00/目が覚めるとそこは。
さわさわと風が頬をなでていった。
春風のように、暖かな風。
…………え?春?今、冬だよねぇ?
それになんで僕、風が当たるようなところで寝てんのぉ!?
ぼんやりとかすみがかっていた頭が瞬時に覚醒する。
ガバッと跳ね起きると目に飛び込んできたのは想像もしなかった景色。
「どこ、ここ…………」
白白白白白白白白。どこもかしこもぜーんぶ白。
床、天井…………僕をとり囲む全てが白。
……と言っても『白』は全て同じ『白』ではないのだが。
混じりけのない、純白の『それ』と、ほんの少し灰色を混ぜたような『それ』から灰色手前の『それ』。
前者は広い広い床のほんの一部に。後者はそれ以外のところ全てに。
ぐるりと辺りを見まわしてもそれ以外の色彩を見つけることは出来なかった。
同時にあれ?っと疑問に思う。
確か風が吹いていたのではなかった。
しかし、風が入ってこれるような隙間は見当たらない。やっぱり見渡す限り白白白だ。
…………。
取りあえず、現状把握を、と思ったのだが。
これは夢、でいいのだろうか。
…………。
夢と言う事にしておこう。誘拐された訳でもなさそうだし。
ああ。
そうなると、夢の中でも僕は寝てたのか。
どんだけ寝たいんだ。
つらつらとそんなどうでもいい事を考えてしまった。
ここがどこなのかも、どうして自分がここに居るのかも答えは見つからない。
手持無沙汰になったのでしゃがみ込んでみた。
ぺたぺたと灰色がかった大理石のような床をなでる。
ひんやりとした熱を感じた瞬間―――
「うわっ!!」
ざあっと正面から大量の風がふいてきた。
さっきとは比べ物にならないような強風。
反射的に閉じた瞼をひらくと
「…………???」
灰色だった床は真っ白くなっていて。
恐る恐る触った感触はまるで………
「布…………?」
それも極上の絹、とかそんな感じの。
でもそれがどうしてここに?
さっきの風で飛んできたのか?
いや。僕は一歩も動いてないんだ。
それは無い。
頭の上にはてなマークをたくさんつけて立ち上がるともっと驚愕する事実が待っていた。
「…………なっ!!」
今まで一面灰色だった床の一部が白くなっていたのだ。
いや、この表現ではおかしいだろう。さっきも灰色い床に白い床、その両方が在ったのだから。
なんというか…白くなっている場所が変わっているのだ。
詳しく解説するとこうだ。
さっきまで僕が立っていたのは灰色っぽい大理石のような床の上。
でもっていま僕が立っているのは真っ白い布の上。
それまで遠くのほうにあった純白の色彩が無くなっているから、それが僕の足元に来た、という認識でいいのだろう。……………多分。
あまりに突然で不可解な出来事に――――だってここで目が覚めてからぼくは、歩いた覚えなんか無いのだ――――少々頭が混乱する。いや、だいぶ。
ふと後ろを振り向くと、前を見たときとまったく同じ景色が広がっていた。灰色の床に遥か彼方までつずく白い、一本の道。
「――――みち………。」
自分の発想に驚いた。同時に深い確信を得る。そうだ、そうに違いない。人が五人並んでも余裕がありそうな幅のそれ。
急にうずうずしてきた。
だって道と言うからには、これはどこかにつながっているはずで。
そうしたら、この真っ白い道がどこにつながっているのか、無性に気にになったのだ。
今だ、誰にも踏まれた事のないようなこの道が、いまだ誰も到達した事のない場所に僕を連れていってくれる気がした。そしてこの道の先にあるだろうその場所に、心惹かれた。
気がつくと僕はもう、足を踏み出していた。
この辺の記憶はあやふやだ。
前と後ろのどちらに足を踏み出したのか定かではないし、どのくらい歩き続けたのかも覚えていない。
確かなのは、ずーっと道が続いていた事と、それでもあきらめずに歩いていったら、いつの間にか目の前にどでかくて重そうな気の扉が出現していただけだ。
「…………」
明らかに木で出来たそれ。
恐る恐る触ってみるとひんやりしていて……でも少しあたたかい。
こんこんと叩いてみると、木特有の少し堅い音がした。
「はい…………どうぞ?」
てっきりこの世界には僕一人だと思い込んでいたし、この扉について何だこりゃ!?なんて感想を、ポロリとこぼした直後だったこともあって、この声が聞こえてきた時は心底驚いた。もしかしたら跳びあがるくらいはしていたかもしてない。
バクバクいっている心臓をなだめながら、きっと僕がさっき何気なく叩いたのがノックだと勘違いされたんだろうと分析する。
…………ん?そうするとここは部屋、だったりするのか!?あの声、女の子だったよ、なぁ……それも同い年か、年下、くらいの。そんな子の部屋に男が訪ねてくるって……ちょっとまずいよな。
変な事を考えて………それでもノックした以上しょうが無いがと腹をくくり―――
そして。
そうっと押しあけた扉は見た目に反して軽かった。開いた扉の隙間からわずかに漏れ出る光も段々とその量を増していく。
「……………………っつ!!」
まだ、半分以上開いていなかった扉を勢いをつけて開け放つ。
瞬間。
「うわぁ………………!!」
スゴイ量の光が僕を包み、そして身体が浮遊した。