9.王都
門を抜けて王都に入る。侯爵領も栄えていたけど、比じゃないくらい賑わっている。アニメでも描かれていたけど、実際目で見るとまた違った印象を持った。
「降りてみるか?」
セイヴァンが私に声をかける。私はハッとして、正面を向きスカートを正した。
「興味ないですわ」
子供っぽいと思われただろうか。ちらっと見ると、セイヴァンは従者に指示を出している。ほどなくして馬車が止まる。セイヴァンが立ち上がって、私に手を差し伸べた。
「レイン嬢、俺とデートしてくださいませんか?」
淡々と私に告げるセイヴァン。無表情で言われたって嬉しくない。無視していると、私の手を引っ張って腰を支える。仕方なく私はセイヴァンと」一緒に馬車を降りた。
馬車を降りて、目の前に広がる景色に感動する。私に合わせてゆっくり歩いてくれたセイヴァンは、近くのドレスショップに入った。これからしばらくは制服だというのに、買う必要あるのだろうか。
「どれでも好きな物選んでくれ」
どれも高そうなドレスに怖気付くけど、今の私は悪女なのだ。セイヴァンの服の袖を掴んで、目の前のハンガーラックの端から端までを指差す。
「これ全部がいいわ」
「わかった」
迷うことなく頷かれて私が驚く。さすが公爵様。全然動じない。私はマネキンが着てるドレスも指差した。
「あれも欲しいわ」
「好きなだけ買うと良い。君へのお礼はどれだけ買っても足りないんだから」
セイヴァンの言葉に引く。これはお礼の一環だったのか。いくらリリーが大切とはいえ大袈裟すぎじゃないだろうか。
「やっぱりやめた。面白くないもの」
私は踵を返し、ドレスショップを後にする。少し歩いて振り返ってみると、セイヴァンはついてきてなかった。さすがに呆れたよね……。
そのまま私は歩き続けて、10分ぐらいしたところで立ち止まった。周りを見渡すが、当然知ってる人はいるわけない。学園までの道も馬車までの道もわからない。詰んだ。完全に迷子だ……。
立ち止まってるとぐいっと腕を引っ張られ、路地裏に連れてかれる。
「セイヴァ……」
「ぐひひ、貴族の令嬢が1人でいるとはなぁ」
3人の小汚い男が私を囲む。手足を掴まれ、抱えられた。1人で外に出るんじゃなかった……。
「助けっ、助けて……」
「うるせぇ!」
服を破られ、手で口を塞がれる。手を押さえられて魔法が使えない。必死に暴れて、男の手が口から外れた隙に噛み付いた。
「セイヴァン……、セイヴァン!!」
一瞬にかけて思い切り叫ぶ。氷の礫が男たちを攻撃した。目の前を銀色の髪が通り、男たちをあっという間に倒していく。男の手が離れ、私は地面に座り込んだ。ふわりと良い香りがして、セイヴァンに抱きしめられる。
「遅くなってすまない。会計してたら見失ったんだ」
ひんやりとしてるのに温かくて、私はセイヴァンに抱きつく。この世界じゃ私、セイヴァンがいないと何もできないんだ……。ぼろぼろと涙が溢れる。セイヴァンがいなかったらと思うと体が震える。
「もう大丈夫だ」
セイヴァンがとんとんと背中を優しく叩いてくれる。私は声を上げて泣いた。
長い間泣いてた気がする。色んなことを考えて、頭がぐちゃぐちゃだった。私が体を離すと、セイヴァンは私の頬を撫で涙を拭う。こんなにも優しくしてくれるセイヴァンを突き放さなければならないのは胸が痛かった。
「馬車に戻ろう」
セイヴァンが私の膝の下に手を入れて、私を抱き上げる。
「わ、わぁ」
「しっかり掴まって」
私は落ちないようにセイヴァンの首に捕まる。馬車に戻ると、セイヴァンは今度は私の隣に座った。セイヴァンの手が私の手に重なる。離れようとしたけど、ぎゅっと手を握られ動かせなかった。
「レイン嬢、さっきは本当にすまなかった。もう2度と、君を危険な目に遭わせないと誓うよ」
セイヴァンの言葉に胸が高鳴る。それを無視して、私は窓の外を見たままため息を吐いた。
「そんなの無理ですわ」
「無理じゃない」
セイヴァンがすぐに否定する。でも、セイヴァンが守る女の子は私じゃない。私は、ヒロインじゃない。
「どうせ殺されるもの……」
「殺される……?誰に?」
無意識に声に出しててハッとする。口を閉ざすとセイヴァンが私の肩を掴んで振り向かせた。青い瞳が私を映す。
「誰にも、レイン嬢を傷つけさせない。絶対に」
私がヒロインだったら……、アミューゼだったら良かったのに……。セイヴァンの言葉に涙が溢れる。本当は助けてほしい、私を好きになってほしい。けど、【氷の公爵のお姫様】はそんな甘い話じゃない。セイヴァンとアミューゼが両思いにならないと、世界が滅びるんだ。涙を流す私をセイヴァンが抱きしめる。
「君を苦しめるものを、全部取り除いてあげられたらいいのに」
ねぇアミューゼ、早く出て来て。小説の未来が変わってしまう前に……。




