第5話 02:59*寿司御膳
「・・・俺、消されないっすか?」
「大丈夫だって!店の中は安全なんだよ!」
「その自信はどこから・・・」
【cafe de rosemary】〜カフェ ド ローズマリー〜
多分異世界にある喫茶店。
でも俺の世界にある建物の扉を開けると入れる。そう、俺が毎日ランチを食べに通っているお店だ・・・よな?
カウンター席の一番奥にとんでもないオーラを纏った人が座っている。ん?人?そしてランチを待っているようだ。俺、社畜で毎日12時間以上働いてるけど、視力は良くも悪くもないけど、寝不足だけど割と頭正常だよな?今日だってシステムの修正はしたし、朝に頼まれた新しいプログラムも昼には完成させて試運転して完璧だって泣いて喜ばれてお礼に缶コーヒーもらったから多分正常だよな?
カウンターにいるの・・・どこかの魔王じゃね???
顔は人間だけど生え際にツノ生えてるよね?
眼、赤いよね?え?カラコン?
そもそもこれコスプレだったりする?特殊メイク?
でも衣装のクオリティ高すぎない?
今日は店はそれなりにお客さんがいるが、この魔王がいるためか少々緊張感が漂っている・・・。そう思った瞬間だった。俺の後に来客があり、扉に押されてツンのめった。
「あ!お兄さんごめんなの!こんにちは!うさぴょん今日も来たよ!」
「おう、うさ吉!いらっしゃい!!」
しまった!うさぴょんなんて魔王の餌食に・・・!!
「あーーー!!ポメくんなのーー!!!久々なのーーー!!」
俺に挨拶をした瞬間にそう言って走り出した。そう、脱兎の如く!!うさぴょん気づかないのか?!この魔王から発せられる緊張感を!!まずい!ポメくんだって流石に気まずいだろう!!
犬が二匹向い合わせで座っているテーブル席がひとつあった。俺あまり犬の種類わからないけど、多分片方がポメラニアンって種類だろう!でも今言ってくれるな!!気づいてくれうさぴょんこの空気に!!
俺はうさぴょんを止めようと飛び跳ねた方へ向かった。しかしそれはワンちゃんテーブルではなかった。そう、うさぴょんが跳ねた先はーーー
魔王だった。
・・・ーーー
「ポメくんなの!ここの常連さんなんだよ!!」
うさぴょんの頭を無言で撫でてる魔王もとい『ポメくん』。眼が真っ赤なツノの生えた魔王がゴツい手で撫でてる。痛くないのかな、でもうさぴょん超嬉しそうな顔してる。でも俺は盗み見るだけ。怖いんだけど、なんで流れで近くに座ってんの俺。
「だから言ったろ?大丈夫だって。店の外出たらわかんねぇけどなっ!」
もしも魔王の世界に一緒に行ったら秒で消されるやつッ!!!
「お待たせ致しました!今日のランチの”寿司御膳”です!」
和服メイドさんが魔王にもいつもの笑顔で給仕している!!これがプロのサービスマンってやつか?!すごい、顔色ひとつ変えずに・・・いや、うさぴょんも凄く慕ってるし、顔をよく見れば割と整ってる・・・?あれ?この喫茶店に来る人って、美男子や花魁もそうだけど、人間・・・というか人型ならみんな美形なのか?ここに来るのは美形だけなのか?あれ?じゃあ俺?あれぇ・・・?!もしかして俺もイケメンの部類かもとか一瞬考えそうになった。だが、魔王が動いたことにまたちょっとだけ緊張した。
っていうか、寿司・・・?!なんでもありだなこの店?!シェフ恐るべしだ!!
「マグロ大トロ、中トロ、鯛、鮑、ノドグロ、クエ、ウニ、いくら軍艦、あとはカレイの煮付けだ。茶碗蒸しも付いてるぜ!」
魔王が手を合わせた。あれだ、『頂きます』の姿勢、意思表示だ!!魔王礼儀正しい?!え?箸使うの上手くない?めっちゃ綺麗!魔王って育ちが良いのか?!そして、まずガリを一口食べて咀嚼、飲み込んだ。目を閉じて幸せを噛み締めるように
「・・・ん・・・」
とだけ魔王は言った。
「シェフ!魔王から『ん』頂きました!!」
ーーカンカンッ!!
『美味しい』じゃなくて『ん』なのかいっ!!しかもまだガリだけしか食べてないけどっ?!
魔王はそのまま食事を進める。なんか見ちゃうな・・・魔王の食事シーンとかアニメでも漫画でも見たことないからな・・・。うわ!!寿司をひっくり返してネタを下にして食べてる!!通だな?!この方が舌にネタが当たって味が楽しめるって聞いた事ある。でも、結局食べる時いつも忘れて米を下にして食べちゃうんだよな。
よし、せっかく魔王のお陰で思い出したから今日は俺も同じ食べ方しよう!!
「お待たせ致しました!今日のランチの”寿司御膳”です!」
俺の分の寿司がきた!うわぁ・・・めっちゃ綺麗!シェフ何者?!いやぁ会社の昼休みのランチで寿司食べるなんて、俺も立派になった・・・わけじゃないからなんかすごくラッキー、恵まれてるなぁ。
「頂きます!!」
すぐに寿司に食らいついた。忘れちゃいけない、ネタを下に向けるんだ。そして、初手に大トロを食べて幸せなあまり震える俺がいた。
・・・ーーー
「ご馳走様でしたっ!!」
「あいよ!」
「ん・・・」
「あいよ!」
「この茶碗蒸し美味しいー!毎日食べたいー!」
「そうだろ?シェフの茶碗蒸しは絶品・・・何を作らせても絶品だからな!」
「ポメくん、最近全然見なかった!本当に忙しかったんだね!」
・・・魔王が忙しいって言うと、勇者や冒険者たちを痛めつけてるって感じ。って言うか、倒されてないってことは、いつも魔王が勝ってるって事で、勇者や冒険者や負けてるって事か・・・なんだよ、全然平和じゃないじゃん?!
「まぁ繁忙期ってとこだろ?去年もこの時期からようやっと店に来る回数が増えたもんな?で、また秋とか冬は忙しいって事だな」
魔王が首を縦に振る。いやいや、繁忙期ってなんだよ!冒険者は秋と冬に魔王にたどり着くって事か?で、毎回買って、暇になってくるとこの店に通う出すと言うことか・・・でもずっと負けてないって事だよな?やっぱり強いんじゃん。
「あ!マスター!シェフに言ってにんじんケーキを包んでもらっていい?!ボクにつけて!ポメくんにあげるの!」
「あぁ、わかった。マスター!人参ケーキのおみやだってよ!!」
ーーカンッカンッ!!
そしてマスターから一度うさぴょんに手渡された人参ケーキの包み。透明な袋に入れられて可愛いリボンがついてる。うさぴょんが魔王に手渡した。
「ボクが作った人参で、シェフがにんじんケーキ作ってくれたの!すっごく美味しいの!お土産なの!」
受け取った魔王が感動している!!赤い目を見開いている!!魔王ってこんな顔するんだ、ちょっと可愛い!!
「・・・んっ・・!」
ん。しか言わないけど、感極まって嬉しそうな『ん』だと言う事がわかった。そのケーキの包みを大事そうに持って、懐に手を入れた。そして、中から取り出してうさぴょんに渡した。
「何これー!キラキラで綺麗ー!くれるのっ?!」
「ん」
「ポメくんありがとうー!!!」
ーガタッと魔王が席を立った。
静かにだ。なんか魔王って言うと椅子をひっくり返しながら立ったりしそうなイメージだ。そして、マスターにお金・・・お札を一枚手渡したらすぐに扉に向かった。
「あっ!ちょっと待ってろ!今釣り渡すから!!」
その言葉に魔王は首を横に振った。釣りいらないって事か?
「おぅ、今日もいいのか?大金だろうによ、いつも悪いな?」
魔王は再度首をゆっくりと横に振って、マスターと、あとシェフがいそうな方向を向いて合掌した。多分、『ご馳走様』の意味だろう。
そして、扉の前に立った。アナログ時計とデジタル時計が動く。
2:59分だった。
「ポメくん!またねー!!」
「毎度ありっ!またなっ!」
振り返らず、片手を振って扉の外へ出て行った魔王。待って、扉の向こう曇天もいいところだよ?雷すごいよ?コウモリ見えたよ?
しかし、扉が閉まると、柔らかい日差しが差し込むだけになった。
「ポメくんまたお店に貢献してくれたんだねー!」
「あ、お釣りいらないってヤツですか?チップですね、格好いいー」
「チップどころじゃねぇっての、これで40階建てのビル一棟建てられるってんだからよっ!」
「ビル?!?!」
「そういやうさ吉は何貰ったんだ?」
「キラキラした石なの!!」
「それって・・・」
「・・・ダイヤモンド・・・だな。ったくよぉ!」
やはり魔王は魔王だった。




