出会い
寝ぼけていた頭が瞬時に覚醒した
俺があの国立魔法学園に合格?
国立魔法学園とは王族や一部の上級貴族しか通えないまさにトップエリートが集まる学校なのだ。
しかし、うちは下級貴族の中では若干地位は上の方だがそれでも所詮は下級貴族といったところである。
親父も一応、研究所勤務だがろくに昇進もしない万年平研究員である。
母さんは一応上級貴族出身らしいのだが、今ではその輝きは失せている。
昔の写真を見る限りではそれなりの美人だったのだか、今はどこにでもいるただの主婦に成り下がっている。
何故親父と結婚したのか今でも謎だ。
とまぁこんな感じの一般家庭(一応貴族なのだか………)なのである。
もちろん受験はしただけどあくまで記念受験である。俺なんかが受かるわけがないからだ。
学力検査以外にも血液検査や、魔力検査など色々な適性検査をしたが 特に受験生の中で秀でているところは無かった(ぶっちゃけ、一番駄目と言っても過言では無かったようにも思えた)
なのに、合格ですか?念のため宛て先を確認したが「フレイマン・ギルバード」と確かに俺の名前が書かれていた。
ようやく現実を認め、リビングを見返してみたら両親の姿がなかった。
おそらくご近所の人たちの所にでも行って自慢話でもしているのだろう。、まったく困った両親である。まぁ気持ちは分からなくはないけど。
一人残された俺は合格通知書の封筒に入っていた入学要項を読んでみるついでに、テーブルの上にあるスコーンとポテトサラダをいただくことにした。
パラパラと読み飛ばしながら見ていくと、[指輪は本校で用意いたします………]と書かれた一文に目がとまった。
指輪とゆうのはもちろん装飾品の一種だが、魔法を使う者たちにとって重要な補助アイテムとなっている。
中には色々と便利な機能があるものがある具体的に言えばつけているだけで魔力の量や質が上がるといった具合だ。
だが、優れた指輪をつければいきなり優れた魔法使いになれるわけではない。優れた指輪ほど使い手を選ぶとされており、優秀な魔法使いでも認められないことはざらにある。
何故そんなことになっているのかは不明だが一説では魔界や天界、または神と契約した証ともいわれていており、だからそれぞれ選定条件があるとのことらしい。
よって、つけている指輪の質が魔法使いとしての格を表していると言っても過言ではない。
それほど重要なものなのだ。
ちなみに俺が使っているのは親父が子どものころ使っていたものでこれといった機能もなにも付いていないただの安物である。
学園に入ったら周りの奴らどうせ高級品の指輪をつけてくるに決まっている、こんなところで差をつけられたらたまったものではない。
それ以外には特に重要な所は無かったように思えたし、ちょうど程よい眠気が襲ってきたので自分の部屋に戻って寝ることにした。
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次に起きた時はもう夕方だった。
さすがに一日中寝たままで過ごすのは悪いと思うので外に散歩にでも行くことにした。
いざ出かけようと思って玄関から外に出てみたら門の前で人が集まっていた。
何事かと思い門の横にある勝手口から外に出てみたところ、俺に出てきたと気がついた瞬間集まっていた人達が俺の方に走ってきたと思ったらいきなり囲まれてしまった。
よく見たら全員近所の人だった、合格の知らせを聞きつけて来てくれたのだろう。
しかし、隣町の奴まで来てるってゆうことはうちの両親はどこまで話を広めれば気が済むのだろう?
集まった人たちのテンションが異常に高く一人一人相手するのが面倒だった
皆と別れる時、「出発する時、皆で見送りにいくからね」と言われた、とても嬉しい反面恥ずかしくもあったので、背を向けたまま手も振って別れを告げた。
目的もないまま歩いていたら繁華街まで来ていた。
その中でも今いる中央通りは休日ともなると出店や屋台などが広がりちょっとしたお祭りムードに包まれること、
それにこの通りは色々な店が軒を連ねていてここに来るだけで大抵の物がそろってしまうなどのことで有名だ。
奥に進んで見るとちょっとした広間に出た、そこでは皆が中央に視線を向けていた。
そこにはピエロの格好をした曲芸師が玉乗りをしながら火を吹いていた、いかにも貴族って感じの人達は見向きもしない。
だが、庶民はもの珍しそう見ているそれは彼らが魔法を使えないからである。
この世界では魔法を扱える者は貴族だけと定められている、それは魔法律と言って簡単に言うと魔法を使う者に対する(必ずしもそうとは言えないが)ルールである。それを破ってでもしたら、聖騎士と呼ばれる人たちが直接処罰しにくるシステムだ。
だが、俺にとっては火を吹くことなど日常茶飯のレベルなので別に見たい思わない、さらに奥に進んでみることにした。
そこには奇妙なことが起こっていた、しかもそれは俺にしか感知できないみたいだ
人で混み合う道、その中の一点だけ人が無意識に避けているところがある。
そこにいたのは見るからに怪しい人だった、全身をコート覆い顔はフードで隠している
見た感じでは体はあまり大きくないみたいで、身長もせいぜい150センチぐらいである
旅行者ならこのような格好をしていてもおかしくはないのだが、それでも周りの人が無意識的に避けているのは異様な光景だ。
何故だろう、俺はあの人に話しかけなければいけないような気がしてきてしまった。
これが貴族の義務とゆうやつか実にくだらないものである
貴族は庶民を守らねばならない、そんな古めかしいものに従う気など今まではなかったのだが。
今になって貴族の義務に従うのは癪だが仕方ない、そう心に言い聞かせてその人の方に向かった。
本当に小さいな、子どもか?
トン、肩に触れた瞬間「ひゃう!」となんとも女の子らしい声を上げながら10センチぐらい跳び上がった。
そんなに驚くことはないだろう。
跳び上がったとき被っていたフードがとれて、隠されていた頭が現れた。
栗色のツヤッとしたきれいな髪、エメラルドのような鮮やかな緑色の目そして、作為的ではないかと思うぐらい整った顔立ち。
恐ろしいほどの美少女が目の前に現れた。
あまりの驚きに言葉を失っていると、
「い、いきなり何するのよ!ま、ま、まさかこれが噂に聞く変態ってやつなのね!!」
ゴツン、なぜいきなり初対面の人に変態扱いされなければいけないのだ。
そう思う前に手が出てしまった。
………反省はしているだが、後悔はしていない。
きゅぅぅと言いながら頭を押さえながら涙目でこちらを睨んできたのだがまったく怖くはない。
「な、なんで殴るのよ!痛いじゃにゃ……痛いじゃない」
何故そこで噛むんだよ。
「知るか、いきなり変態扱いする方が悪い」
「なんですって!こんなかわいい子を殴っておいてただで済むと思ってるの!!」
ガルルとまるで犬のように唸りだした、まったくこれだから子どもはめんどくさい。
しょうがない、厄介事になる前に折れやるか……
「わかったよ、俺が悪かったって」
「ふん、分かればいいのよ」
「そうか、それじゃあ俺行くから」
立ち去ろうとしたが袖を掴まれた、「待ちなさい、ただでは帰さないわよ」
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今何をしているかとゆうと荷物持ちである。
お嬢さんは買い物に来たそうなのだが、道が分からないから案内しろとのことだった。
そこまではいいのだか、買ったものを全てに預けてきやがった。
最初の頃はこのくらいは持ってやるかと紳士的な態度をとったのが間違えだった。
両手が塞がる程度ならまだいいが、すでに肩の辺りまできているのだが、この娘はまだ買うつもりらしい
(そろそろ限界なのだが……)と思っていると、
「そんな顔してるんじゃないわよ、次で最後にしてあげるから頑張りなさい」
そういいながら、彼女は足早に店の中に入って行ったが、俺は非常に入りづらい。
そこはこの街でも一、二を争う高級魔装飾品店であり
もちろん俺なんかが入れる所ではなく、上級貴族ご用達の店だ。
入るのをためらっていると彼女が店内から出てきて
「なんで、入ってこないのよほら、早く来なさい!」
と無理矢理手首を掴まれて店の中に入ったいや、入ってしまった。
―――ホントに勘弁してください
そして入ったはいいが店員の目が痛い、明らかに場違いなのが分かる。
彼女はそんなこと気にしないまたは気付いていないかのような感じでどんどん奥に進む、
するとあるショーケースの前で止まった、
「ねぇ、どっちがいいと思う?」
黒とピンクのローブが目の前に出された。
「そうだなぁ……こっちの黒の「やっぱりピンクにしよっ!」
と俺が言う前に勝手に決めてしまった、(だったら俺に聞くな……)
「すいません、これ下さい」
呼ばれてやってきたのは店主らしきアゴヒゲを蓄えた男性、しかも俺らが入店してからずっとマークしてた。
「失礼ですが、御予算の程は?」
当然の疑問である、こんな子どもが大金を持っているわけがない、それを見越してのことかショーケースを開ける為の鍵を持って来ていないようだ。完全に舐められている。
しかし、そんな浅はかな考えは見事に裏切られることになる。
「予算?これくらいあれば足りるでしょ」
そういって腰に提げてあった袋を店員に差し出すと店員は中を見た瞬間一歩退いた。それは驚きのあまりとってしまった反射的反応。
目を見開いたまま店員は
「け、結構でございます。すぐにご用意させて頂きます。」
と急いで鍵を取りに行ってしまった。
後で見させてもらったがそこには家一軒余裕て買えるほどの大量の金貨が袋の中に収まっていた。
ショーケースが開くのを涼しい顔で待つ彼女、この娘は一体何者だろう。
「あんたは何か買わないの?」
「いや……俺あんまり金無いから。」
あんなに大金を見せられたらこんなちょとの有り金を見せられるわけないし、第一ここに売られている一番安い物でも買えるはずがない。
「いいわよ、おごってあげても、今日付き合ってもらった御礼だと思って頂戴。」
いやいや、女の子に出してもらうなんてマネ男として出来ないし、ここにある物は親父が汗水流して働いた金なんて、それ稼いだって言えるのと思えるぐらい高価な物ばかりだ。
でも断るのはもったいないような……
「どうしたの?早く決めなさい。」
「いや……そう言われても……」
「どんくさいわね、いいわ私が決めてあげる。」
「そうねぇ……!これが良いわ、すいませんこれ下さい」
ちょっ!?
俺が頭を悩ませてしどろもどろしている内に、彼女は鍵束を持った来た店員に買い上げの追加をした、指差したのは、黒い魔宝石がついたイヤリングだった。
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「ありがとう……?」
店を出た俺の耳には黒い輝きを放つイヤリング。結局買って貰ってしまった訳だが、複雑な気分だ。こんな値の張るものをもらって本当にいいのだろうか。
「あら、なんで疑問符が付いているのかしら買わない方が良かったのかな!?」
「いえっ、ありがとうございます!!」
「ふん、どう致しまして」
どうにもツンとした口調だが、嬉しそうな顔をして笑っている彼女。それを見ると、こっちまで笑顔になる。
ゴーン、ゴーン、……まるで地響きのように鳴り響く、それは街にある教会にあるとても巨大な鐘の音。
それを聞いてハッとなった彼女はポケットに手を突っ込んで懐中時計を出して時間を確認するないなや、急に「こっちに来て」と手を引っ張られ小道に入った。
ポケットの中から魔法陣らしきものが書かれている紙を手に持ち、パチンと指を鳴らしたかと思うと紙に書かれている文字が光りだして彼女の足元に魔法陣が展開された。
あまりにも唐突だったので見ているしかなかった。
「ほら!ぼさっとしないで荷物を陣の中に入れて、早く!」
その一声にハッとなって持っている紙袋を全部陣の中に下ろした。
「今日はありがと、とても楽しかったわ.また会えたらいいわね」
彼女は微笑みながらそう言って
『我望ム彼方ヘ“転移”』
行ってしまった。
光ったと思ったら目の前の彼女と大量にあった買い物袋が跡形もなく消えた。
あまりにも唐突過ぎることだったので夢、幻かと疑うが、耳にあるこのイヤリングが現実だと認識させる。
彼女はいったい何者だったのだろうか?せっかくだから名前ぐらいは聞いておくべきだった、今度御礼もしたい。
…………大したことはできないのが悲しいけどね。
そんなことを考えながら帰路に着く。
今日は何ていい日だったのだろう。国立魔法学園の合格、可愛い娘との買い物……荷物持ち国立魔法学園の合格、可愛い娘との買い物……荷物持ちだけだったような気がするが気にしない
とにかく、気持ち良く帰り道を歩いていた。
「貧乏貴族がお出かけですの?」
詰めが甘かった。なんで今日に限ってコイツと会っちまうんだよ、どうやら神様は俺が嫌いらしい。
ちくしょう、いつもみたいに裏道を通ればよかった、
そうすればコイツの憎たらしい顔なんて見なくて済んだのに。
「なんですの、その不満そうな顔は。文句でもあるんですの?」
コイツは嫌みしか言えないのか、家のことを馬鹿にされて不満が無いかと思ってるのか。
でも、家柄上言い返せない。それ知ってのことかさらに付け込み彼女はさらに言ってくる。
「あなたは平民みたいな服しか持っていないんですのね、いっそこのまま平民にでもなればいいんですの。」
流石に言い過ぎだろ、これでもギルバード家の歴史は長く、由緒正しい貴族だ。金や地位は無くとも誇りはある。言い返したい、すごく言い返したいけど、
コイツことアイリス・ヴェルヘルクの親は王国の賢者に選ばれている人で、中央庁のトップである。下手に言い返そうものなら、親父の首が飛ぶだけならまだしも務めている研究所ごと潰されかねない。家の敵に回ったら国内中の全ての人が敵に回るのと同義である。
ちくしょうが、
「それで、貧乏貴族は何をしに行ったのですの?」
人の体をじろじろと見てきたので、髪を耳にかけてイヤリングを見せつけてやった。このイヤリングはとても高価なことは分かるが、正確な値段などは知らない。上級貴族のアイリスなら知っているだろうとおもったのだが案の定知っているらしく、いつもの毒舌の前に「なんていうことですの!」と悲鳴に近い声を上げた。
「……あなた家宅でも質にいれましたのですの?中央通りにあるセキノアのイヤリングではありませんの、そんなの私でも持っていないんですの。」
…………どうやらとんでもない物をもらってしまったみたいだ。
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その後、俺がそのイヤリングを身に付けていることがよほど気に食わなかったみたいで自分の自慢話をし始めてしまった。パパにもらったブランド品が、家柄が、など何回も聞かされた事ばかりあるいつものありがたくてあくびが出まくる話だ。
(こんな時はいつもの手でと……)
ズボンの中に隠してあるチョークに手をやり、慣れた手つきで地面に魔法陣を書いていく、単純なものとはいえ良くここまで早く書けるようになったのも目の前の奴のおかげだ、さすがに毎回毎回やれば慣れてしまう。
今書いているのは土錬術の一種の比較的簡単なもので、そこらへんの魔法が習いたての奴でも使えるようなものである。
ようやく書き終わったがその間わずか20秒、成長したな俺。
書き終わった魔法陣に手をかざし魔力を注いでいく。何故こんな堂々とやっているかとゆうと本人は話すことに夢中になりすぎているせいで気付かないのだ。
陣の内部の土が成形されて、次第に俺そっくりの人形が出来上がってくる。昔は抵抗と恥じらいがあったのだが今はそんなのは感じない。慣れるとは恐ろしいことだ。
出来上がった特製フレイマン身代り人形を置き、立ち去る。
本当になんで気付かないのだろう?
家の門をくぐったあたりで「またいつものこれですの!どこ行ったんですの―!!」と聞こえたが無視して家の中に入る。
疲れた、早く寝よう…………
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時は少し遡り…………
ガラガラ、馬車の中にはさっきまでフレイと一緒に買い物をしていた少女と初老の男性が乗っている。
「今日は済まなかったわね、爺や」
「まったく、時間を守るのは淑女としてのマナーですぞ、姫さま」
「わかってるわよ、でもそんなこといちいち指摘されたらきり無いわよ」
「ハァ……姫様、少しはご自分のお立場とゆうものをお考えになってくだされ。いいですか、仮にも第二王女たるものが街にお一人で出ていくこと自体が間違いですじゃ」
「うるさいわね、爺や。それに護衛でも付けたらのんびり買い物なんて出来やしないじゃない」
「ですが万が一御命を狙われでもしたら」
「もう黙ってて」
「むぅ……少しは爺やの気持ちをくみ取って下され」
「いいから、黙ってなさい!」
そう一言言い残し窓の外を見る。外はもう暗くなってきていて周囲の景色も満足に見えないがそれでも爺やからの説教を受けるより断然マシだ。
(ふぅ、疲れてるのに爺やの相手なんかしてられないわよ。そういえば今日会ったあの人、最初に声を掛けられた時はびっくりして気が動転して気が付かなかったけどなんであの人に“姿隠し ”と“気配遮断”の魔法が効いてなかったんだろう?話掛けられる前つまり自分で魔法を解くまでは確かに発動していたしちゃんと効力はあった。でも、あの人には効かなかった……まあいいわ眠い時に難しいことごちゃごちゃ考えるの好きじゃないし。)
「ふぁぁ~、まだ着かないの?」
「もう少しですかお待ちくだされ、それに淑女があくびなどするものではありませんぞ」
「ムゥ~もういいわ、私寝るから着いたら起こして、おやすみ~」
「……ハァ、先が思いやられますな」
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