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異世界喫茶『カフェ de ローズマリー』  作者: 杉崎 朱


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10/30

第10話 03:16*お子様ランチ


 無理だ。

 俺は自分のスケジュールを向こう三ヶ月確認して悟った。無理だ。京都への出張なんて到底スケジュールが裂けない。一日でも難しいのに一週間行ってくれとか馬鹿じゃないのか。スケジュールも空きを作れないし、そもそもその間一週間も”ローズマリー”にいけないとか考えただけで悪寒がする。

 あれだ、携帯電話と一緒。持つまではなんとも思わないけど、一度持ってしまったら便利で手放せない的な。一度あの雰囲気と味を知ったらもうそれを知らなかった自分には戻れないんだよ?!誰だよCMかドラマかなんかで『別れたって寂しくない、大丈夫。だって、出会う前に戻っただけだから・・・』とか言った奴!!戻れるわけねぇだろ?!戻るなら記憶ごと消さないと戻った事にはならないんだよ!!


「有真さん!今日はランチ一緒してもらえますよね?!」

「好きな気持ちは消えないんだから、別れたら出会う前に戻るんじゃなくて余計に寂しいんだろうがっ!!」

「えっ?」

「あっごめん。なんでもない。あと、今日のランチはちょっと・・・」




・・・ーーー



「で?どうにかこうにかと相手に迫られて明日はランチの約束をしちまったという事か。ったくよぉ!どいつもこいつも春がきただなんだって!花粉みてぇにやかましいわっ!」

 マスターがコーヒーを淹れながらいつもの調子で話している。

「でも!お兄さんと一緒にランチ食べたいのわかるー!うさぴょんもここでお兄さんと一緒にご飯食べるの凄く楽しいもんー!」

「そうか!うさぴょんありがとう・・・!!」

「気になりますねぇ、その女性。連れてきてはいかがですか?」

「グワッ!」

 美男子がこの店にその新人女性を連れてこいと。いやいや、だめだ。そうしたら俺がうさぴょんにデレデレしてるの見られるの恥ずかしいし。そもそもそのこがこの店にきてその後普通に働けるかわからない。あまり人に言って欲しくないんだよなぁ。あと、異世界につながる事をそう簡単に人に言って良いのか?とか疑問は沢山だ。


「・・・うさぴょんはこのお店の事をお友達に言うの?」

「うさぴょん言わない!だって、みんな来ちゃったら人気店になっちゃってうさぴょんがお店入れなくなったら嫌だもん!こういう楽しみは独り占めしても良いっておばあちゃんに教わったの!」

「良いおばあちゃんだぁあああ!!!俺もその考えに賛成!!・・・美男子とアヒル副隊長は?」

「私とアヒル副隊長は、良いお店があるよってみんなに紹介してますよ?でもみんな来たがらないんですよねぇ・・・?」

「グワワ!グワーグググワワワワッ!!」

 アヒル隊長の様子がおかしい。どうしたのだろう。


「なんて言ってるんです?」

「店にたどり着くまで危険すぎる道だからみんな行きたくないと言っているみたいなんだ」

「えっ?!!?」

 どんな道通ってきてるんだよ?!


 ーーカラン


「・・・こんにちは・・・」

「おう!いらっしゃい!・・・3:17分か・・・お初だな」

「ひぇっ?!猫が喋った?!あっ!!大きい鳥・・!白鳥!!あっ!うさぎだぁーー!!」

「残念だ、俺は猫じゃねぇ、”ハクビシン”だっ!」


 子供が来店した。男の子だ。

 しかし、きている洋服は俺の世界とは違う。多分、例えるなら昔の西洋の国の感じ。そして、動物が喋ってる事に驚いている。そう、これだよ、これが普通だよ!みんなこうなるよね?!俺は疲れててちょっと違ったけど。


 男の子は店に入ろうかどうしろうか少し迷っている感じだ。

「ヨォ!”子供”!ここは喫茶店だ!看板読んだか?」

「・・・読めない。でも、ママがココでご飯食べてなさいって・・・」

「ったく!しゃーねーなー!良いか?

 ①自分の名前を言わない

 ②店内で相手が嫌がる場合は詮索禁止、つまりここにいる客が嫌がることは聞かない事!

 ③店外で会っても詮索禁止

 この三つが守れるなら入って良いぜ?どうする?」

「・・・まもる」

「よし入んな!カウンターに座んな。飯食え!」

「でも僕お金ちょっとしか持ってない!」

 そう言って子供が握りしめていた手を開けた。そこには小さいコインが5枚握られていた。


「貸してみな」

 子供は素直にマスターにコインを渡す。そして、マスターがレジにお金を入れた。


 ーーチャリン


 ーーヴヴヴヴヴヴ・・・


 ーーウィーン


 ーーチャリンチャリン・・・


「ほら!コイン1枚返すぞ!余裕で食えるってよ!」

「本当?!僕凄くお腹空いてるんだ!」

「よし、座って待ってろ!!」

「わーい!」

 ちょっと目が澱んだ感じに思えた男の子の瞳が輝いた気がした。





「お待たせいたしましたー!今日のランチは”お子様ランチ”です!」

 キター!!まじか!お子様ランチ!!これ絶対俺の世界しか知らないだろ!!

「へぇー、オコサマランチって言うんだ?」

「俺の世界の食べ物です!お子様・・・つまり子供向けのランチなんです!子供が好きなもの詰め込んだ大きい一皿なんですよ!って言っても、もちろん大人も大好きなメニューです!」

「へぇー!確かに見た目も綺麗で可愛いし、全部美味しそうだね」

「グワッ!」

「すっごい可愛いのー!!」

 みんな単品では食べた事があるメニューかもしれない。でも、それが全部盛りだ!!これ、本当に大人になってから食べる事ないんだよなぁ〜!てかどうやって食べるんだって話だよ、大人じゃ頼めないからね・・・。


「うわぁ・・・!!見た事ないっ!!」

 男の子・・・というか、マスター命名”子供”くんは凄く目を輝かせている。彼の世界では似たような食べ物がないのかもしれない。ってか、子供くんは一番最後にきたからまだ出来上がってない。俺たちのプレートが先に来てしまった。まぁ当然なのだが・・・だが、なんか子供を差し置いて食べるのってなんか心が少々痛い。子供くんは凄くお腹空かせてたって言ってたし。俺、まだ時間に余裕あるし・・・


「・・・先に食べる?ここのランチは一種類だから、君も来るのこれだし?」

「えっ!?良いの?!」

「シェフ!これはみんな一緒ですよね?個人別にカスタムされてないですよね?!」

 シェフは気を利かせて、頼んだ人が食べやすいように少しだけ切り方や盛り付けを変えてくれている事がある。けれど、美男子やアヒル副隊長、それにうさぴょんのと見比べても変わりはない。これはみんな共通なのかもしれない。


 ーーカンッ!


「OKだとよっ!」

「ありがとうございます!さ、どうぞ!ゆっくり落ち着いて食べるんだよ?」

「お兄さんありがとう!!頂きます!!!」

 フォークとスプーンを両手に持ち、子供くんはお子様ランチを食べ始めた。




「うんまぁーー!!美味しいっ!この色のついたライス美味しい!!んぐっ・・・!!あとこのっ!!サクサクの長いのもっ・・美味しい!!お肉の塊なんて・・・初めて食べる・・・!!すごい!!」

 チキンライスにエビフライ、ハンバーグ・・・全部喜んで食べてる・・・!!先に食べさせてよかった・・!しかもハンバーグ食べたことないって・・!俺昨日ハンバーガーで同じような肉の塊食べたっていうのに・・・!!


「これが、コイン5枚も要らないで食べられるんだ・・・!!すごいっ!!」


「・・・なんか、扉開けた時は拗ねたガキの顔してたのに、今は年相応のガキの顔してラァ。いくつかしらねぇけどよ」

「こんなに美味しいご飯がこんなに安く食べられるなら・・!僕!一生懸命働く!来週から新聞配りやるんだけど、頑張る!!」

 こんなに小さい子供が仕事?!マジか?!そういう世界なのか?!

「世界が違えば、こんなに違うんですね・・・私の世界の子供で働いている子はほとんどいません。まぁ、訓練はみんなしてますけど」

「うさぴょんのところはみんな働いてるよー!でも、”仕事”って感覚じゃない!みんな楽しくやってるのー!」

「そうやって気軽にできるのが一番だよなっ!」




「ご馳走様でした!!あっ、ママに言われた時間がもうすぐだ・・・また来ても良い?!」

「おうよ、いつでも来いや」

「ありがとう!綺麗なお兄さんたちも、うさぎさんもアヒルさんも、先にご飯くれたお兄さんもありがとう!!また会おうね!!」

「うんっ!!お仕事頑張るんだよ!!!」

「またねー」



・・・ーーー



「はぁー・・・なんか俺、感動しました」

 食後のコーヒーを飲みながらみんなと会話。この時間も俺の幸せな大事な時間だ。

「あの子、多分持っていたお金でご飯にありつけなかったら本当に拗ねてしまいそうな感じでしたね。簡単な拗ねるじゃなくて、なんかもう人生を棒に振ってしまいそうなくらいの」

「多分、ああいう子供が何人もいるんだろうな、子供のいる世界には」

「でもでも!ここのお店知れてよかったよね!働いて、またここに美味しいご飯食べにきてくれると良いよね!!」

 うさぴょんのいう通りだ!!美味しいご飯は人を救うんだ・・・!だから俺も毎日ここに通っている・・・!!


「で?兄ちゃん明日のランチは来るのか?なんか誘われてんだろ?」


「忘 れ て た っ !!!!!」


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