第4話 23:58*シーフードドリア
「お断りします」
「有真くん君ね、断るとか君に拒否権はないんだよ」
「今日俺が出張になったらあと2時間後にはシステム全部止まりますよ。途中なんですから」
「じゃああと1時間でどうにかしてから出張行ってよ」
「無理です、絶対無理です!!!」
当日出張をなんとか断って、システムもタイムリミット直前にギリギリ全復旧した。そして、出張を断って他の社員に行ってもらったのだが、何故か部署も違うその社員の仕事をやる羽目になってこの時間。
15:30
俺はやっと昼ごはんを食べに会社の外へと出た。
・・・ーーー
「シェフに言って、今度から昼飯を弁当にしてやろうか?」
「マスターーー!!!なんて事言うんですかっ!!?俺にここにきてほしくないんですか?!俺はここに来ないと癒しを補給できないのにっ!!!来るなってことはっ!つまりっ・・!!!」
「悪かった、悪かったよ、違ぇって!ほら、弁当にすれば会社でそのまま食えるから楽かもなって思ったんだよ!」
「無理です。楽だけど楽じゃない。体は楽ですけど心が楽じゃない。むしろずっと会社だと地獄・・・弁当だったらどうせ食べながら仕事しちゃうし」
「あぁーそうか。やっぱり昼にデスクから離れるって大事だよなぁ」
「そうなんです!!離れるの大事っ!!!!!」
シェフのお弁当って響きはいいけど俺はここで食べたい!!持ち帰りができるならそれはそれで嬉しいのだが、俺はマスターの提案をお断りした。
「そーだよねー!だって、お兄さんはシェフのご飯お弁当で毎日食べられるにしても、それってカフェが開店する前でしょ?!僕たちと会えなくなっちゃうもんねぇ!」
「そうなんだようさぴょん!!」
「でも、なんでそんなに大変そうな事になっちゃったの?」
可愛く小首を傾げるうさぴょんにはなんて説明すればわかるのだろう。
「・・・新しく働き出した、まだ仕事がわからない女の子がね?」
「うんうん!!」
「大事な仕事に使うものを壊しちゃったんだ・・・だから例えば〜・・・うーーーーーんーーー?!?!」
難しすぎないか?!携帯は知ってたみたいだけどシステムとか言って通じるのか?
「あれだろ?新人の嬢ちゃんが、同じPCだからって間違えて兄ちゃんのPC立ち上げて大事なシステムを消したり、復旧させようとして昔のデータを上書きしたりとかだろ?」
「そう!!それ!マスター見てたんですか?!」
「見ちゃいねぇけど・・・そのシステムがもし全社で使ってるとか、またはお客さんってかユーザーにも影響するアプリケーションのシステムだったらもう会社の信用ガタ落ち問題だよな・・・」
「そう!!だからなんでマスターわかるんですか?!」
「これをうさ公に説明か、確かに難しいな・・・」
「???」
二人・・・と言うか一人と一匹で悶々と考えていたら来客があった。
キィー・・・
扉の時計は23:58分を指している。俺は初めましてだ。
「”ランチ”とやらをアチキにくれなんし」
綺麗な着物を着た綺麗な女性だった。
・・・ーーー
マスターはメモ用紙に23:58と書いた。つまり、マスターも初めてこの女性というか23:58分の世界のお客さんを迎えたって事か・・・
「お待たせ致しました!今日のランチの”シーフードドリア”です!!器がとっても熱いのでお気をつけください!」
「ありがとうございます!!」
和服メイドさんがまずは俺にドリアを届けてくれた。
くぅぅーーー!!シェフ今日もイカしてるぜ!!たっぷりのホワイトソースが器から溢れそうだぜ!!
「頂きまぁーす!!」
スプーンを手に取りホワイトソースと、そして下のライスを掬う。やばい、ライスがターメリックライスだ。好き。出来立てほかほかの湯気が凄いっ!!ふーっと冷まして口に運ぶ。
「(熱い!美味い!熱い!美味い!!)」
熱くて途中で口を開いてハフハフと口内温度を下げる!うわぁ!めっちゃ上顎火傷した!ベロって剥けそう!でもめちゃ美味い!!!うわっ!牡蠣もはいってんじゃん!?ソースと相性抜群過ぎるっ!!
うさぴょんは昨日シェフに頼んだオレンジ色のにんじんパウンドケーキを美味しそうに食べている。食べながら俺が食べてる姿をうさぴょんも見る。そしてにっこり笑ってる。なんだこいつ可愛いなぁ!そっちのケーキもかなり美味そうだが、でもこのドリアもめちゃくちゃ美味い・・・!
「お待たせ致しました!今日のランチのシーフードドリアです!!器がとっても熱いのでお気をつけください!」
俺と同じアナウンスで着物の女性の前に激うまシーフードドリアが提供された。
「・・・なんっ・・?!なんじゃこりゃ?!食べ物なのかっ?!」
「ちゃんと食べ物だ。まぁ、食べ慣れねぇ味かも知れねぇけどな・・・」
俺はうさぴょんと黙ってまじまじと女性を見た。あぁ、いや女性をまじまじと見るってかなり失礼だよな。でもすごく綺麗だし、言葉もなんか花魁言葉みたいな感じ。・・・もし、俺の知ってる大昔の花魁の世界観だとしたら、和食とか食ってそうだよな・・・だとしたらドリアは見たことないかも知れない。むしろ得体の知れないものだよな。あぁ、だから食べ物なのかと驚いたんだな。
思いながら俺はまた一口ドリアを食べた。かぁああ!!うんまいっ!!そしてもう一度女性を見ようとしたら目が合った。やべっ!気まずい!
「・・・御主はこの”ドリア”と言う食べ物を元々知っておったのか?」
ドリアのイントネーションが違う、面白いし可愛い。あ、違う。なんだっけ元々ドリアを知ってるか?だっけ?
「はい!知ってます!すごく熱くて、クリーミーで滑らかで美味しいんです!この白いのは小麦粉とか牛乳がメインで、今日はここに魚介が入ってます!牡蠣も入ってますよ!下にお米も入ってるんですよ!」
「何っ?!牛の乳だと?!牡蠣も入っておるのか?!それにこの下に米があるとは・・・」
「とにかく、食べてみてください!でも熱いから気をつけて下さいね!ドリアは・・・俺の認識ですけど、女性に人気です!」
「そうか・・・熱いのじゃな。最中にすまなかった。恩に着る」
女性・・・花魁さんはスプーンを手に取り、胸の前で手を合わせた。
「頂くでありんす」
俺はもうドリア食べてるし、美味しいのも知ってるけど、こうやってドリア初体験の人を見るとこっちまでドキドキしてくる!あれ、そういえば確かにドリアは女性に人気だけど、でも男女問わずドリアとか、ホワイトソースが苦手って人いるよな・・・ヤベェ余計な事言っちゃったかな・・・。
真っ赤な口紅が塗られた唇でフーフーとドリアを冷ます。湯気が吹かれて遠ざかる。なんだこの和洋折衷感。そして花魁さんがドリアを口に入れた。
「・・・」
口の中で確かめてる感じだ。暑かったか少し眉間に皺が寄っている。花魁さんの隣の俺の腕をもふもふの手で掴みながらうさぴょんも反応を気にしている。
マスターなんて目の前でじっとデッカいまん丸の目で見ている。見ている事を隠す気も無い。
花魁さんが一口目を飲み込んだ。そして、スプーンがドリアの上で止まる。
・・・あれ?この場合、美味かったらそのまま二口目にいかない・・・?あれ?!もしかして上顎やけど?!それとも美味しくなかった系?!?!
「店主よ・・・」
「・・・どうした」
花魁さんが下を向いていた顔を上げた。やばい、ダメだった系か。今日の花魁さんのドリア代は俺がお支払
「美味じゃっ!!非常に美味じゃ!!店主が作りんしたか?!」
「いや、俺じゃねぇ」
「他に板前が?!」
「まぁな、シェフってんだ」
「シェフという名か!!」
またもカタカナのイントネーションが少々違う花魁さんがドリアを絶賛した!良かったーー!!うさぴょんもほっとして隣で喜んでいる。
「お兄さん!良かったね!お姉さん美味しいって!!」
「良かったー!俺外したかと思ったー!でもシェフの作った料理だもん、絶対美味しいに決まってる!」
「シェフ!花魁が絶賛だ!!」
ーーーカンッ!カンッ!
いつもよりも強めの音だ!シェフも嬉しいんだろう!!
はぁー!なんかドキドキだったけど楽しかったぁー!
・・・ーーー
「コーヒーとやらも美味じゃ・・・抹茶とは違った苦さがありんす・・・これは、他の奴には教えとうないでありんんすなぁ・・・」
花魁さんがコーヒーを飲みながら綺麗な伏し目で喋る。
「まぁ、俺としちゃ客を連れて来てくれると嬉しいけど、シェフがあんまり忙しいのは好きじゃねぇみてぇだからよ・・・それでも良いさ。ただ花魁、お前さんがちゃんとまた来てくれよな?」
「もちろんじゃ」
可愛い顔してダンディーボイスで格好いい事を言うんだから参っちゃうよなぁ。あぁ、このまったり時間が最高に最高で・・・
「お兄さん、そういえばいつもこの時間にはお店にいないけど大丈夫?携帯電話16:50って書いてあるよ?」
「大丈夫じゃ無いです!!お会計お願いしますっっ!!!」
・・・ーーー
俺のおかげでシステムが今日も元気に動いているのに、ちょっとばかし長い休憩から戻った俺は上司に冷たい目を向けられた・・・。とほほ。




