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1-4 姫と呪い

ラディアスは小さくため息を吐いて、メルベールに向き直った。


「失礼した」

「いえ、そんな…と言いたいところですが、やっぱり失礼でした、はい」

「そうだな、申し訳ないことをした」


 こうしてきちんと謝ってくれるところを見ると、ラディアスは先ほどの王子に比べてよっぽどまともに見えた。


「ラディアス様、有難うございました。私ではエルダイナ様をお止めすることは適いませんでした」


 エマが深々とお辞儀をすると、ラディアスは顔をあげろと手で促す。


「いや、エマにも申し訳ないことをした」


 エマがいやいやと首を振る。メルベールは疑問を口にした。


「王子様はみんなああいう方なんですか?」


 それを聞いたエマが慌てて両手を左右に振る。


「少なくとラディアス様は絶対に違います!」

「エマ」


 名前を呼ぶだけでエマの行動をたしなめたラディアスは、真剣な表情でメルベールを見つめた。


「やはり呪いの形を勘違いしていたようだな」


 ラディアスのつぶやきを聞いたエマが首を傾げる。


「呪いの形…ですか?」

「メルベール、私が君と婚約した理由はわかったか?」

 問いかけられたメルベールは、ぐっと体を硬直させた。

「はい…」


 隣で聞いていたエマは驚いた。この部屋をあてがわれた初日のメルベールは、婚約したことに反対している様子だったし、理由がわからないと言っていた。今は理由がわかったということなのだろうかと、エマは考えを巡らせる。

 メルベールの返事を聞くと、ラディアスは「ふむ」と相槌を打って腕を組んだ。


「私は君の呪いの力を『人を服従できる力』だと思っていたが、違っていたようだ」

「な、なに? なんの話しですか?」


 エマが心配そうに言いながら会話に入ってくる。そんなエマをちらっと見やり、ラディアスはメルベールに視線を戻した。


「メルベール、君の呪いは…女性には効かない」


 それを聞いたメルベールは、強張った表情でラディアスを見つめ返した。


「君の呪いの力は、男を魅了する力だな?」


 その言葉を聞いたメルベールは、そのままの状態で立ち尽くした。本当は秘密にしていたかった呪いの形。過去に国を滅ぼしたことがあるという噂が存在するが、それは噂ではなく真実だったとメルベールは知っている。


 自分は今、王族の住むお城に来ている。自分に憑いている呪いの力を、誰かが悪用しようと思うのは必然だと思っていた。



 メルベールがラディアスの表情を読もうとするかのように、じっと見つめたまま動かない。隣にいたエマが痺れを切らして動き出す。


「ど、どういうことなのでしょうか? ラディアス様」


 エマは動揺して体を右へ左へ、二人の顔を交互に見やる。


「私がメルベールに初めて会った時、彼女から例えようのない…そうだな、吸引力のようなものを感じた。目が離せなくなって、とても魅力的に見えた」


 ラディアスの言葉を聞いたエマが思わず顔を赤くする。


「ラ、ラディアス様がそんな風におっしゃるなんて…」

「今まで女性に対してこんな風に思ったことはなかった。私が連れていった従者は二人とも女性だった。そしてその二人は普段通りだった。伝承の通り、人を服従させる力なら、二人も何か別の反応をしていたはずだ」


 メルベールはラディアスの言葉をじっと聞いている。


「自分の抗えない反応を省みて、呪いの形を誤認していると考えた。もしそれが男を魅了する力だったとすれば、合点がいく。他の王子たちと接触した際に面倒なことになりそうだと思ったから、形式上、婚約することにしたんだ」


 エマが納得したように柏手を打った。


「じゃあ、婚約はメルベール様をお守りするためだったということですね!」


 エマの言葉に少し目を見開いたラディアスだったが、反論はしなかった。それを見てメルベールがようやく口を開く。


「では、なぜ、ラディアス様は私を城に連れてきたんですか?」


 ラディアスが言うように、早い段階でメルベールの呪いが、彼の思っていた『人を服従させる力』じゃないとわかったなら、きっとややこしくなることも予想できていただろうに。

 メルベールは続けた。


「わたしは両親と森でひっそりと暮らすという約束をしたんです。できれば森に帰りたいです。この力が誰かの不幸になってしまうくらいなら、わたしは一人で暮らしていたい。そう思っているだけなんです」


 これは本心だ。

 この呪いのせいで彼女の両親がとても苦労したことを、メルベールはよく知っている。それに呪い憑きの女性達は、代々、目立たないように暮らす方が健全だと考えてきた。過去に大きな過ちを犯した人物もいた。


 この国のすべての人がこの呪いのことを、きちんと理解している訳では無いとメルベールは知っている。神話やおとぎ話だと思っている人も少なくない。しかし、それでいい。あやふやな存在として扱ってくれるほうが、メルベール達、『呪い憑きの姫』は生きやすいからだ。


「なら、なぜついてきた?」


 ラディアスの言葉に、メルベールはかっとなって答える。


「おおお、おどっ、脅したからじゃないですか! あ、あんなの、ついてくるしかないじゃない!」

「脅した? そんなつもりは…」

「じゃなかったとしても、王子様だと言われて、逆らったら最悪、処刑されるでしょう⁉︎」


 メルベールのあまりにも極端な思考に思わずラディアスは小さく笑ってしまう。そんなラディアスの様子を見たメルベールが羞恥に駆られて顔を赤くする。


「わ、わたしにとっては、恐怖体験だったんです!」


 ひとつ咳払いをしたあと、ラディアスは仕切り直すように腕組みをした。


「このままでは、君を誤解したままになってしまう。それでは君を守れない。実際はどんな呪いなのか教えてくれないか、メルベール」


 ラディアスに言われたメルベールは少し考えたが、意を決したように顔を上げる。ラディアスに向き合うと真剣な目をして言った。


「ラディアス様を信用します」

「ああ」


 ラディアスの返事を聞くと、メルベールはラディアスに先ほどお茶をした席に着くよう促した。


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