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タクヤ


   タクヤ


 深夜。禎子は自宅マンションのベッドで眠っている。

 いや、不意に目が覚める。玄関のドアが開く音がした気がした。

 誰かがベッドに入ってくる。


 ――タクヤ……


 背後から抱きしめられる。耳元に鼻息が掛かる。

 ネグリジェの裾がまくり上げられ、ショーツが降ろされる。


 ――まあ、どうでもいい……。ただ……


「ちゃんとして――」

 寝ぼけてはいたが禎子はハッキリとそう言った。

 手の動きが止まった。

「ちゃんと?」語尾が上がった。

 文字にすれば語尾に「?」がついている。

「そう。とにかくちゃんとしてよね!」

「ちゃんと……」


 手は止まったままだった。しかし少し強く抱きしめられた。タクヤはそのままじっとしていた。何かするでもなくただそうしていた。

「ちゃんと、とは、どういう?」また語尾が上がった。

 禎子は答えなかった。正直眠い。

「もう、二年だっけ?」

 

 ――ああ、めんどくさい。

 するにしてもしないしてもどっちでもよかった。中途半端な身体の密着が鬱陶しかった。


「やっぱり、そろそろちゃんとしないといけないよな」タクヤは独り言のように呟く。「流石に子供ができたら……」

 

 ――本当に面倒臭い!


 禎子は毛布をはねのけ身体を起こした。脱げかけていたショーツを引き上げながらタクヤをにらみつけた。タクヤは下半身裸で、ゴムはつけていなかった。


「ちゃんとしないとね」タクヤは真顔で言った。

「なにそれ? プロポーズ?」

「そう取ってもらえると……」

 禎子は枕でタクヤをひっぱたいた。

「いてぇな!」

「ちゃんとして、ってちゃんと避妊して! の意味!」

「まあ、そうだよね」タクヤは半笑いで「まあ、今夜はやめておくよ」


 禎子は枕を元に戻しタクヤに背を向けて横になった。

「もう二年だよね?」タクヤは改めて訊いた。

「そうね」

 そのまま沈黙が続いた。

「やっぱり――」タクヤは少し悲しげに「別れよう、俺たち」

 ベッドが少し弾んだ。背中の気配が消える。タクヤが出て行った。


 ――もう、どうでもいい……


 翌朝、テーブルにメモが置いてあった。


 さよなら

 鍵は郵便受けに入れておきます。


 玄関ドアの郵便受けに鍵が入っていた。タクヤに渡していた合鍵だった。


 その夜、禎子は久々に熟睡した。

 念のため、玄関にはドアチェーンをかけた。


 少しも寂しくはなかった。


 

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