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姫巫女  作者: しずく
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巫女の館

いつも変わらない世界。

昨日と同じ日を毎日毎日繰り返す世界。

昨日と同じ今日を、そして今日と同じ明日を繰り返す世界。

もういい加減うんざりする。


「姫様。お時間でございます。お召し替えを。どうぞこちらへ。」

促す侍女の声音も微笑みもすべて昨日と同じ。

朝、毎日同じ時刻に、毎日同じ格好の侍女が起こしに来て、毎日同じデザインの服を着る。それが終わると大広間に移動して、広いテーブルにたくさん並べられた料理を一人で食べる。部屋に戻ればまた着替えて………。

―――でも………。


でもそれでいいのだ。

わたしがここで昨日と変わらぬ今日を、今日と変わらぬ明日を演じ続けていれば、わたしじゃない誰かが救われる。ううん。みんなが救われる。


『巫女』が『時の館』にて祈りつづける時、『世界』は安穏としているであろう。しかし『巫女』がその役目を忘れた時、『世界』は今の姿を忘れ去り崩れ崩壊するであろう。


これは、我が一族にのみ伝わる、(いにしえ)の伝承。

巫女とは、我が一族に時々生まれる異能を持った子供。

異能とは、普通の人は持っていない力ーー俗に言う超能力のこと。

そして祈るとは、異能を使って世界を支えつづけること。



人類は少し発展しすぎてしまった。人の欲は尽きることがない。最初はこれだけでいい。そう思っていたはずなのに、次第にあれもこれもと抱え込み、両手がいっぱいになると、袋を持ってきて詰め込みはじめる。またそれがいっぱいになると、今度は台車を持ってくる。



そうしてできた現代の世。

たとえるなら、はりでできた器の中に、熱湯を注ぎ入れているようなものだ。それでははりが……世界が堪えられない。熱湯を注ぎいれたはりが割れてしまうように、世界が壊れてしまう。


人界はいつからか分不相応の熱量を身につけてしまっていたのだ。


長年人類が追い求め続けたもの。もう人の手の平には収まりきらない程の量のそれ。でも人はどうにかして抱え込もうとする。自然の摂理に逆らって。人が本来手をだしてはならない領域にまで、手をだそうとする。

その代償はどこに来るのか。誰に行くのか。


昔、まだ今ほど文明が発達していなかった時代、わたしの祖先達は虐げられていた。理由は『普通』の人ではなかったから。まず第一に、わたしの身にも宿る『異能』があったから。これは一族のなかでも持っている者と持っていない者があったが。物を浮かせたり、何も無いところから何かを出したり、幻覚を見せたり。人を喜ばすことの出来る能力であったが、使い方によっては人を殺傷できる力であったために、恐れ忌まれた。その能力を持っているかどうかはっきりとわかるような印がなかった故に、異能持ちでない者も同じように忌まれた。

そして第二に、わたしたち一族を『普通』の人と区別できる印があったことが挙げられる。その印とは、肩甲骨から伸びる鳥の翼と酷似したそれ。これがあることから、わたしたちは烏族-鳥っ子と蔑称されることがある。もっとも、もっと大昔には、聖なる使いとして崇められていたそうだが。


そしてわたしの先祖………時の当首は契約した。世界が崩壊することを、独自の情報網などでいち早く察知した当時の権力者達と。

どれだけかかってもいい。我らが一族にむけられる差別を撤廃すると約束してくれるのなら、わたしたちは世界の崩壊を防ぐのに全力で取り掛かろう。

そんな内容だったらしい。


それから三百年程経った時まだ差別は完全撤廃に至っていなかった。

というのもいくら法で取り決めても、それは親から子へ語られる、お伽話や童話などにも入り込んでいたからである。その中で姿が普通ではないわたしたちは、異形の怪物として描かれていた。それがいつからか人をたぶらかし悪の道へ突き落とす悪魔として描かれるようになっていた。言うまでもなく、先祖が交わした契約の影響だろう。


御偉い様方は慌てた。慌ててとりあえずわたしたちを隠した。なぜならば、幼い子供にも語られるそれらの中で、彼等は悪魔の囁きに乗って堕落した人間として描かれていたからだ。

三百年も昔の人間が交わした契約のおかげで、自分達がそう言われるのに我慢できなかったのだろう。彼等はわたしたちを周到に世間の目から隠した後は、一切我らと交流を持たなかった。何が有っても知らぬ損ぜぬを押し通したのだ。



でもそれが良い方へ働いた。



存在自体を隠し、無視したおかげで、だれも有翼人がいると信じることはなくなった。


つまり、差別はなくなったのたのだ。

それが偶然の産物であったとしても、外の人間は約束を守ったのだ。


ならば我らも守らねばなるまい。


なぜならば、契約をしたから。

わたしたちにとって契約とは名で縛るもの。

特に異能持ちにとって、名で縛ることは何よりも強固な枷と化す。


だから。


外の人間がわたしたちのことを覚えていないとしても。



やらなければならない。



このいつ何時でも気を抜いてはならない任を



「わたしが。」

「は?……巫女姫様、なにかおっしゃいましたか?」

「いや………なんでもない」



今日もまた一日がはじまる。


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