第14話 06:06*おにぎり
「さぁ!私にランチを出しなさい!!」
俺が扉を開けたらヒラヒラドレスの女性がカウンターで声高らかに言っていた。
「・・・シェフー、ランチ3つな」
ーーカン・・・
・・・ーーー
「こないだの姫とは大違いだな・・・」
マスターが言いながらコーヒーを淹れている。その視線の先には先ほどランチを要求した女性がすごい勢いで喋っている。カウンターは嫌だと言い、テーブル席へ座った。しかし、一人は嫌だと言って、向かいに他のお客さんを座らせた。しかもお客さんって棒人間の”ボウくん”だ!!
「ボウくん!こんにちは!!」
「あっ!お兄さんこんにちは!」
「貴方失礼ですわよ?!今ワタクシがこの落書きと話しているのですよ?!」
「落書きっ?!」
落書きってもしかしてボウくんの事?!失礼なのは貴女の方でしょ?!ただの棒人間に見えるけど俺と同じ人間なんだから!!
「あぁ、王妃様失礼しました。お話の続きをしましょう!」
そう言ったボウくんの顔の周りから☆印が『パチッ』と飛んだ。・・・ウインクかっ?!あっ俺、今、目配せされたんだ!そうかこれは『ゴメン!俺がこの人の相手するから!』っていう合図だっ!!ボウくんなんて素敵な人っ!!
「それで、ワタクシは最近結婚したのです!王である彼と!ワタクシは王妃・・・そう、国母なのですわっ!」
「それは素晴らしい!素晴らしい方に素晴らしい出来事ですね!実にめでたい!おめでとうございます!」
「賛辞の言葉をもっと寄越しなさいっ!!」
ボウくんはパチパチと拍手を送っている。・・・棒人間だから肉ないんだけど音出るんだ。ちょっと面白い。
「それでですね、披露宴は三日後に行われるのですが」
「えっ?!三日後に大切な披露宴を控えているのに出歩いて大丈夫なんですか?!」
「・・・うふふっ!心配しているのね。気分が良いわ。でもご心配なく。店の前に従者がおりますの!」
気分が良いわって言ったよ。まじか。ボウくんやり手だなぁ・・・。
「それでですね、その披露宴の時の食事が数品まだ決まっておりませんの。そこで、私自ら店へ出向いて気に入った食事を披露宴に出そうという話なのです!!」
「お待たせ致しました〜!本日のランチは”おにぎり盛り合わせ”です!!
「黙りなさい小娘っ!ワタクシが話をして・・・なんですのこのランチは・・・!!全然エレガントではございませんわっ!!シェフを呼んできなさい!!ここの料理は美しく味も良いと聞いてきたんですのよっ?!なんですかこの美意識の欠けた食べ物は?!」
「あーわりーな、シェフは人前に出ねぇんだわ」
「なんですって!ではここの責任者は」
「俺だ」
「お話になりませんわっ!!」
・・・俺の唯一の憩いの場に金切り声がひびく。なんか、いつもは癒やされるのに今日はここにいると余計に疲れる。そりゃそうだよな。まだ会社で30人分のキーボードの音聞いてた方が精神安定するわ。
「王妃様、これは私のせか・・・国の家庭料理です。確かに見栄えはしないかも知れませんが、懐かしい見た目なんですよ。こう、心が温まるなんとなくホッとするような食べ物なんです。お店でも売られてますよ。子供からご年配まで人気の主食です」
「貴方こんなもの食べて生きてきたの?」
「はい、確かに披露宴には向かないかも知れませんね。ですが、逆にこれは披露宴には向いていないと言うのがわかって良かったじゃないですか?きっと王妃様の国ではなかなか食べれない食材でしょうし、まぁ話のネタに食べてみてください」
「わかったわ。貴方がそこまで言うなら食べて差し上げますわ」
さっきから聞いてると超むかつく!!なんでボウくんあんなに普通に話せるのっ?!てか、表情が見えないだけで本当はめっちゃくちゃに顔に皺寄せて怒ってるとか?!
「どうやって食べるのかしら?」
「手で食べるのが一般的ですが、そうですね、これはぜひ手掴みで食べて頂きたいので・・・オーブンシートでももらいましょうか。メイドさん!オーブンシート下さい!」
「はいっ、ただいま〜!」
・・・ーーー
「あら、中に何か入っているわ?お魚かしら?ほぐされて白いソースと和えて美味しいわね?」
「それは”ツナ”と”マヨネーズ”です。とっても人気のおにぎりの具の一つですよ」
「ふむ・・・」
王妃は特に何も言わずにそのまま黙々と食べてる。なんだよ、あれだけ文句言ってて美味しいから言葉が出ないかっ!!そりゃそうだろっ!ここのシェフが作ってるんだからな!俺も頂きますあーーーなんでおにぎりがこんなに美味しくなるかねっ?!?!
「これは何かしら?」
「鰹節と醤油という調味料とチーズです」
「チーズ!!こんな食材とチーズとの相性が・・・?!」
「チーズは何にでも合いますよね。本当に美味しいです。あと最後の一つは・・・ウインナー?!やっぱりシェフのセンス半端ないわ・・・」
なんだって?!最後はウインナーだとっ?!おにぎりにかぶりついて中身を初めて知る楽しさを他人のために予め割ってあげるボウくんの優しさ・・・!!そしてウインナーをチョイスしたシェフに賞賛を!!!
結局王妃は大きな口でぺろっとおにぎりとしじみ汁、そして付け合わせも全て食べた。ほら、全部美味かっただろう!!?
「ワタクシ、本来ならこんな大きな口を開けて食べるなんて端ない事致しませんのよ?貴方立っての希望だから聞いてあげたまでですのよ」
「ありがとうございます。私のわがままに付き合って頂きまして」
最後まで高飛車だなぁっ!全くもうっ!!でもおにぎりは美味しいっ!!早く王妃帰らないかな、俺も休憩時間の残りそんなに無いし、ボウくんと話したいしっ!!
しかし俺の願い届かず、食後のお茶を飲みながらも王妃はボウくん相手にベラベラと喋り続けた。
・・・ーーー
ーーチャリン
ーーヴヴヴヴヴヴ・・・
ーーウィーン
ーーチャリンチャリン・・・
「ほい、お釣りな」
「また来ますわ!披露宴の後すぐに、この店の近くまで来る用事がありますの!楽しみですわね!」
そう言って扉へ向かうと時計が回り出した。6:06分。これが彼女の世界の時間か・・・。ちょ、待って。
おいおい、披露宴の後すぐに来るって言ったぞ?!あんな感じの人がこの後常連になったらみんな寄り付かなくなるぞ?!せっかくの憩いの場が・・!今日みたいな嫌な感じになるのはごめん被る!!
ーーパタン
扉が閉まって、マスターを含めて店内の全員がため息を吐いた。
「はぁ〜、ボウくん相手させちまって悪かったな」
「あぁ、まあああ言う人は仕方ないですよ。確かにみんなと話せなかったのは残念だけど」
「あ〜本当ボウくんが理解がある人で良かったわぁ、本当すまねぇ!!今日お代無しで勘弁してくれっ!」
「いやいや!シェフの美味しいご飯食べたんだから払いますって!おにぎり本当に美味しかったです。ウインナーは反則ですよ、俺の思い出の味ドンピシャです」
ーーカンッ!!
ボウくん、本当人間ができてる・・・。俺だったら多分素直に奢ってもらっちゃう。いやっ!だから今日は仕方ないにしてもあの高飛車王妃がまた今度来るって言うのをどうにかー
「いつもこの喫茶店の雰囲気が良くてみんな来てるのは知ってます。今日また更にいつもの幸せな雰囲気のありがたみを知れたって事でいいじゃないですか!たまには毒とか食らって、嫌な思いをしたって、それでいつもの”当たり前のようにある幸せ”に気づけたから感謝ですよ。それを気づかせてくれた存在に感謝しましょう?」
「「ボウくん・・・っ?!」」
「ボウくんさん、仏様みたいですねー」
和服メイドさんがポロッと言ったけど本当に仏だよっ?!なんで俺と年変わらないのにそんな考え方が出来るのっ?!
「ボウくんっ!!お前っ!絶対幸せになれよっ!!」
マスターも感動した模様。
「でもマスター!本当にどうするんですか?!」
俺は自分の幸せを守りたくて、ついマスターに聞いてしまった。
「そりゃ奥の手さ!」
「「奥の手?」」
俺とボウくんはわからずに顔を見合わせた。メイドさんは知っているのかニコニコしている。あぁ、ニコニコしてるのはいつもか。
ニヤっとマスターが悪い顔をして口を開けた。鋭い牙が見えた。
「必殺・・・!!”出禁”だっ!!!」
「「おおおーーーーー!!!」」
俺とボウくんは謎に盛り上がった後、休憩時間が終わることに気づいて慌てて店を出て行った。




