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ハッピーエンド

作者: かりんとう

「ハッピーエンドって、なんなんだろうな」

 僕は手に持っている本を閉じながら問いかける

「…ふむ」

 僕の幼馴染である雪は本を読んでいた手を止めて、何言ってるんだこいつみたいな目を向けてくる

「急に何を言い出すんだいの◯た君、君らしくもない」

「僕の名前は幸人だ、そんなメガネをかけていそうな名前は断じてしていない」

 僕のどこが某ネコ型ロボットに頼り切っている少年に似ているっていうんだ、似ているところはせいぜいテストの点数くらいだ…あれ、まずくないか僕?

 自分の未来を憂いていると、雪がもう一度ふむ、といった後に語りだす

「ハッピーエンドの定義…か、ジャンルによってかなり異なる気がするね。例えば、恋愛小説においてなら、主人公とヒロインが結ばれてめでたしめでたし、みたいな感じで」

 顎に手を置いて考えこむ姿は嫌味なくらい絵になっていた、雪はところでと一呼吸おいて

「どうしてそんなことを聞くんだい?」

「…いや、さ」

 僕は手に持っていた漫画を指さして

「今、終わり方が話題になったこの漫画を読んでいたんだけど」

「あぁ、そういうことか」

 頭の回転が速いこいつは瞬時に僕の言いたいことを理解したようで軽くうなずいていた、幼馴染なのにこの頭の出来の差はなんなのだろう…

 一応、すれ違いがないようにしっかりと説明しておこう

「いやさ、この漫画もある意味ではハッピーエンドなんじゃないかと思ってな」

「…ふむ?どうしてそう思ったのかな」

「この漫画では確かに主人公は死んでしまったけれど、主人公自体はしっかりと目標を果たして、さらにヒロインたちは主人公の死を悲しむが、それでも自殺することなくしっかり明日を生きている、これはハッピーエンドといえるんじゃないか?」

「…なるほど」

 雪は考え込むように目をつむりながら黙り込んだ後にゆっくりと口を開く

「そう聞くと確かにハッピーエンドにも聞こえるかもしれないが、実際はそれだけではないだろう?確かに主人公は復讐を果たすことができたが、その内心では生きて妹の未来を見届けることを望んでいたはずだ、その事実を無視してハッピーエンドと呼ぶのは、いささか無理がある気がするね」

「いや、けどよ、確かにそういう側面があったことは確かだが、むしろ主人公があの内容で死なない方が不自然じゃないか?主人公は人を殺そうと決意していて、実際に実行しちまってるんだ、もし仮に主人公が生きて復讐を完遂させたとして、その罪を償わない、なんて展開はそれこそ炎上ものだろうし、刑務所に入ったなんて展開もつまらないだろう」

「それは論点のすり替えに過ぎないよ、そもそも…」

 こうして俺と雪は議論を重ねていく

 ハッピーエンド派の俺とバッドエンド派の雪の議論は平行線でなかなか決着がつかなかった、俺は床に寝転がりながら

「強情な奴め…」

「お互い様…ってやつだね」

 そういいあった俺たちは、どちらからともなく笑いあう

「ほんと、ハッピーエンドって何だろうなぁ…この物語の落ちだって、どうやってつければいいものか」

「…この物語?」

「や、こっちの話」

「何を言っているかわからないけれど、この物語のことが私たちのこの会話の事であるならば、落ちは決まっていると思うよ」

「…どういう意味だ?」

「言ったろう?恋愛小説において、ハッピーエンドとは」

 雪は、とてとてとこちらへ近づいてきた後、寝転がっている僕の顔を覗き込み、頬を少し赤く染めながら意地悪そうな、それでいて人懐っこい笑みを浮かべて

「主人公とヒロインが、結ばれることさ」

「…この世界って、恋愛小説だったのか」

「知らないけれど、多分そうなんじゃない?」

「適当すぎる」

「…それで、返事はどうなんだい?うら若き乙女の告白に対して返事をしないだなんて、まさかそんな薄情な君じゃないだろう?」

 俺は目をつむって少し考えこむ、可愛らしくて、理知的で、俺のことを想ってくれていた、そんな幼馴染のことが、僕は…

「うーん、無理」

「んなっ!?」

「いや、ちょっと考えてみたんだけど、なんか無理」

「なんか無理!?いうに事欠いてこの男、かわいい幼馴染の決死の告白に対する返事を、なんか無理ってのたまったのか!?」

「うん」

「うんじゃないわこのドアホ!!」

「ほら、そういうとこ」

「…ぐ」

 ばつの悪そうな顔をして目をそらす自称かわいい幼馴染さん

「…君、そんなこと言ってないで、私のような幼馴染を持てたことを光栄に思いたまえよ、そもそもねぇ…」

 そんな語り草から始まり、滔々と自分の魅力を語っている雪のことを呆れ眼で見つめながら、俺はこんなことを思う

 こういう日常が続いていくハッピーエンドだって、あっていいだろう、と

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