訪問
訪問
その人――彼のマンションを訪問したのは少し唐突だったかもしれない。鵜川禎子は彼のマンションの玄関で少し躊躇していた。アポは取ってはいたが踏み込んでいくには勇気が必要だった。
「一度会っていただけませんか?」
「会う? 何のために」
――何のために
その問いに禎子は明確に答えられなかった。
少なくとも彼の方は禎子に積極的には会いたくはないのかもしれない。
呼び鈴を押してドアが開かれたとき、彼はどんな顔で禎子を迎えるのだろう?
――歓迎?
――いや、やはり困惑なんだろうな……
それでも禎子は彼に会いたいと強く思っていた。もう時間がなかった。
果たして呼び鈴に応じて開かれたドアの向こうにいたのは、若い女性だった。
「あ、あの」
「だあれ?」
どちらさま? でも、どなたでしょうか? でもなく、そういう言葉だった。
「だあれ? おねえちゃん、だあれ?」
少なくとも禎子と左程年齢は違わないと思われるその女性は不思議そうに禎子を見つめている。
「あ、パパに? パパに御用?」
「あ、はい、鵜川禎子と申します。――さんに……。アポは取っています」
禎子は自分の名前を告げ、彼の名前も告げた。
「――さん? あ、パパ? アポってなあに?」
「一応、今日お会いする約束は――」
と、背後に人の気配を感じた。
「好美、自分のお部屋で待っていなさい」
振り返ると彼が玄関の外に立っていた。
「おかえり、パパ」好美と呼ばれその娘は笑って奥へ消えていった。「おねえちゃん、またねぇ」
彼に応接のソファに案内され、禎子はそこに座った。
「あの、先日連絡した鵜川禎子です」
彼は無表情のまま禎子をしばらく眺めていた。
「あの、私、鵜川――の娘の……」禎子は母の名前を出した。
それでも、彼は相変わらず無表情だった。
「好美を見てくるので、しばらく、ここで――」彼は禎子を一人にしてそのまま奥に消えた。
――奥……
禎子はそこには踏み込めない。
そのまま禎子はソファにただ座っていた。数分だったのだろうが、禎子にはトテツモナク長い時間に感じられた。
――髪の毛?
ふと、ソファに落ちている髪の毛らしきものに気づいて、それをつまんだ。
――彼のだろうか?
「それで何か調べるのかね?」
振り返ると彼が相変わらず無表情で立っていた。




