ダンシング・ウィズ・パンプキンス~ピンクガールの憂鬱~
聖エウセビオ学園にかよう釘宮家のもとに、一通の手紙が届く。
それは、ハロウィン・パーティーへのインビテーションカード。
姉の桃、妹の奈緒、そして同居人の秋元真央は、友人たちを誘いそれに参加することを決めるが……
え? あたし?
あたしは誰かって聞かれても……まあ、名前だけなら、うん。
あたしの名前は釘宮桃。
聖エウセビオ学園に通ってるんだけど……君もなのか?
ごめんごめん、あたしA組なんだけど、部活とか以外であんまり友達とかいないからさ。
どこ行くのって言われても……まあ、なんていうか、“気の進まないパーティー”に参加しに行くところ、かな。
……もしかして君も? 差出人不明のインビテーションカードが来たの?
そっか、なら話は早いな。
いや、あたしは別に行くつもりはなかったし、アメリカにいた頃はともかく、日本に着てまでハロウィンパーティーをしようなんて、思いもしなかったんだけど……一人うちにこういうのが大好きなのがいてさ……まあ、妹なんだけど。
……知ってるの? うん、あたしの妹、釘宮奈緒。
そっか、あいつ結構有名人なんだ。
まあ、奈緒もいろいろ斜め上にぶっ飛んだ性格してるからね、今年の部活動紹介の時とか思い出してくれれば分かると思うけど。
……そりゃあ、まあ、確かに君の言うとおり、女の子らしくて、姉のあたしが見ても、うん、すごくかわいい子だな、とは思うけど……こう、ほら、あたしよりもいろいろと……発育とか……
そんなことはどうでもいい! とにかく、奈緒がそれ見つけちゃって大騒ぎしちゃってさ、皆で参加しよう、って言い出したんだ。
あたしと違って、あの子アメリカで暮らしてたのすごく小さいときだけだから、ハロウィンをコスプレイベントかなんかと勘違いしちゃっててさ……実際、日本だとそういうところもあるみたいだけど。
……いや、あたしはさっき言ったとおり、日本に来てまでハロウィンなんてやるつもりもなかったからさ、当然反対したよ。
だけど、あの子の常套手段なんだけど、目を潤ませて頼み事するんだ。
あの子の目って、くりっとしてお人形さんみたいなんだけど、それがあんなにうるうるして頼んでこられたらさ……それこそ地獄の閻魔大王だって、大魔王サタンだって断れないと思うよ。
しかもまた、うちには1人めんどくさいのがいてさ……
……ああ、それも知ってるんだ……ったく、あのばかどもが余計なことしゃべるから……そう、うちの同居人、えと……いとこ……いとこの秋元真央ってやつ。
……だから! 同棲じゃないっての! 同居してるだけ! いとこ同士だって!
……うん、そう、ボクシング同好会の。
奈緒のやつ、あたしがOKだしたらもう大喜びでさ、「じゃあ、マー坊君とか、葵ちゃんとかみんな誘って参加しようよ!」なんて言い出しちゃってさ、あの子がああなっちゃったらもう誰にも止められないんだ。
……わかる? そう、あのマー坊って奴はすくいようのないバカなんだ。
奈緒がハロウィンパーティーに参加しよう、って話をしたらさ、「名前は聞いたことあるけど、ハロウィンって何すりゃいいんだ?」ってきたわけ。一から説明してやろうかとも思ったけど、あいつに難しい話理解させるのは犬に二足歩行教え込むくらい無意味なことだからさ、その辺に奈緒に任せたんだ。
そしたら「とりっく・おあ・とりーと? あれか、要するに、お菓子カツアゲて、文句言う奴ぶん殴る、ってことか?」
……そうだね、どこをどう解釈したらそういう物騒な解釈になるのか、頭をかちわって中身を見てやりたい、ってあたしも思ったよ。
面倒くさいから一発頭を引っぱたいて、余計なこと考えずに、細かいところは奈緒に任せとけばいいって教えてやったんだけどね。
……まあ、確かに女のあたしが男の頭をぶん殴るのもどうかと思うけど、あいつは死ぬほど頑丈だから、これくらいどうってことないんだよ。
そんなこんなで、あたしもマー坊も、わけわかんないインビテーションに従うことになったんだけどね。
まあ、会場の地図見たら学校の旧校舎だし、たぶん学校が用意したサプライズイベントだと思ったからなんだけどね。
そのあと、奈緒がクラスメートの葵と川西君、それと後輩のレッド君に連絡したんだ。
そしたらみんなのところにも届いてたって言うから、みんなで参加することになったんだ。
でもあたしも仮装用の衣装とかもってないし、どうしよう、って思ったら、レッド君の知り合いがそういうのいっぱい持ってるから、レンタルしてくれることになったんだ。
……そうなんだ、レッド君って本名は瀬川隼人って言うんだけど、“電撃バップ”っていうなんか返信ヒーローみたいなのが大好きみたいでさ、そこから取られたあだ名らしいんだけど……まあ、ようするにそういうアニメとか特撮とかが大好きな人なんだ。
それで奈緒が大体のサイズと、誰がどんな衣装を着るかを指定して、それで会場で着替える、ってことになったわけ。
……え? うん。あたしもあたしがどんな仮装をさせられるか、全然把握してないよ。
……さっきも言ったけど、あの子かなりぶっ飛んだことするから、そりゃあ心配だけど、もうあの子を信用するしかないよ。
君も参加するんだろ? うん、じゃあ、一緒に行こう。
あんまり気乗りしないけど、奈緒も葵も皆楽しみにしてるみたいだから、あたしが盛り下げても悪いしさ。
ま、できる限り楽しんでみるよ。
……ここが旧校舎か、初めて来たけど、やっぱり古いな。
……うん、じゃああたしはあいつらと待ち合わせしてるから。
君もこれから着替えか。
それじゃ、会場でね。
……まあ、いくら広いって言ってもこの学校中で迷子になるなんてことはないから、まぁいいか。
えっと、とりあえず、一階のホールに集まればいいのか。
「あ、桃ちゃん! 遅かったじゃん!」
これがあたしの妹の桃。
……見ての通り、あたしと違って“ザ・女の子”って感じなんだよね……あたしの妹なんだけど、奈緒はお母さんに似なんだ。
あたしは……父親似としか言いようがない。
「えへへへへー、レッド君ね、あたしのイメージどおりの衣装もって来てくれたんだよー」
「い、いえ! 奈緒さんの指示がかなり的確でしたから!」
この子がレッド君。
見ての通り、ちょっとぽっちゃり気味なんだけど、これでもかなり痩せたんだ。
それに、すごく根性があってさ……まあ、あんまり詳しくはいえないけど、ある事件があってさ、その時すごく芯があって強い意思のある子なんだ。
「じ、自分、すごいコスプレが好きな友達がいまして、そ、その友達から借りただけっすから」
……まあ、ちょっとオタクっぽいってのはさっき言ったとおりか。
「っていうか、もしかして参加してるのあたしたちだけか?」
学校で開催するくらいだから、学校全体でのパーティーだと思ってたんだけど、違うのか?
それにあいつらの姿も――
「それに、マー坊とか葵とかはまだ来てないのか?」
「あ、マー坊君も丈一郎君も、葵ちゃんももう来ているよ。ほらあっち」
奈緒が指出した先に……“更衣室”か、さすがに着替えるスペースだけは確保してはあるんだな。
「それでね、レッド君から衣装受け取って、今もう着替えているところなんだー。えへへへへへー」
ほんとにこういうイベントごとが好きなんだな、この子は。
……どうにも釈然としなかったけど……まあ、この子がこんなに楽しそうなら、いいかな。
ガチャリ
「んだよ、なんか気持ちわりーな」
……そう、あいつがマー坊。
……そうだね、確かにスタイルはいいと思うし、顔も……うん、割に整ってると思うけど……え? バ、バカなこと言うな!
えっと……あいつに対してあたしは別に何の特別な感情もないから!
まあ、葵とか奈緒はともかく、あたしはあいつを異性として見ているつもりはなくて……弟、みたいなもの……かな?
……ていうか何だ? あの恰好。
「おう、桃ちゃんじゃねーか。はろうぃんってのは、こんなスカした格好してお菓子カツアゲしようっつーもんなんか? アメリカ人の考えることはわかねーな」
あたしにはあんたの思考回路の方がわけわかんないよ。
「ていうか、君の恰好、それは何をイメージしているんだ?」
タキシードに蝶ネクタイ、そして頭には白いウサギの耳のカチューシャ。
普段ブレザーかジャージー、それかすすけた学ランくらいしか見たことないから……何かちょっと新鮮かもしれない。
「わー! マー坊君恰好いい!」
奈緒が目を輝かせて叫んだ。
……あの子、本当にマー坊のことが好きなんだな。
……たしかに……一般的に言ったら……あくまでも、一般的に言ったら、ってことだぞ!? うん……基本的にあいつスタイルいいし……すごく……似合ってはいる……けど、ね。
「あのねー、今回のあたしたちのグループのテーマは」
ほうほう、何かテーマがあったのか。
「じゃじゃーん! 『不思議の国のアリス』でーす!」
へー、ってことは
「じゃあ、マー坊の衣装、これって」
「そう!」
満面の笑みで奈緒が笑ってる、ふん、かわいいじゃないか。
「アリスを不思議の国に導く“シロウサギ”さんでーす!」
「なかなか面白いじゃないか」
うん、せっかくの仮装なんだから、仲間同士でテーマを決めた方が面白いものな。
ってことは……
「だけどさ、肝心の『アリス』はだれがやるんだ?」
もしかして、奈緒がやるつもりなのか?
「えへへへへー、それなんだけど……」
困り顔で愛想笑いをする奈緒。
こういう時のこの子のアイデアって、突拍子もないものが多いんだよな。
「やっぱりねー、アリスはかわいいし、それにほら……」
……ちょ、ちょっと!
何急に耳元に顔近づけてるんだよ!
……くすぐったいなあ、一体何なんだよ……
「アリスの格好って、すごく女の子っぽくってかわいいし、絶対だれがアリス役やるかでもめると思ったの。それに……アリスってシロウサギに導かれて不思議の国に行くでしょ? マー坊君のエスコートありになっちゃうから、絶対わたしと葵ちゃんと……取り合いになっちゃうもん」
なるほどね。
ったく、あんな男のどこがいいんだか。
壊滅的に頭悪いし、デリカシーのかけらもないし、洗濯物は臭いし、やたらと飯は食うし、服装のセンスもまるでないし、頭モジャだし、ボクシングしか頭にないし……全校生徒の憧れの葵まであんな奴を好きになったなんて、あたしには信じられないよ、全く。
ってそんなことはどうでもいい!
「じゃあ、だれがアリス役やるんだよ。あたしは絶対に嫌だからな!」
あんなひらひらした服着て、マー坊にエスコートされるなんて……まあ、あいつのことを好きな奴は喜ぶかもしれないけど……
「大丈夫。桃ちゃんはアリスって感じじゃないから」
……ええ、ええ、どうせあたしは胸もないし背も高いし色も黒いし、女の子の塊みたいなアリス役には向いてないですよ!
……自分で言ってて悲しくなるな。
だけど、だったら一体――
「だったら一体、だれが『アリス』役なんだ?」
「……最初は、すごく抵抗されたんだけど……」
と奈緒が言うが早いか
ガチャリ
男子用の更衣室の扉が開けられる。
……スカイブルーのワンピースの上に、エプロン状の白い生地、黒いリボンに飾られたシルクのニーソックスに黒のシューズ。
そして、たぶんウィッグだと思うけどロングの金髪、その上に黒い大きなリボン。
どっからどう見ても、フランス人形みたいなかわいらしい女の子、っていうか、美少女? だけど……
「君……誰?」
「あはははは、いやだな、釘宮さん」
……どこかで聞き覚えのある、男性にしては高いけど、女性にしては低い声……いや、まさかな……うん、そんなわけないよな、仮にもフライ級のボクサ――
「僕だよ、僕。川西丈一郎だよ」
今日生まれて初めて、神に殺意を覚えた。




