月に行った私が"もふもふ生物"を守る話〜落ちこぼれの私が最強になった日〜
地球じゃわたしは落ちこぼれだった。
体育は最低評価、握力は平均以下、跳び箱は毎回落ちる。
「運動神経どこに置いてきたの?」
なんて笑われるのが日常だった。
そんなわたしが、月面調査の一般抽選だけは当たった。
人生で唯一のラッキーだ。
着陸船のハッチを開けると、月は静かすぎるほど静かだった。
風も音もない。
ただ白い砂が広がっているだけ。
一歩、踏み出す。
ふわっ——。
体が軽い。
地球じゃ足が重くて走るのも苦手だったのに、
月では羽根みたいに浮く。
もう一歩。
ふわっ、ふわっ。
歩くだけで視界がゆっくり上下する。
地球じゃ“できないこと”ばかりだったわたしが、
月では“できること”だらけだ。
試しに軽くジャンプしてみる。
ふわぁ——っと体が浮き上がる。
地球じゃ数センチしか跳べなかったわたしが、
月では空に手が届きそうなほど跳べる。
「……わたし、こんなに跳べたっけ」
着地すると白砂がふわっと舞った。
その砂の向こうで——何かがぴょん、と跳ねた。
小さな影。
白い耳。
丸い体。
「……ウサギ?」
影は、ぴょん、ぴょん、とこちらへ近づいてくる。
月の静けさの中で、その跳ねる音だけがやけに大きく感じた。
距離が縮まる。
影が月光に照らされて、はっきり形が見えた。
白い毛並み。
長い耳。
丸い目。
そして——二本足で立っている。
「う、うさ……?」
わたしを見上げて固まった。
次の瞬間——
「うさぁぁぁ!? でっかい人間うさ!!」
ふわふわの体が飛び跳ねる。
どうやら月のうさぎは喋るらしい
「ま、待つうさ! 人間さん、お願いがあるうさ!」
うさぎ星人が慌てて駆け寄ってくる。
体重が軽いから、跳ねるたびにふわふわ浮いてる。
「黒うさぎ族が来るうさ! 風で転ばされて、荷物も飛ばされて……
僕たちは戦うことができないから守ってほしいうさ!」
なるほど。
ただ驚いてるだけじゃなくて、助けてほしい理由があるらしい。
その時、遠くで黒い影がぴょん、と跳ねた。
白ウサギより耳が長くて、ちょっと強そう……に見える。
黒うさぎ族が村に近づいてくる。
「来たうさ!!」
うさぎ星人が怯えている。
黒うさぎ族が月の石を投げてきた。
わたしは両手でキャッチする。
黒うさぎ族がプルプルと震える。
「手で……石を……!? なんだこいつ……!」
いや、地球じゃ握力テストで笑われたんだけど。
次に黒うさぎ族がわたしめがけて突っ込んできたので、
横に一歩ずれた。
すると、黒うさぎ族は勢い余って自滅した。
「うさぁぁぁ!!」
白うさぎ星人が叫ぶ。
「すごい人間さんうさ!! 風を操ったうさ!!」
いや操ってないよ。
ただ避けただけだよ。
黒うさぎ族は全員転んで逃げていった。
村長が震えながら近づいてくる。
「人間様……本当にありがとううさ……
あなたは月の英雄うさ……」
わたしは困ったように笑った。
「いや、どこにでもいる普通の人なんだけど……」
でも、彼らは本気で信じている。
わたしは彼らにとって“最強”らしい。
帰還の時間になり、ウサギ星人たちが総出で見送ってくれた。
「英雄様ぁぁ!! また来てほしいうさ!!」
わたしは月面を振り返りながら、小さく笑った。
地球では落ちこぼれ。
でも月では世界最強うさ。




