天秤
「もう、魔法陣なしではどうにもならない。ここで魔法陣を出せば、何もかもが壊れてしまうのよ。」
その言葉に、リラは大きく首を振った。それでも頭の隅で、カイラの言葉に安堵する自分がいる。リラは必死にそんな自分を押し殺した。
「いいから、聞きなさい!」
カイラは苦しそうに顔をゆがめながらも、その表情にはいつか見た、厳しさと分かりずらい優しさの色が浮かぶ。あの頃のリラには読みとることの出来なかった微かに見え隠れする大きな愛情に。カイラは懸命に言葉を続けた。
「相手は貴方を探してる。私を殺さなかったのも貴方をあぶり出すためだわ……。こんな大怪我を治せる人間なんて、そうはいないもの。だから……。」
その言葉の続きは、聞くまでもなかった。
「そんな事――――!!」
出来るわけがないじゃない。口から飛び出るはずのその言葉はカイラの満足げな微笑みに、途端にその勢いをなくしてしまう。こんな事をしている間にもカイラの状態は悪くなる一方だ。分かっているのに、全てを捨てでもカイラを助けるという選択肢を選べない自分がリラはたまらなく恐ろしかった。悔しくて、情けなくて涙が止まらない。自分のせいでカイラはこんな大怪我を負ったのに、自分は何を躊躇しているのだろうか。それでも、家族のいる幸せを、やっと手に入れた自分の居場所を、失いたくはなかった。たとえそれが偽物だとしても。
「治せないのか……?」
後ろにいたレオが怯えたように言った。
「…………きて…。」
「え?」
「医者を呼んできて、早く!!」
リラは叫んだ。