第13話 21:00*クロックムッシュ
「ねぇ有真くん、京都はいつ行けそうなの?向こうから『いつ?』って連絡くるんだけど?ねぇ?いつなら京都出向けるの?ねぇ聞いてる?」
「いや、その前に俺が聞きたいです。誰ですか、せっかく直したシステムぶち壊したの」
桜も散り、新緑の季節となった最近。太陽が頭上に来るまで俺は2分と休む事なく画面と睨めっこをした。誰だよ?!俺がこの間ちゃんと完璧なまでに直したのに!!バックアップデータまで破壊してる!サイバー攻撃でも受けてるんじゃないかっ?!あり得ないだろう!!他にもなんか怪しい状態のものがあったからとりあえず直しておいたけど言っておくが俺は別にサイバーに関する課ではない!!ちゃんとしっかりやってくれよ!!そんなこと思いながら今日の仕事が全部この作業になるかと思いきやお昼には片付けちゃう俺も悪いんだけど!!!
月曜日。始業してから3時間をシステムの修復に費やした。俺の今日の仕事押しまくりだっ!!腹が立つ!きっと腹が減ってるんだ!もうこうなったら行ってやる!!
・・・ーーー
「こんにちは!!!ランチ一つ下さい!!」
ーーカンッカンッ!!
「おぉ!ついに自分で直でオーダーしたか!いらっしゃいっ!」
「お兄さん直接オーダーかっこいいのー!!」
はぁ・・・、この空気が好き・・・!!
今日は比較的お客さんが少ない。まぁたまにはこんな日もあるだろう。
カウンターにはうさぴょん。そしてうさぴょんと話すマスター。あ、キッチンから和服メイドさんも出てきた!!
「こんにちは、いらっしゃいませ!」
「こんにちはー!」
あーーー、システム修復で受けた俺のダメージが修復されていく・・・。
「兄ちゃん、疲れと苛立ちでちょっとギスギスしてんな?なんか今日も一悶着あったんじゃねぇか?」
「・・・!!マスターっ?!そうなんです!もう問題だらけなんですよ?!俺の仕事全然進まなくて!!絶対誰かの仕業なんですよ?!」
「タイミングが重なったりだとかでそう言う時ってあるよなー。俺もこの間、閉店間際にレジの調子が悪くなった時はどうしようかと思ったぜ。そう言う時に限って早く帰りたいってお客さんが居てなー。ほら、当たり前だけど世界別で通貨が違うからよ?どの世界では今日のランチが何円かってのは俺にはわからねぇからよ?まいっちまったぜ!結局ツケにしたけどよ」
「あータイミング・・・まぁ、そう言う時もありますよね。でも俺の場合頻発するから誰かがやってるんじゃっ?!って勘繰っちゃうんですよね〜」
「そう思うのは疲れてる証拠だ!・・つっても兄ちゃんはいつも疲れてるわな」
「ここにきてる間だけ回復できるんですよねぇ〜。もうここに住みたいくらい」
ーーカラン
扉が開いた。来客だ。時計は21:00ちょうどを指している。マスターの手が動かない。また俺の知らない常連さんかな?
「いらっしゃい」
マスターが迎えたそのお客さんは、清楚な20代後半の女性だ。しかし、俯いていて表情も暗い。
そして特に何も言わずに店内に一歩足を踏み入れた。
「お客さん、外の看板は読んでもらえたかな?」
マスターのその言葉に女性が初めて足元から店内を視界に入れた。
「・・・っ?!」
驚いた表情をしている。21:00の世界からのお客さんは初めてじゃないけど、この女性は初めてって事か。つまり、動物が喋らない世界の人かな?
「看板・・・?」
「店の前に看板がある。この店に入るための注意事項だ。
①自分の名前を言わない
②店内で相手が嫌がる場合は詮索禁止、つまりここにいる客が嫌がることは聞かない事!
③店外で会っても詮索禁止
この三つが守れるなら大丈夫だ?どうする?」
以前、男の子の”子どもくん”が初めてきた時と同じように言った。そういえば、あの子どもくん元気かなぁ・・・すれ違ってるのか、もしくはまだ来てないか。
「・・・はい。守ります」
女性はかなり意気消沈している感じだ。大丈夫か?なんかただ驚いて目の前の現実を受け止められないって言うよりなんかちょっと違うような・・・?でも今マスターが言ったみたいに相手の嫌がることは詮索禁止だからなぁ。まぁ、よく顔を合わせてても話さない常連だっているもんな。いっか。人と話したくないタイプかもしれないし。
「お好きなお席へどうぞ」
和服メイドさんが優しくお声を掛けた。すると女性はカウンターの俺の隣に座った。俺はうさぴょんと女性に挟まれるようになった。
「この店はランチは一種類だ。カップケーキとか焼き菓子が何種類かある。コーヒーや飲み物なら種類豊富だ。どうする?なんか飯食う雰囲気には見えないが?」
マスター?!結構突っ込んだこと聞いてません?!
「店の決まりは俺も一緒だから無理には聞かねぇけど、逆に言いたくなったら言えば良い。今日は客も少ない。まぁ本当に聞くだけでなんも言えねぇだろうけどそれでも良ければだからな」
「ランチを一つ、下さい」
「あいよっ!シェフ!!ランチ都合三つだ!!」
ーーカンッ!カンッ!!
「あと、ハーブティーを食前に下さい。できればハチミツ入れて飲みたいです。ハチミツと合うハーブティー下さい」
「あいよっ!!ハチミツ入りハーブティー、一つなっ!!・・・あぁ、飲み物は俺がやるんだった。ちょっと待ってな。えっとまずはお湯を・・・」
「私、さっき離婚してきたんです」
・・・えええええーーー?!?!
「ちょっ!!今ハーブティー入れるからその話ちょっと待ってろ?!」
「・・・うぅっ・・!!ふっ・・・!!ぐすっ・・・!!うううううーー!!」
「ちょっまっ!?!メイド!おしぼりとティッシュ!!」
「はいー!!」
・・・ーーー
「すみません。初めての店でこんな醜態を晒して・・・ぐすっ・・・ハーブティー美味しい・・・」
「びっくりしたぜ!まぁ別に愚痴やらなんやら言うのは構わねぇよ。こっちの兄ちゃんだってさっき仕事の愚痴言ってたし。まぁ、初めてのお客さんだからどう接していいかわかんなくてよ、それだけだわ」
さすが喫茶店のマスター。おしぼりとティッシュの判断が早かった。はぁーー。流石と言えばいいのか?メイドさんとマスターで女性を宥めながらもマスターはテキパキとハーブティーの準備を始めてた。ぶっきらぼうな喋り方だが、やはりマスターだ。向いてると言わざるを得ない。
「うまい飯の前にハーブティーで落ち着いておけ!ランチ食ったら美味くて気分も上がるぞ」
「そうですね・・・ありがとうございます」
「お待たせ致しました!今日のランチの”クロックムッシュ”です!!」
「クロックムッシュ!!!名前で既に美味しいやつ!!」
「きゃー!!絶対美味しいのー!!」
あれだ!パンとホワイトソースとハムチーズ!!もう最高に美味しいメニューをシェフが作ったのか!!しかもオニオンスープとサラダ付き!!
「すごい・・・美味しそう・・・」
「ここのシェフの料理は何食べても美味しいんです!早く頂きましょう!!」
もちろん女性に早くシェフの料理を食べてもらいたいのもあるが、まず何より俺が早く食べたい!!そのために女性を促した。
「頂きますっ!!!」
「頂きます・・」
ナイフとフォークで切る。ああ!ナイフが嬉しがってる!!?”ナイフが嬉しがってる”って俺何言ってるの?!頂きますっ!!
「んんーーー!!美味しいのーー!!」
「くぅーーーーー!!めっちゃっ!美味しいーーー!!」
「・・・すごい。こんなに美味しいの初めて食べた・・・」
「おうおう、さっきと別人の顔つきだなっ!そうやって笑ってりゃ良いことあっからよ!!」
「・・・だと良いです・・・」
「お客さん・・・そうだな、なんて呼ぶか。嬢ちゃん・・・って歳じゃないだろうし、離婚したばっかりだって言うし?何が良いか?兄ちゃん、なんか良い呼び名無いか?」
「えぇええっ?!俺っすか?!」
なんだなんだ?!何がある?!確かに嬢ちゃんって歳じゃないし、離婚してるからミセスじゃないし・・・かと言ってこの流れでミスって呼ぶのはなんか嫌味っぽく聞こえたりしないだろうか?!
「うーん・・・えーっと・・・」
浮かばねぇって!!!
「お姉さんじゃダメなの?うさぴょんはお姉さんって呼びたい!」
「あぁ、姉ちゃんがあったか」
「そうだよ!!お姉さんがあるじゃないか!!」
「ってことで姉ちゃん、今日はシェフから食後のデザートを特別プレゼントだとよ!!」
「お姉さんだけに特別デザートです!”ミルクセーキ”です!!」
確かにこれなら即席で作れる!!
「わぁっ・・・!!いいんですかっ?!なんかこんなに良くしてもらって、お話も聞いてもらえて・・・すごく幸せです。料理も美味しいしみんな優しくて・・・」
「喫茶店って、そう言うところだろ?あ?姉ちゃんの世界じゃ違うか?」
「ここまで温かくは無いですね・・・。絶対また着ます」
「ぜひ、ご贔屓にな!!」
最初はどうなるかと思ったけど、お姉さんも今となってはもう笑顔だ。
あぁ、こんなにほっこりした場所にいると、この後戻って馬鹿でかい倉庫の全整理と頼まれた意味のわからない新システムの開発を忘れるところだった・・・・・。
「マスター・・・お会計・・・」
「おぉ、もうそんな時間か。
・・・ハチミツハーブティー持ってくか?余りだけど」
「マスタァァァーーー!!好きですーーーーー!!!!!」




