
「わかったよ、とにかく着替えてくればいいんだろ」
しょうがないな、それじゃあたしも着替えて――
「――すいません、ちょっと仕度に手間取ってしまいました」
更衣室から響く、透き通るような声。
胸元のお菊空いたセクシーなエナメルのドレスに金色のハイヒール、ハートとスペードのマークの入ったロングタイツ、そして跳ねるようなウサギの耳のカチューシャと、おしりには小さな綿毛のようなしっぽ。
「こういう滑降するのは初めてですから、すごく恥ずかしい気もするんですけど」
バニーガールのような、ロリータのような、とらえどころはないながらもかわいらしさの中にセクシーさの入り混じった、これもまたかわいらしい女の子は頬を赤らめる。
これってもしかして……
「あ! 葵ちゃん! 思ったとおり、すっごく似合ってるよー!」
つややかな黒髪と、その清楚で美しい顔立ちは、やっぱりそう、あたしの親友、礼家葵だ。
「ほら、葵ちゃんってすっごいスタイルいいのに、いっつもおしとやかな格好ばかりしてるんだもん。ちょっとセクシーな葵ちゃんの姿も見てみたかったんだー!」
なるほどね、確かに葵はいかにも大和撫子、って感じの日本人形みたいな女の子だから、新鮮な気もするな……うん……やっぱり、出るところは出てるよね……
ってやかましい!
「葵ちゃんの衣装はね、マーチ・ヘア、“三月ウサギ”なんだ」
ああ、あのお茶会に出てくる、居眠りばっかりしているあのウサギか。
それにしても……本当に葵はスタイルいいなぁ、女の子らしいっていうかなんというか……これなら学園の男子がみんな葵に夢中になるのもわかるよなぁ。
「……えと……」
なんだ? 葵が伏し目がちに、顔を赤らめたままマー坊に近寄ってくぞ?
「……あの、真央君……わたくしのこの格好、どうですか?」
頬を赤らめながら、上目遣いでマー坊の顔を覗き込む。
……恥ずかしがって胸元に腕を寄せてるけど……あのさあ、見えてるんだよね……谷間……
「お? お、おお、ん、まあ、な」
しどろもどろになるマー坊の顔、何真っ赤になってんだよ。
そりゃあ、確かに葵はかわいいし、スタイルもいいし、女の子らしいけど、あんたは露骨すぎんだよ、鼻の下伸びまくってるからな。
「本当ですか!? すごくうれしいです!」
葵の顔には大きな微笑み。
ま、好きだって言ってる男に褒められるんだから、そりゃあ、そうなるよな。
「……あの……真央君も、そのタキシード姿にウサギの耳……すごく格好いいです……」
……まあ、それは……うん、あたしも認めるよ。
「ま、今日はマー坊君は僕のエスコート役だけどね」
そのマー坊の腕にしがみつく美少女……もとい美少年。
もう、女の子にしか見えないアリスの川西君。
「だーっ! 気持ちわりいんだよ!」
マー坊はその手を振りほどいて、いつものように川西君御玉を殴りつける。
「いたたたた……ははは、ごめんごめん」
謝る川西君……くそう、かわいいなあ……ていうか、傍から見ると男の子がかわいい女の子を殴りつけているようにしか見えないんだけどな。
……ていうか、川西君って、そういう気があったりするんだろうか……これだけ女装が似合う男って……
……あーあ、葵も複雑な顔してるな。
当然か、アリス役をめぐって喧嘩するよりは確かにいいかもだけどさ、川西君があんなにかわいい女の子になっちゃうなんて思いもしなかったからな。
「おお! お、御三方! すっごくかわいいっす!」
うわっ!
誰だよ! 後ろ手鼻息荒く名は仕掛けるのは……って、なんだ!? あの着ぐるみは!?
「どわっ!」
さすがのあの無神経男もびっくりしたみたいだな。
「なんだ、この饅頭みたいな着ぐるみはよ!」
……よく見るとこの着ぐるみ、なんかタマゴみたいな……ってことはこれって……
「は、は、は、ハンプティー・ダンプティーっす!」
興奮しながら叫ぶ、そのむき出しになった顔を見れば……なんだ、レッド君じゃないか。
「じ、自分、電撃バップのコスプレしかしたことなかったんですけど、こ、こ、こういうのも面白いっすね!」
……ていうか、コスプレしたことがあったのか……
「わっかんねーよ! 何だよハンプティー・ダンプティーって!」
顔をしかめてマー坊が叫ぶ。
そうか、この教養0男は、ハンプティー・ダンプティーも知らんのか。
「真央君、ハンプティー・ダンプティーって言うのはですね――」
柔らかく微笑みながら葵がマー坊にハンプティー・ダンプティーの事を教えてやる。
「んー、何かわかんねぇけど、世の中には変な奴もいるんだな」
……この男、きっとハンプティー・ダンプティーを未確認生物か何かと勘違いしてるな……
ガチャッ!
「じゃじゃーん!」
ん? また誰か着替えを……って……
「こ、こら奈緒! なんてはしたない格好してるんだ!」
はしたないなんて、ハロウィンで使うもんじゃないなんてあたしだってわかってるよ!
け、けど、これは姉として言わせてもらうよ!
ピンクとパープルのボーダー柄のフェイクファーのブーツと猫の耳、そしてショートパンツと……零れ落ちそうな胸をかろうじて支えるようなビキニ。
「それってもしかして“チェシャ猫”か? にしたって、ちょっと……ちょっとじゃない! 露出しすぎだ!」
ていうか、奈緒、あんた自分がどれだけ胸がでかいか知っててやってるのか?
葵なんて問題にならないくらい露出が激しすぎるぞ!?
……ほら見ろ、男どもみんなあんたばっかり見てるじゃないか……主にその……谷間を……
あぁもう! なんであたしだけこんなに女らしいスタイルじゃないんだ!?
……ていうか、川西君もか……一応、女の子に興味はあるんだな……ってそういう問題じゃない!
「だってー」
ぶううう、いつものようにすねた顔の奈緒。
急に葵とあたしの肩を抱いて……いったい何だ?
「……だって川西君がこんなにかわいくなるなんて思っても見なかったんだもん。私は私のチャームポイントアピールするしかないんだもん」
……成程、やっぱり自覚はあるわけね……そのでっかい胸元に。
「……そうですね、私も精一杯アピールすることにします……」
葵はちらっと川西君を見る。
「……男性に女性的な魅力で負けてしまったら……私、たぶん一生立ち直れないような気がします……」
……悪い、あたしはもうすでに川西君にもあんたたちにもコールド負けしたような気分だよ……




