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1-1 呪い憑きの姫と王様になりたい王子

「ごめんなさい!」

「無礼者! この方が何方か知らないのか⁉︎」


 ラディアス一行はこの森にいるはずの、ある人物を探すため、遠路はるばるここまでやってきた。最寄りの町からやや離れた場所にある、資源の豊かな森。動物も、木も、川も、そこには満ちていた。

 森の奥深く、獣道を進んでいたら、小さな家がある場所へたどり着いた。長いこと『その存在』を探していたラディアスは、目の前にある小さな家にわずかな可能性を見出していた。


 森の中にぽつんと存在する家を見つ、近づこうとしたところ、突然、空間を裂くような素早さで矢が飛んできた。その矢は、ラディアスの頬を掠めるようにして通り過ぎていった。矢に切られた短い黒い髪が、数本はらりと落ちていく。


 先ほど謝罪の言葉を口にして、慌てた様子で頭を下げる女性は、片手に弓を持っている。

 彼女が矢を放ったのは明確だった。


「ごめんなさい…てっきり、ジェイ…町の人だと思って…」


 言い訳をするその女性を見て、ラディアスは確信した。

 この女性こそが、『呪い憑きの姫』だと。

 

 ラディアスの隣にいる従者二人のうちのひとり、イナが目の前の謎の女性を睨むようにして向き合って言い放つ。


「もしかして…本当にこの方が何方か知らないのか?」

「えっ」


 問われた謎の女性はきょとんとした顔でラディアス達を見ている。

 本当にラディアスのことを知らないようだ。最寄りの町…いや、この国に住むものなら知らない人間はいないはずなのに。


「君の名前は?」


 ラディアスが、低く、冷静な声でそう問うと、謎の女性は気まずそうに自分の名前を口にする。


「メルベール…です」


 ラディアスの隣にいるもうひとりの従者、カリアがこそっと耳打ちをする。


「本当にこの女でしょうか…?」


 訝しむカリアだったが、しかしラディアスはじっとメルベールを見つめた。

 風に揺れる白に近い金の長い髪はボサボサだ。お世辞にもきれいとは言えぬ、使い込まれた服を着ている。何か土いじりをしていたのか、指先と頬には泥がついていた。滅多に町には寄り付かず、森のなかに一人で暮らしているはずの存在。

 ここまでで、メルベールが異様な存在であるのは明らかだった。

 しかし、質素な見た目をしていようが、それでも彼女から目が離せない。

 森に入った人間に容赦なく矢を放つような突拍子のない行動も無視出来るほど、やけにメルベールは魅力的に見えた。

 きっとこれが『呪いの力』だ。


 悪神から受けた、呪い。

 人の心を操る術を持つと伝承にあった。

 呪いを受けた血筋は引き継がれ、今も存在する、と。

 

 半分神話のようなとても古い話だ。『呪い憑きの姫』の話は王族には有名な話で、過去に国が崩壊したとも言われている。魔女の様に国王の心を操り、そのせいで王族たちは争いあったらしい。もし、メルベールがその『呪い憑きの姫』であったなら、絶対に放っておけない。彼女の存在が他の誰かに見つかることは何としても避けなければならない。


「ん…? 待てよ…先ほど町の人間と間違えたと言ったな…?」


 イナが神妙な顔でメルベールに問いかける。


「ということは…人に向けて矢を放った、のか…?」

「ええ、そうです」


 メルベールがさらっと事もなげに言い放つと、問いかけたイナの顔が引きつった。


「ラディアス様、本当に大丈夫でしょうか⁉︎ こんな危なそうな女を…!」


 ラディアスが言葉を遮るように手をあげる。


「メルベール、なぜそんな事をした」


 問いかけると、メルベールは当然と言わんばかりの口調で話す。


「その町のひと、ちょっとしつこいんです。自分と結婚しろって。だから時々矢で追い返しています」

「はあ⁉︎」

「だからって人に弓を向けるなんて、当たったらどうするの⁉︎」


 従者ふたりが声を大きくしてメルベールに迫る。


「大丈夫です。当たりませんから」

「いや、危ないだろっ!」


 ラディアスが一歩前に出て、メルベールの顔を見つめた。その真剣なまなざしにメルベールは体を固くする。


「あっ、ご、ごめんなさい!見ず知らずの人にそんなことはしちゃだめですよね…」

「いや、人に向けんなって…」

「イナ、カリア、もうよい」


 ラディアスの言葉を聞いた従者ふたりは、さっと頭を下げながら後ろに退いた。


「メルベール」

「はいっ」


 ラディアスがメルベールに手を差し伸べる。


「私と共に、城へ来てほしい」

「城?」


 先ほどのメルベールの言葉。あれは『自分は弓が下手だから当たらない』ではなく、『当たらないように撃つことが出来る』という意味だと、ラディアスは察した。

 なにせ自分が矢で狙われたのだ。コントロールの正確さは身をもって味わった。

 もし彼女が『呪い憑きの姫』でなくとも、使える人材だと踏んだ。ますます彼女を放っておけない。


「城…」


 メルベールは呟くと、顔色をどんどん青くしていく。


「お、お城の人⁉︎ わ、わたし処刑されますか⁉︎ お城の人に矢を撃つなんて重罪ですよね⁉︎」


 必死の形相で迫るメルベール。その顔を見たラディアスは思わず小さく吹き出した。


「本当に失礼な女だな!この方はアルテトリス国王陛下がご子息、第四王子ラディアス・ヘリオ・アルテトリス様であられるぞ!」

「お、王子…⁉︎」


 メルベールが慌てて膝を着こうとすると、ラディアスが手のひらを見せてそれを制止した。


「一先ず城へ来い。メルベール」


 ラディアスの言葉を聞いたメルベールは、驚愕のあまり顔を歪めてラディアスを見つめた。



これからもどんどん続きます。

お気に召して頂けると幸いです。

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