第6話 01:11*フカヒレ姿煮
「お待たせ致しました!今日のランチは”フカヒレ姿煮定食”です!」
「わー!!フカヒレー!!!頂きますっ!!・・・フカヒレ・・・?え?
フカヒレッッッ?!?!?!?!?」
フカヒレって?!あのフカヒレ?!中華の高級食材の?!あ?!でも異世界産だと安いとか?!姿煮だぞ?!えっ?!どうなってんの?!俺今日財布中身ちゃんと入ってたっけ?
「なんだ?兄ちゃんフカヒレ嫌いか?っつっても、フカヒレ自体は味ねぇから基本的には作り手のソースの味で決まるんだけどな?食感が苦手なのか?」
「違います!!大好きです!!ってか大好きって言うほど食べたことないです高級食材なんで!!えっ!!今日のランチいくらですか?!1万?!2万?!」
「・・・いつもよりはちっとだけ高いけど、1,300円だ」
1,300円で フ カ ヒ レ の 姿 煮 定 食 !!!!!
「1,300円持ってなかったか?どうせ明日も来るんだからつけといてやろうか?」
「いやいやいや!!大丈夫です大丈夫です払えます!!えっ?!逆に1,300円で店は大丈夫なんですか?!あれ?もしかして昨日の魔王様がくれたチップっていうか最早大金のお布施でこれ食べれてます?!」
「違ぇよ、大丈夫だよ。今日は元々フカヒレ予定でシェフが随分前からフカヒレの仕込みしてたんだ。昨日のポメのお布施はたまたまだっだし、関係ねぇよ。異世界産だからな、安く手に入るんだ!しかも胸鰭のフッカフカな美味いところなっ!」
異世界産だとなんで安いのか・・・?フカヒレは手間がかかるって言ってたな・・・じゃあ売り手は処理を知らないから適当に安く売ってるって事か?!それにしたってこの喫茶店は本当にランチが安い!!日本円で、鶏肉フォーは500円。ハーブポークソテーと西京焼きは800円。シーフードドリアなんて牡蠣があれだけ入ってて650円だ!昨日の寿司だって700円だよ?!あれだけ高級食材入って・・・あぁ、あれも異世界産の高級魚介って事か。
「とりあえず一口、頂きます」
スプーンでソースを掬い、そこに箸でフカヒレを乗せた。
ゴクリ・・・いやいや!生唾だって飲み込むだろうっ!!ゆっくりと口に運んだ。
「美味いっ・・・・!!!!!!!」
もうそれ以上の言葉は出ないっ!!!
今日はめっちゃ時間かけて一口一口味わって食べよう・・・そんな時、扉の時計が動き始めた。来客だ。今日のお客さまはラッキーだぞ!!なんたってこんなにめちゃくちゃ美味くてしかも安いフカヒレの姿煮なんだから!!あぁ!!美味い!!もう一口!!
時計が止まった。1:11だ。だが、扉がカタっと動いただけで誰も入ってこない。なんだ?直前で入るの辞めたのか?まぁたまにそういう時あるよなぁーでも今日だけは絶対入った方がよかったのに!!まぁ人のことだから良いけど・・・と思っていたら視界の端でなんか動いた気がした。
「あれ?」
「兄ちゃんどうした?」
「いや、今なんか動いた気がしたんだけど・・・」
「そうだったか?誰も動いてなさそうだけどな?ドアベルも鳴ってねぇし・・・」
「あっでも!時計動いてましたよ!ドア開かなかったから入っては来なかったみたいですけ・・・うわぁ!!!」
俺は驚いた。視界の端に何か見えたのは確かだった。虫か?!大き過ぎはしないが、何かが店の壁を這っている?!?!
「おぉっ!!マシュだったか!!」
「まっ・・・ましゅ・・・?」
マスターは店の壁を這っている者に向かって挨拶をした。
・・・ーーー
「コイツぁな、『ヤモリ』だ!ヤモリの”マシュ”って呼んでんだ!」
「ヤモリ、ヤモリ・・・?あぁ!ヤモリ!カベチョロかぁ!!!え?お客さん?!」
「あぁ、頻度は高くねぇけど、割と長く通ってくれてる・・・一応お客さんか?飯は食わないから飲み物だけなんだけどな?」
「あぁ、なるほど・・・そういうお客さんもいるのか・・・」
「マシュはアイスハーブティーなんだよいつも」
「ハーブティー・・・あるんですか」
「言ってなかったか?」
「それって・・・持ち帰りとか」
「あいよ、出来るよ。帰って寝る前にレンジであっためて飲みな!帰りまでに作っといてやっからヨォ。安眠出来るハーブティーな?」
「マスタァアアアアアーーーーー!!!!!」
俺はフカヒレを食べる。近くでヤモリの”マシュ”が小さな小さな入れ物でアイスハーブティーを飲んでいる。初めてこんなに近くでヤモリみた。トカゲは怖いけどヤモリはなんか大丈夫そう・・・ギリギリだけど。てか、喋れなくてもこの店入ってくつろげるって良いよなぁ。万人どころか人じゃなくても大丈夫って凄いなココ。
ーーカラン
「ランチを一つ、くれなんし」
花魁来たぁーーー!!一昨日振りだよ!常連候補か?!今日来て当たりだよ!!
「よぉ、花魁!いらっしゃい、早速とは光栄だねっ!」
「美味で安い飯なぞ食わねば損じゃろ?おや、この間の兄ィもおるではないか」
「こんにちは!花魁さん!」
「今日のランチは・・・もしや”フカヒレ”か・・・?」
流石の花魁さんも目を見開いている・・・!
「おうよ!シェフが腕によりをかけて仕込みしたフカヒレの姿煮よぉ!花魁今日来て幸運だな!!」
「アチキも金は持ってても中々数か無くて食べれんのじゃ!これは有り難く頂くでありんす!」
花魁さんがそう言って俺の隣に座ろうとした。あっ!!そうだ俺の前には・・・!!
「おや?このヤモリもお客さんか?」
「おう!そうよ!マシュってんだ!仲良くしてやってな!」
「ほう・・・近くでは中々見んでな、いつも店の障子に外から張り付いてるところしか見ん!御主、中々に可愛い顔をしとるの」
・・・ヤモリって可愛いのか。俺の認識を少し改めねばなのかもしれない。
・・・ーーー
食後のコーヒー・・・ではなく、今日はハーブティーだった。持ち帰り用途はまた別のハーブティーを出してもらった。美味い。全部美味すぎるよ、マスター、シェフ・・・。
「美味じゃぁ!!これがフカヒレか?!!寧ろアチキが食べていたアレがフカヒレではなかったのか?!」
「いや、多分フカヒレだろう。でも、このタレの美味さはうちのシェフだけが作れる一級品よぉっ!!」
「シェフ、ナニヤツ・・・?!」
「タダもんじゃねぇぜ!」
「恐ろしい程に美味じゃな・・・兄ィの世界でもこんな味付けか?」
「似た感じですけど、でもシェフのはやっぱり特別美味しいですよ!!」
今日の花魁さんは少し化粧が薄めだ!綺麗と言うよりも可愛い・・・!!あー眼福だぁー!!
ーーカラン
「グワッ!!グワっ!!」
アヒル副隊長が来店だ!・・・あれ?美男子がいない?
「おう!アヒル副隊長、今日は一人か!」
「グワッ!」
「美男子ついてねぇなー、今日に限ってか。今日はフカヒレの姿煮込みだぜ?」
「グワッ?!グワワワワワ?!?!」
流石のアヒル副隊長も驚きだ。
「お待たせしました!シェフの提案で、フカヒレの姿煮込み丼です!」
「グワッワ〜」
俺しそうにアヒル副隊長が返事をした。そうか、アヒル副隊長だったらその方が食べやすそうだもんな。
「御主は熱いものは大丈夫なのか?早く食べるが良い!美味じゃぞ!!」
「グワァア〜」
美人の花魁さんに話かけられてアヒル副隊長も嬉しそうだ。嘴の先でフカヒレを解き、ご飯と混ぜるようにしてから食べた。
「グワァッ・・・・・!!」
「そうじゃろ?そうじゃろ?!」
アヒル副隊長の反応を見て花魁さんが嬉しそうな顔をしている。やっぱり人が美味しそうに食べてるの見るのって幸せだよなぁー、人じゃないけど。そんなことを考えてたら、目の前でまたちょろちょろと動いた。マシュがお帰りになるようだ。アヒル副隊長の前にきて、頭をちょっと高く上げてからお辞儀をした。どうやら顔馴染みのようだ。
「グワ!グワワワワワッ!!グワー!」
「おや、ヤモリがおかえりでありんすな」
「じゃあな!マシュ!またなっ!」
壁つたいに扉まで移動した。時計が1:11を示す。そして、一度こちらを見て、隙間ほど開いた扉から出ていった。
「さーて、ヤモリが来たからまたしばらくうちの店も安泰だ!」
「あぁ、ヤモリって『家を守る』って書いて『家守』とも読むみたいですからね!あ、俺ももう戻らないと・・・あぁ、夢のような幸せな時間だった・・・マスターお会計を!」
「あいよっ!1,300円なっ!!」
「フカヒレ姿煮1,300円のパワーワードっ!!!!!」
会社に戻って山のような仕事押し付けられても今日はずっとニコニコしていられた。




