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第二話 美しい少女

部屋を出て、階段を降りるとある店、酒場『アンジュ』へと入る。中には既に数人の従業員がおり、忙しく働き始めていた。

僕はその中の一人、木箱を運ぶ少女に声を掛けた。

「ノエル、おはよう」

少女は一瞬固まり、驚いたようにふりかえる。

「あれ、こんな時間からマレイがいる!珍しいねー、おはよう!」

肩口で切り揃えられた、淡い緑の髪。大きな瞳が特徴的な少女、ノエル。彼女はここで、踊り子として働いている。明るく人当たりのいい彼女は、酒場に来る客から人気だ。

「いや、早く目が覚めちゃってさ。何もする事が無いから、たまには早く来ようと思って」

そう言うと、ノエルはあははと笑った。

「いつもこの時間に起きられたら良いのにねー」

「お、起きてるよ!今日はたまたまする事が無くて来ただけだから!」

「んん?あたし、いつもマレイを起こしてる気がするんだけどなー、気のせいだったのかな?」

ジト目で覗き込んでくるノエル。僕は応戦すべく見つめ返したけれど、耐えきれずに土下座した。

ノエルは非常にご満悦な様子でうんうんと頷いた。


「マレイに……負けた。…悔しい」

そんなやりとりをしていると、先程僕が入ってきた入口の方から、静かな声が聞こえてきた。その声で、それが誰のものなのか分かる。

「あ、フィルリア!おはよう!」

「おはようフィルリア。今日は遅かったね」

ノエルとは対照的に、物静かで落ち着いた雰囲気の少女。切れ長の目のせいか、可愛いよりは美人だ。腰まである長い髪が揺れ、花の香りが広がる。

「私はいつも通り……マレイが早い」

「フィルリアが食人について話してくれたおかげだよ。不気味な夢を見たんだからな!」

「ふ…あの程度の話で……怖くなったの…?」

「あーそんな可愛い理由だったんだ!」

「ち、ちが…たまたまだよ!」

馬鹿にしたように見てくるフィルリアとノエルに、ついムキになって言い返す。自分より3つも年下の少女2人に追い詰められて恥ずかしくないのかと問われれば、はい恥ずかしいです。

取り敢えず、こうしている間にも開店時間は迫ってきている。僕は2人から逃げ出すように、店の奥、厨房へと向かう。


厨房には、1人の女性がいた。褐色の肌に、引き締まった体。それとは逆に豊かな胸が、大人の色香を漂わせている。彼女こそがこの酒場の女主人であり、僕を引き取ってくれた人だ。

「女将さん、おはようございます」

「あら?珍しいじゃないか、マレイ!今日は土砂降りかねえ」

「女将さんまで…僕がこの時間にいるの、そんなに珍しいですか?」

女将さんは可笑しそうに笑って、そうさねえ、と呟く。

「エルドラドの森から、森の守護者が降りてくるくらい珍しいね」

「それって伝説級の珍しさって事ですか!?幾ら何でもそれは」

「マレイ、あんた前に早く起きてきたのはいつだい?」

「………働き始めた最初の日です」

「そういうことだ」

ぐうの音も出ない。

ごめんなさい僕がわるいです。


女将さんからも逃げるように、舞台の裏側-普段ならば誰もいない場所へと向かう。誰もいないのを確認し、ため息を一つつく。

「いつもより少し早く来ただけでこれだもんなあ…。失礼しちゃうよ、全く」

誰もいないその空間に、僕の声が溶けて消えていく。すると少しだけ、落ち着くことができた。

……朝のあいつも、結局、ただの夢だったのではないか。

夢じゃないと確認したはずなのに、どうしてもそう思ってしまう。それは多分、あいつが言ったことが当たっていたから。

「あいつ、まるで悪魔みたいだったな」

あの、禍々しくも美しい、黒い翼。心を見透かしたような態度。話に聞いた悪魔とそっくりだった。

馬鹿馬鹿しい。

悪魔なんているわけない。

僕の作り出した幻覚にすぎない。

そう考えることで自分を納得させようとしても、どうもモヤモヤする。

頭がぐちゃぐちゃで、苛ついて、頭を掻き毟る。きっと、酒場のみんなが見たら、偽物か何かだと思うだろう。普段の『僕』と、あまりに違いすぎて。

残念ながら、これが本当の僕だ。

家族をに嘘をついて、作り笑いで誤魔化して…それが本当の…。


「そう。それが本当のあんたなのね」


……。

………え?

「てっきり、只のひ弱なもやしかと思ってたわ。ちゃんと自分の意思はあるみたいね。…少し、見直した」

暗闇に突然現れた、美しい少女。

舞台裏に光が差して、彼女を照らし出す。

日に透けるようなブロンドの髪を1つに纏め、ノエルやフィルリアと同じ踊り子の衣装を着た、蒼い瞳が綺麗な少女。少女はまっすぐ、僕を見下ろしている。

「あたし、今日からここで働くことになったから、よろしく。……マレイ」

瞬間、心臓が音をたてて跳ねる。

朝のあれとは違い、どこか心地良い…。


思えば、このときから、僕の運命は既に決まっていたのかもしれない。

彼女に心を奪われた、このときから。

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