第9話 08:36*ハンバーガー
「お待たせいたしました!今日のランチは”ハンバーガー”です!」
「ありがとうございます。まぁー!!パンの間に色々と入っているからサンドイッチに似てますわね!で、こちらどのようにして頂けば宜しいのかしら?」
「大体そのまま手に持って齧り付くぜ?でも、姫さんにゃ無理だろうから、今シェフに言って切ってやるよ!見た目のインパクトを見てもらいたかったそのまま出しただけだからよ!」
「いいえ!ワタクシもみなさんと同じ頂き方を致しますわっ!」
「姫さんそんなでかい口開くか?」
俺は今日、どこぞの世界のどこぞの国のお姫様が初めて『ハンバーガー』を食べるところを見ている。
「まず、サンドイッチ同様に手掴みをするのですね・・・。具が入りすぎたサンドイッチと思えば問題はございませんわ!それに、これはシェフへの冒涜になってしまうかもしれませんが、皆さんと同じ食べ方をする代償として、このハンバーガーを潰させて頂きますわ!きっとそうすればワタクシのお口にも入ると思いますの!!」
おお!なかなかやるな、お姫様!こっちの世界のアメリカではバーガーは潰して食べるものだからむしろそれが正解かも!
「良いセンスだな。そうやって食べる国もあるぜ。この兄ちゃんの住んでる所でもそうやって食べるヤツもいる。シェフへの冒涜じゃねぇぜ」
ーーカンッ!
このお姫様、なんか俺が知ってるお姫様っぽくないな・・・。確かにハキハキしてるけど、キツイ訳じゃない。ちゃんと礼儀正しくマスターやシェフやメイドさんを一切下に見てない。それはこの喫茶店が異世界だってわかっているからなのだろうか?異世界の人間相手なら、自分の世界、国の姫という位も関係ないわけだ。
しかも、かぶりつくハンバーガーに対して『なんて野蛮な食べ方なのかしら!』とか言うかな?って思ったけど、全然だ。みんなと同じ食べ方を希望して、シェフに気遣いをして、なお潰して食べるという事を自分で考えて辿り着いた。
・・・正に正真正銘のお姫様じゃんか?!?!やっぱり本物のお姫様って凄いんだなぁ?!
「よろしければエプロンお使いください!綺麗なお召し物にソースが掛かるといけませんので!」
「あら!嬉しいわ!ありがとうございます!」
和服メイドさんのナイスフォロー!そうだよ、飲食店では服の汚れとかなんかそういうのお店が弁償しなくちゃだからね!自分で汚すのは自己責任だけど、でもやっぱり汚さないに越したことないよな!しかもめっちゃ高級なドレスっぽいし!!
「絹みてぇな生地だったり、高級そうなレースも使ってんな・・・まぁ一流のクリーニング屋を知ってるとは言え、出来れば汚さねぇで食ってもらいてぇもんだからな」
こうやって見てると、本当にいろんな世界からみんな来てるんだなぁ・・・。
「お待たせ致しました!今日のランチの”ハンバーガー”です!」
俺の分のハンバーガー来たぁぁあああーーー!!!
「ありがとうございます!頂きますっ!」
「おう、パンは知り合いのパン屋から焼き立て貰ってんだよ、中のパティはシェフ特性の粗挽き肉パティだ!俺も試食したけどヤベェ美味かっ」
「めっちゃ美味ーーーーー!!??」
「食うの早ぇな」
信じられん!?なんて美味いんだ?!え?え?やばくない?!こんなに美味いハンバーガーが存在して良いのか?!他のバーガーと何が違う?!全部違うに決まってんじゃんーーー!!
でも、明らかに違うのは、どのバーガーショップでも巡り合ったことのないこの
「・・・ソースが・・・独特・・・!」
ーーカンッ!!カンカンッ!!ッカンッ!!
「おっ!シェフがソースに気づいて貰って喜んでるぜっ!」
「だってこんなソース食べたことないのにめちゃくちゃ相性が良」
「んんんんんーーーーーー?!?!?」
お姫様がバーガーに齧り付きながら叫んだ。わかる。美味すぎるんだって・・・姫様の世界じゃハンバーガーがなかったからもう色々と衝撃だろう。初めてのハンバーガーがこれって・・・レベル高い。
お姫様の目がキラキラに輝いている。
「マスター・・・ハンバーガーを知っている人っていうのは大体食べたことがあるから良いですけど・・・なんていうんだろうな、初めてのハンバーガーがこれだったら、もう他のハンバーガーなんてハンバーガーじゃなくなっちゃいますよ・・・」
「わかる。俺も同じ事思った。初めてのハンバーガーがコレだったやつって可哀想だよな。他の店のバーガーも美味いには美味いけど、コレには敵わない。本当、シェフは罪なやつだぜ」
「花魁さんも、自分の世界で食べてたフカヒレの姿煮込みは何だったのか的な事言ってましたからねぇ・・・」
「絶品ですわっ!こんなに美味しいパンとお肉の組み合わせは初めてですわ!ステーキと一緒にパンを食べたってこのような美味しさにはなりませんの!!こちらのシェフはきっと血の滲むような経験や努力をして素晴らしい発想力を培い、それを表現できる腕前なのですね!」
ーーカンッ!カンッ!
・・・ーーー
ーーカラン
「あー!こんにちはなのー!」
うさぴょんが来た!!
「あら!!うさぎが喋ってるわ!」
「お姫様の世界では動物は喋らないんですね?」
「えぇ、そうよ?あなたの世界の動物さんはお話しになるの?」
「あっ!いえ!俺の世界でも人間以外は、限られた動物しか喋らないです!鳥の中でもごく一部ですし!」
俺の感覚が麻痺してた!自分の世界で生活してたら”動物が喋る”なんて思わない!ただ、この空間にいると”動物が喋っても不思議じゃない”っていう感覚に支配されるんだよなぁ〜。この時間は現実だけど、ゲームの中にいる感覚に近い。ゲーム中は動物と喋ったり、魔法を使えるのを当然として冒険出たり敵と戦う。でも、ゲームをやめれば別に敵もいなければ誰かと喧嘩した時でも『俺の魔法で・・・!』とか思わないもんなぁ・・・。
「初めまして!うさぎのうさぴょんなの!『うさぴょん』って呼んで!」
「ワタクシは、『姫』ですわ!マスターに名付けて頂きましたの!」
「お姫様だー!よろしくなのー!」
うさぴょんとお姫様が話していたらまた来客だ。
ーーカラン
「マスター!シェフ!!次のフカヒレの姿煮定食はいつの予定ですか?!」
「グワッ!グワワワッ・・・」
美男子が店に突撃してきた。後ろからアヒル副隊長追っかけながら『ちょっ!アチャ〜・・・』とばかりに翼で顔を覆っている。
「・・・あれか、美男子を気遣ってこの間のひとりランチのメニューがフカヒレだって事黙ってたのに、今日うっかり言っちまったって感じの流れだな」
「グワワァ〜・・・」
当たりらしい。
「その気遣いはとても嬉しいけれど、しかし!!フカヒレの姿煮を食べたいのです!次は絶対に逃したくありません!なのでシェフに仕込みの予定を聞こうと思いまして!!」
いつも冷静で優しい穏やかな美男子がとてもキリッとした表情で言っている。なんか、言ってる事がご飯の事なのに凛々しく見えるのは多分その美しい顔のせい。良いなぁ。イケメンってやっぱ得だよな・・・。
「やだ・・・ッ!お美しいッ・・・!!」
ボソッと聞こえた。お姫様だ。
お姫様はハンバーガーを持ちながら美男子の顔を見て固まっている。そうでしょう、この美しい顔見たら一瞬、時が止まりますよ。
そして、美男子と目が合うとハッと我にかえり、ハンバーガーをすっとお皿に戻した。
「こんにちは、初めましてですかね?あっ!今日はハンバーガーですか!楽しみですね、早速ランチ二つお願いします」
「グワッ!」
「ボクも今日はランチ食べるのー!」
「女性が美味しそうにハンバーガーを豪快に食べる姿は見ていて気持ちがいいですね。無邪気に食べているお姿がとても可愛らしいですよ。で、フカヒレ姿煮はいつでしょうかシェフ?!」
あ。
お姫様の目がハートになっちゃった。もう顔真っ赤で茹蛸とは正にこの事。
お姫様、多分美男子の前でハンバーガーに齧り付いているのが途端に恥ずかしくなって置いたのに、褒められたからどうしようって感じ。ハンバーガーをまた手に持って食べ始めたけど、目線はチラチラと美男子の方を向いている。あーあ、あんな美男子にあんなこと言われたらそら恋に落ちちゃうよなぁ・・・だってどっからどう見たって王子様みたいな顔してるもんね。あーかわいそう、こんなに美味しいハンバーガーの味、もう多分わからなくなってるよ。
そう思いながら、俺は残りのハンバーガーを一口で喰らった。やばい。肉汁溢れて美味すぎる・・・!
「・・・恋愛禁止ルールでも追加すっかな」
「えっ!?」
マスターが謎に不機嫌だった。




