1-3 呪い憑きの姫と第三王子
「なんだかこそこそしてるよね? エマちゃん。ここ数日なんか怪しいと思ってたんだよねえ」
顎先まである金の髪はゆるくウェーブがかかっており、アーモンドの形をした目に、高い鼻。所謂美形と呼ばれる容姿ではあるが、どことなく品性に欠けた態度。エマが『気をつけろ』と注意をしてきたことにも納得がいった。
「エルダイナ様、ここはラディアス様のお客様の部屋でございます。ラディアス様にお話を通してからまたいらして頂きませんと…」
エマが早口で伝えると、エルダイナは眉間に皺を寄せる。
「なんで俺があいつに許可を取らないといけないんだよ。あいつのほうが俺よりも偉くないんだぞ」
それを聞いていたメルベールは、どういう意味だろうかと不思議に思った。
「しかし…」
止めようとするエマの肩を掴んで押しやると、エルダイナは強引に部屋へ入ってきた。
「んー? どこいった?」
エルダイナの声がした時点で、メルベールは危機を察して、とっさの判断でベッド脇に身を潜めていた。
(隠れようとしたけれどここしか隠れられそうな場所がなかった…。これじゃすぐに見つかってしまう。早く出ていって!)
メルベールが今いる部屋は、天蓋のついたベッド、鏡台、小さなテーブルが一つと椅子が二脚、クローゼット、それしか家具のない部屋だった。クローゼットは身を隠せるほど大きくない。
「見つけたあー」
メルベールの祈りも虚しく、あっという間に見つかってしまった。
「アンタだろう? ラディアスが匿っている女は」
顔を見せないようにして身を屈めていたが、強引に肩を掴まれて振り向かされた。
しまったと思っているうちに、エルダイナと目が合ってしまう。
「は?」
エルダイナが間抜けな声を上げると、メルベールの体は唐突に持ち上げられ、そのままベッドに押し倒された。
「わっ!」
突然のことで反応が出来ない。エルダイナがまっすぐにメルベールの顔を見つめる。エルダイナの目はどこか不気味な光を放っていた。
「おい」
呼びかけれ、おずおずと返事をする。
「は、はい…」
「アンタ、名前は?」
「メルベール…です…」
居心地の悪さが限界。なにが起こっているのか、メルベールにはまったく理解できない状況だ。
「メルベール、俺の女になれ」
「へっ⁉︎」
エルダイナの突然の申し出。メルベールの頭の中は混乱を極めていた。
「いいから、とにかく俺の女になれ!」
強い口調で、エルダイナが言い放つ。そこでメルベールは気がついた。エルダイナがこうなったのも、呪いの力に違いない。
もしかしたらラディアスが特殊だったのかもしれないと、メルベールは薄々感づいていた。こんなことになってからでは後の祭りだが、メルベールは、だから早く森に帰りたかったのにと、ここに来たことを後悔していた。
さすがにこの状況はまずいと思ったエマがすぐに駆け寄った。
「エルダイナ様、さすがにそれはちょっと…」
言われたエルダイナがエマを鋭く睨みつける。青い瞳が光を放つようだった。
「エマちゃんは関係ないよね? それとも何? ラディアスから何か言われてるわけ?」
何か取り憑かれたようなエルダイナ、圧を感じる剣幕だ。さすがにエマも困惑した表情を見せている。それもそのはず、こんな無礼なやつでも、この国の王子なのだから、強引にどうこうするわけにはいかない。
「いえ、でも…」
エマは悔しくて唇を噛みしめる。そんな彼女を鼻で笑い、エルダイナはメルベールに向き直る。エルダイナは組み敷いた状態から動こうとしない。メルベールもエマの立場を考えると、彼を跳ね飛ばすわけにはいかなかった。
でも、そろそろ我慢の限界。
「ちょっと…っ」
抵抗しようとしたその時、扉が勢いよく開かれた。
「兄上、こんなことをされては困ります」
「ラディアス様!」
ラディアスの登場でエマの表情が安堵に一転する。ラディアスはそのまま早足で部屋に入ってきて、エルダイナの傍らに立った。
「何が問題なんだよ。お前の客だろうと、お前に許可をとる必要なんてないだろ」
その言葉を無視するかのようにラディアスは、エルダイナをメルベールから強引に引き離した。その反動でエルダイナは床に尻もちをつく。
「ちょっ…! 何するんだよ!」
「それはこちらの台詞です、兄上。この女性は私の婚約者です。乱暴なことはやめて頂きたい」
ラディアスは床に尻もちをついたままのエルダイナを見下ろして言い放つ。
「婚約者⁉︎」
エルダイナが驚いて大きな声をあげたが、ラディアスはこれも無視してメルベールに手を差し出した。
「怪我は?」
「いえ…大丈夫です」
ラディアスに促されてメルベールはその手を掴みかけたが、慌てて手を引っ込めるて自力で起き上がった。メルベールがベッドから降りると、ラディアスは、メルベールとエルダイナの間を割って入るようにして立ちはだかる。呆けていたエルダイナはそこでようやく我に返って、慌てて立ち上がった。
「たとえ弟であっても、その婚約者に手を出したとなれば、大きな問題になります、兄上」
ラディアスの声は低く、冷静であった。
「…そんことを言ったって、紹介もされてないんだから、わかるわけないだろ」
「ええ、ですから、いま言いました」
わなわなと震え出し、顔を赤くするエルダイナ。
「ああ、そうかよ!」
エルダイナがそう吐き捨てるように声をあげると、怒りのままに歩き出し、扉を勢いよく閉めて出ていった。
呪いで厄介な事になってきました。
続きもお楽しいただけると幸いです。




