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一夜限りの仮装祭  作者: ひなた
ひなた 『兄妹だって、愛があるんだから大丈夫ですよね!』
1/8

仮装だって、可愛いんだから大丈夫ですよね!

 園田家に届いた一通の手紙。それは、恐怖のパーティーへと誘うものだった。

 仮装する声優たちと、ファンたちの様子。楽しくも恐ろしいパーティーをどうぞお楽しみ下さい。

『恐怖の仮装パーティーを開催する。

 さあ、いらっしゃい。とっておきの、恐ろしい格好をなさい。

 怖がり、怖がらせ。誰もを恐怖に陥れる、楽しいパーティーだから。』


 十月三十一日。

 俺の下にそんな手紙が届いた。コウモリやカボチャのお化けの絵が描かれているから、ハロウィンパーティーの誘いでいいのだろう。

 しかし、誰からなのだろうか。差出人も住所も書いていないのだから不思議だ。

 ポストにわざわざ入れに来た、ってこと? まあ、行ってみれば分かることだろ。

「お兄ちゃん! 舞踏会の招待状が届いていました」

 手紙を見て首を傾げていると、元気な声が聞こえて来た。妹の夏海である。

 因みに、俺は園田冬樹。妹の七光りもあり、声優として仕事をしている。

「夏海はもうお兄ちゃんのものだから誰が口説いたとしても無駄ではありますが、舞踏会の華となる為に出場してあげてもいいでしょう」

 何を言っているのかと見てみれば、夏海も俺と同じ手紙を受け取ったようだった。

 俺が帰ってから夏海が外に出た様子がなかったから、俺より先に受け取っていたんだろう。そして夏海が取らなかったと言うことは、夏海が見たときに手紙は一枚しか入っていなかったんだろうね。

 つまり差出人は、夏海が帰宅し手紙を持っていったことを確認してから、俺が帰宅するまでの間に再び同じ手紙をポストに入れたと言うことだ。

 この近くで待機していたのかな。それはまた、大変なことを。

「仮装パーティーみたいだよ? 夏海も行くのかい」

 夏海も、と言ったように俺は行くつもりでいる。

 そしてこの妹が行かないと言う筈がなく、元気良く首を縦に振った。首が折れるんじゃないかと思ったくらいだ。

 普段から元気な夏海ではあるけれど、このハイテンションは異常なレベルだ。 

 それだけパーティーを楽しみにしている、と言う解釈をしていいのだろうか。

「会場も書いてあるし、衣装だってもう用意されているみたいだね。まあ、行かないって言っても連れて行かれるだろうね」

 軽い苦笑いを浮かべ、俺と夏海は家の外に出る。

 予想通り、そこにはアリスちゃんが待っていてくれた。高級そうな黒い車に乗せられ、暫くそのまま揺られている。

 正直、仮装パーティーなんて出たことがない。

 用意されているとは書かれていたが、何の衣装かは書いていなかった。何に仮装させようと言うんだか。

「衣装さーん、間違えてるみたいなんですけど」

 会場に到着して衣装を見ると、俺はついそう言ってしまっていた。

 夏海のところには魔女の衣装が、俺のところには黒猫の衣装が用意されていた。

 夏海はいいと思う。黒いマントに大きな三角帽、箒まで付けて完璧な魔女衣装だ。そんな服さえ着こなし、可愛さを感じさせるのだから夏海はさすがだ。

「お兄ちゃんも早く着替えたらどうですか? 夏海はもうお着替え終わっちゃいましたよ」

 俺の下に用意されていた衣装になんの違和感も感じていないのか、夏海はそんなことを言ってくる。

 黒猫。上は胸元が大きく肌蹴ていて、下は物凄く短いミニスカート。その下にはブルマのようなものが付いているから、ミニスカートの存在意義が分からない。

 女子が穿くならば男子の夢の為になのだろうが、俺が穿くんじゃあな。

 それに、これを穿く為にはパンツを脱がなければ見えてしまうと来た。誰がそんなことを望むのか。

 生足を完全露出かと思えば、さすがにそうではないらしい。

 真っ黒の長い靴下と、同じく真っ黒の長い手袋が付いていた。しかし、太股と肩は露出されている。辛い。

 恥ずかしいと思う仕事はあったが、ここまでのものはなかった。

「これも仕事です。ね? ねえ、お兄ちゃん。園田冬樹の存在を世に知らしめましょう」

 なぜ世に知らしめる必要があるのかと問い質したいが、仕事だと言われてしまってはどうしようもない。

 お金が頂くとのことなので、始めから俺に拒否権はなかったんだ。

 ただ疑問がある。

 カッコ良さげのことをすれば、もしかしたらファンだって増えるかもしれない。アイドルじゃないけれど、そんな宣伝方法もあるんじゃないか。と思わないでもない。

 それでも、この女装でどうしろと言うのだろうか。

 こんな格好で出て行ったら、名が広まると言うよりは女装癖の男となってしまう。女装声優、恥ずかしいな。

「分かったよ」

 皆、仕事だって分かってくれる筈さ。

 なんとか自分を納得させて、夏海を追い出すと着替えに入る。鏡が置いてなかったのも、こうなったらむしろありがたいかもしれない。

 出来ることなら出て行きたくないが、連れて行かれて仕方がなくパーティー会場に出る。

「可愛いじゃないか。冬樹ちゃん」

 知り合いには出来る限り会いたくなかったのだが、いきなり邦朗に出くわしてしまった。

 からかうようにそう言う表情は、酷く腹ただしかった。

「気持ち悪い」

 しかし相手をしてやる気力もなかったので、一言そう言うとステージ上に上がった。

 因みに、仮装パーティーと言うこともあり邦朗も仮装をしていた。黒いマントに鋭い牙、吸血鬼のつもりなんじゃないかとは思う。

 アニメのイベントなのだろうか。

 ただハロウィン系の作品に主演した覚えがないんだよな。だとすれば、アニメではなくそのまま声優イベントなのだろうか。

 俺と夏海だけではなく、千博さんも呼ばれていたらしい。

 彼は仮装なのかどうか分からないが、西洋風の王子様衣装を身に纏っている。似合い過ぎて、それが普段着なんじゃないかと思うくらいだ。

 アイドル顔負けのイケメンで、女性ファンが千博さんの辺りに大勢集まっている。

 一応ステージには登れないようになっているんだが、千博さんの方からステージを降りて進んで握手をして回っている。

 さすが、としか言いようがない。

 でもまあ俺はこんな格好なので、そんな行動を取るのは諦めよう。と思い、用意されていた椅子に大人しく座っていた。

 スカートを出来るだけ引っ張って足の露出を減らすよう努力しながらも、客席の方を眺めていた。

 するとその中に、横島さんの存在を発見した。

 彼女に対しても、ある意味さすがとしか言いようがない。

「なーちゃんが出ると言うので、無理して来てしまいました」

 千博さんも椅子に座り、トークイベントが始まろうとしていた。そんなとき、可愛らしい声が聞こえて来て唯織さんが登場した。

 どこかにいるんではないかと思っていたが、普通にゲストとして登場して来てくれたから良かった。

 むしろ、登場しなかった方が不安になるくらいだからな。

 唯織さんは可愛らしい格好をすればいいものを、カボチャの仮装をしていた。

 三段に重なった雪だるまのように、顔の周りに一つ、胸元から腹部に掛けて一つ、腰から膝上くらいの辺りに一つ。おばけカボチャを纏っていた。

 そんなお笑い要素の強い格好でも、似合っているようで可愛らしかった。

 女の子らしい格好をすればもっと可愛かったんだろうに、とも思うけれどこれはこれで絵になっているんだから不思議だ。

 改めて感じる。唯織さんは凄いんだ。

 イベントに呼ばれたのは、司会者も含めて全部で八人のようだった。

 ただ、夏海と唯織さんと千博さん以外は完全に初めましてだと思われる。出演作品の多い夏海なら知っているだろうけどさ。

 直接会話する場所もなさそうだし、大丈夫だろう。

 それに、本当に初めましてならば構わない。けれどもし、どこかで会ったことがあるとすれば? 失礼極まりないな。

 それを考えどきどきしながらも、なんとかトークを乗り切る。

 その後は、来場者の方々にお菓子をプレゼントするとのことだった。

「お菓子くれなきゃ悪戯するぞー!」

 ハロウィンらしくそれを口にして貰い、手渡しでお菓子を配っている。

 ファンとしては、物凄く緊張してしまうんだろうな。俺だったら声が震えて、悪戯するぞなんて言えやしないだろうよ。

 誰にもその様子がないのは、仮装しているからこそなのだろうか。

 そんなことを考えながらも、俺もお菓子を渡す為に夏海の隣に立った。

 すると嬉しいことに、俺の元へとやって来てくれる方々がいらっしゃった。七人いる中で俺を選んでくれるなんて、心から崇めたいくらいだ。

 ただ失礼かもしれないが、もう少し豪華なお菓子を用意してはどうかと思う。

 ハロウィンの時期になるとコンビニで売っているようなペロペロキャンディーだった。別にお菓子を目当てに来た訳じゃないだろうし、問題はないだろうけどさ。

 うん。好きな人から貰ったお菓子には、お金で買えない価値があるんだよねきっと。プライスレスだよ。

「魔女や黒猫からお菓子を受け取るってのも、なんだか可笑しいよな。唯織さんや千博さんはともかく」

 知らない人にお菓子を配るということで、始めは多少人見知りすら発動させていた俺。まあ一応、笑顔を振り撒いて人見知りはばれないようにしているが。

 暫くするとさすがに慣れてきて、ふと思ったことを口にしていた。

 独り言のつもりだったのだが、聞こえていたらしく夏海がそれに答えてくれる。

「優しい魔女だって黒猫だっているでしょう? ひょっとしたら、毒が入っているって可能性もありますけどね」

 そう笑う夏海は、それこそ「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ」をそのまま表したのような表情だった。

 年老いたようなものではなく、若く可愛らしい魔女。魔女っ娘というその属性が、その衣装が、夏海に似合い過ぎていて怖いくらいだな。

 用意してくれた人には悪いと思うけど、俺なんて全く似合ってないだろうからね。

「冬樹様、とってもよくお似合いですよ」

「えっ?」

 心を見透かしたかのようなタイミングでそんな声が聞こえたので、驚いて聞き返してしまった。

 しかもそれを言ってきた方が男性だった為、俺を女かと思っているんじゃないかとすら考えてしまった。はっきりと名前を呼んだから、それはないみたいだけどね。

 ただ似合っていると言われて、喜ぶべきか喜ばざるべきか。

「ありがとうございます」

 とりあえず出来る限りの高い声と営業スマイルでそう言うと、そのままその方には去って貰った。

 というか、なぜ俺のこの格好に疑問の声が上がらないのだろうか。笑い声の一つも聞こえないし、トークのときにも女装しているという点には一つも触れられなかった。

 絶対に疑問は持っている筈なんだけどな……。

 まさか、俺に気遣って? いやいや、それならむしろもっと触れてくれるだろう。


 退場すると共に、俺は即行着替える。夏海がまだ戻って来る前に着替えを終えると言う、衝撃の早業を見せた。

「お兄ちゃん、とっても可愛かったですよ。DVD発売が楽しみですね」

 普通の格好に戻り漸く安心したところで、戻ってきた夏海がそんなことを言いよった。

 帰りもアリスちゃんが迎えに来てくれたので、行きと同じものと思われる高級そうな車の普通な車内で、夏海にどういうことなのか問い詰めてみた。

 質問すると、夏海は説明を始めてくれる。

 どうやら、仕事のオファーを父さんが既に受けていたとのことらしい。突然強制でイベントに連れ去られるだなんて、いくらなんでも可笑しいと思ったんだ。

 俺だけじゃなく夏海にも内緒だったんだが、夏海の方は途中で気付き、アリスちゃんにその推測が事実であることを確認済みだったらしい。

 なんにしても、こんな恥を掻かせた父さんをただで済ます訳にはいかないな。

「おかえり。夏海、冬樹、仮装パーティーはどうだった?」

 家に帰ると玄関で出迎えてまでそう言ってくれるのだが、俺の殺気を感じてか笑顔がかなり引き攣っている。

 俺よりよっぽど男らしい体はしているが、怯えている姿は実に情けなく思えた。

 いざというときには勇敢でカッコいい父さんなんだけどね……。

「ほら、お菓子やるから。な? それに冬樹、与えられた仕事はしっかりやるのが当然だろ? な、なあ。冬樹くーん、一旦落ち着きましょうかー」

 食べ物に釣られてしまったと考えると癪だが、父さんが振る舞ってくれた夕飯にすっかり俺は機嫌を直し、 ――三人揃うのは久しぶりだけど―― いつも通りの家族団欒を楽しんだ。


 翌日学校で、邦朗と横島さんに散々からかわれたのは言うまでもない。

 人生初の仮装パーティーは、恥と恥じらいという思い出を残してくれた。

 本編もふざけることは多々ありましたが、それ以上にはっちゃけたので、僕としても書いていて楽しかったです。

 園田兄妹をメインにしたので、他キャラは少なくなってしまいました。

 でもその分兄妹のパーティーを精一杯書きましたので、二人の可愛い姿を楽しく微笑ましく見て貰えれば幸いです。


 では、ハッピーハロウィンです。

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