表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/10

1-9 第一王子の影

 森から城へ戻る時、扉の前でラディアスが立ち止まる。そっと扉を開いて、辺りに誰も居ないか確認した。人の姿は見当たらない。扉を完全に開けようとしたその時。


「殿下」


 小声でメルベールが呼びかける。


「誰かいます」


 その言葉を聞いて静かに扉を閉める。


「誰の姿も見当たらなかったが…」


 ラディアスが小声でそう返すと、メルベールが口の前で指を立て「静かに」と注意をしてきた。すると、扉の向こうから人の声が聞こえてくる。


「ほら、やっぱり居ないじゃないか」

「いや、こっちに向かったのを見たんだよ」


 複数の人の声。ラディアスはすぐにメルベールの手を掴んで、森へ引き返す。身を隠せる場所へ滑り込み、扉の見える位置まで移動する。茂みから様子を伺った。すると次の瞬間、扉が開かれる。

 扉の向こうから軽装の甲冑を身に着けた兵士が顔を出した。周囲を見渡している。


「いたかー?」

「いないな…」

「さすがに森には入っていないだろう」

「うーん…」


 言いながら扉を閉める兵士。暫くすると気配は遠のいていった。

 見つからなかったことに安堵したメルベールが「ふう」っとため息をついた。そしてラディアスと目を合わせる。


「メルベール…どうして気がついた」

「足音が聞こえたので」

「耳もいいのか…」


 ラディアスには聞こえなかった。もはや驚きも薄いまである。


「森で育ったからだろうか…?」

「殿下には聞こえなかったんですか?」

「君は少し特別なところが多いな。それより、先ほどの兵士は私達を探していたようだ」

「えっ」


 ラディアスは先程の兵士に見覚えがあった。第一王子の隊の兵士だった。王子たちはそれぞれ部隊を持っていて、統括している王子の命に従い行動している。


「いくらなんでも早いな。考えが甘かったか」

 ラディアスの呟きに不穏な空気を感じる。

「行こう。別の道から部屋に戻る」


 二人は静かに立ち上がり、急いでその場から離れた。




 部屋に戻ったメルベールにどっと疲れが押し寄せる。


「どうかなさったんですか?」


 部屋の中で待っていたエマが心配そうに駆け寄ってきた。


「ちょっと、緊張で疲れが…」


 よろめきながら椅子に座ると、即座にエマが水を差し出す。


「何があったんです?」


 エマがラディアスに向かって問うと、ラディアスが腕を組んで無表情に言った。


「恐らくメルベールの存在が、第一王子にバレている」

「レジナルド様に⁉︎」


 第一王子の名前をそこで初めて聞いたメルベールは、エマの反応に小さく驚く。ラディアスにも『第一王子には近づくな』と言われたばかり。どんな人だというのか。


「いつかは、と…予想はしていたが、随分と早い」

「どういたしましょう…」


 エマが胸の前で指を組む。困惑した顔でラディアスを見つめていた。


「出来るだけ窓には近づかないように。それから、誰かが来ても扉は開けないでいろ」


 ラディアスが言いながら扉に向かって早足に歩き出す。


「そ、そんな…っ」

「すぐに戻る」


 扉の先に消えていくラディアスの姿を、エマが不安そうな顔で見送った。すると、くるりとメルベールに向き直り、真剣な面持ちでメルベールに言い放つ。


「それではメルベール様、お着替えはせずにこのままで。私は扉の前で待機しますので、ベッドに隠れていてください」


 水を飲み終えたメルベールが慌てふためく。


「そ、そんな急に⁉︎ そんなに大変なのことなの⁉︎」

「ラディアス様がお戻りになるまで、万全を期します」


 エマが扉に耳をあて、扉の向こうの様子に聞き耳を立てている。これは本気のようだと察したメルベールは、すぐさまベッドに潜り込んだ。


(なんだか、本当にただ事ではないみたい)


 一体何者なのか。ふたりの様子が急変するほどの人なのだろうか。

 ここに来てから心の休まる気持ちがしない。メルベールは言われた通りベッドに潜り込みながら、もやもやとした気持ちを抱え込んだ。

 それから半時がすぎたころ、エマが小声ながら叫ぶ。


「誰か来ますっ」


 心臓が飛び上がる。ラディアスであってくれと願いながら息を潜めた。


「私だ」


 扉の向こうから聞き馴染みのある声が帰ってきて、エマとメルベールは安堵した。エマが扉を開けるとラディアスが入室する。


「ラディアス様」

「夜になるまで待ってくれ。どうにか目処がたった」

「わかりました」


 メルベールがベッドから顔だけを出して、二人の様子を見る。


「メルベール、待たせてしまってすまないが、もうしばらく辛抱してくれ。ここには人を寄せ付けないように手配しておく」

「殿下は?」

「私はまた行かなくては。エマ、後は頼む」

「かしこまりました」


 それだけを告げてまたラディアスは去っていった。


「…まだ警戒は解けませんね」


 エマの真剣な顔を見たあと、メルベールはまたベッドに潜り込んだ。

お読み頂き有難うございます。

お気に召して頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ