第三話 狩りへ
(あの子…可愛かったな…)
いきなりで申し訳ないのだけれど、僕はあれからずっと彼女の事を考えていた。
他者を寄せ付けない雰囲気を纏っていながら、どこか悲しそうな目が、すごく印象的だった。酒場で働く他の子の楽しそうな様子を見て、静かに俯いていたその顔も、不適切な言い方だと思うけれど、可愛かった。
つまり僕はもう、彼女にベタ惚れというやつなのです。
気持ち悪いと思う。うん。ごめんね。
(そう言えば、あの子、名前は何て言うんだろう…)
名前も知らない。何も知らない。そんな事実が、彼女への思いをより一層強めているのだろう。僕はどうやら、神秘的で謎が多い子のことが好きなようだ。
「マレイ!ちょっといいかい?」
何て考えていると、女将さんからの呼び出しが。
「はい!すぐ行きます!」
とりあえず、あの子について考えるのはやめよう。今は仕事に集中しなければ…。
「ファッ!?」
アホみたいな顔と声で、女将さんを苛立たせた僕が、今日も元気にお送りします。よろしくお願いします。
「……………あたし、コイツとなんてやりたくない。他の人がいい」
ついでに彼女のことも苛立たせたようです。
「な…何で君が」
やっと口にした言葉は、余計に彼女を不機嫌にしてしまった。…でもさ、仕方ないと思うんだ。どうして、入ったばかりの彼女が…狩りに行く格好をしてるの?
言い忘れていたのだけれど、「アンジュ」はほぼ自給自足で生活をしている。店の裏の畑で野菜を作ったり、その少し離れた位置にある森でモンスターを狩ったりと、極力他の店に頼らないように。これはまだ「アンジュ」が酒場として賑わう前、お金がない時から続けているそうだ。
それらの事をするのは、大抵、長く働いてきた、信用出来る人らしい。ちなみに僕は、信用というよりは「逃げようがないから」だそうだ。…否定はできないけど。
とにかく、彼女は今日入ったばかりの新人な訳で、全く信用ならないと思うけど…。
女将さんはただ笑って、「じゃあ後は宜しく頼んだよ」等とのたま……言って、店の中に戻っていった。
「………」
「………」
「……あ、えーと、とりあえず行こう!道は分かる?僕が案内するから、はぐれないようについて来て!」
「別にいい。このあたりの地図は頭に入ってるから」
さいですか。
随分と嫌われてるなあ、とショックを受けながらも、いつも使う剣を手に、エルドラドの森を目指して歩き出した。
………………何が起きた?
僕は、モンスター達の死骸の上で、汗一つかかずに涼しげな表情を浮かべる彼女を、絶句して見上げていた。
えっと。
森に着いて。
モンスターを見つけて。
何かわらわら湧いてきて。
それを彼女が次々に薙ぎ倒して。
気がついたらこの状態。
え?え?何?強すぎないかな、女の子でしょう?選ばれし勇者的な子ではないよね?一般市民でしょ?何でこんなに強いの?
死骸の山を形作るモンスターの中には、僕がこの間2時間かけて倒したモンスターもいた。それを。一瞬で。
黙ったままの僕を振り返り、少女は言った。
「もう十分でしょ?早く帰りたいの」
「え……あ、う、うん!ごめん、帰ろうか!」
急いで袋にモンスターの死骸を詰め、そこから逃げるように歩き出す。
森を抜け、店へと戻る途中、彼女は僕をチラリと見て、言った。
「想像通りの弱さね、驚いた」
「……う」
落ち込む僕を見て、彼女はため息をついた。
「はあ…。弱すぎて見ていられないから、これからは一緒に行ってあげる」
「………え!?」
顔を上げると、彼女は…笑っていた。
「あたしはルル。よろしく、マレイ」
こ…これはッ!!
期待していいのかな!?
めくるめく展開が来ちゃうかなぁ!?
「よろしくよろしくよろしくッ!お願いされなくてもウザがられてもよろしくねっルル!うへへぇ可愛いなあエヘヘへ」
つい興奮してニヤニヤしていたら、ルルが静かに僕の首筋に剣を押し当てていた。
ルルの目は本気だ。
一遍の迷いもなかった。
僕は最善と思われる行為、DOGEZAをした。
「…やっぱりやめる。一人で狩りに行くわ」
「それ…それはダメだよ!女の子一人で狩りに行くなんて…君がいくら強くても危険だよ!」
口を突いてでた言葉に、ルルは押し黙った。
きっと怒っているのだろう。辺りはすっかり日が落ちて、ルルの表情は見えないけれど。
…暫く沈黙が続いた後、ルルは小さく、
「………………馬鹿じゃないの」
と呟いて、店の中に消えた。
暫く更新できず、申し訳ありません。
言い訳をさせて頂きますと、テスト期間だったのです。
すみませんでしたm(_ _)m