8.【運命の人】
ステラを連れて、私は街に来ていた。ステラも本が好きで、最近の流行は運命の赤い糸らしい。新しめの本が揃っているという本屋に行って、私は今一番売れてる小説を手に取った。
パラパラと捲って、私は驚く。そこには間違いなく”転生”と書かれていた。すぐに買って、近くのカフェで本を読む。小説の中で売ってる小説も、作者の好みが反映されるのだろうか。
【運命の人】というタイトルの小説は、【氷の公爵のお姫様】に内容が似ていた。異世界転生したヒロインが、クールな公爵に出会って恋に落ちる話。当然悪役令嬢も出てくる。作者を見ると、Amiと書かれている。ローマ字読みで良いんだろうか……。
「店長、このAmiって人どこに行ったら会えますか?」
本屋に戻って、私は尋ねる。直感でこのAmiって人が気になった。もしかしたら私と同じ転生者かもしれないと。
「知らないねぇ。出版社なら知ってるかも。王都のでかい出版社だよ」
「ありがとう」
王都ってことは、学園に戻ってから休みの日に行くのが良いだろう。とりあえず私は【運命の人】のシリーズ3冊を買って帰宅する。自室に戻って私は小説を一気読みした。読めば読むほど、現代の小説の雰囲気で転生者だと確信する。彼女は誰に転生してるんだろうか。小説家になってるということは、モブとして優雅に暮らしてるんだろうか。羨ましいな。
「私、異世界転生しちゃってるってコト〜〜!?」
次の日、私は変装して街に来ていた。噴水の淵に座って、朗読する。最初はみんな横切って通り過ぎるだけだったけど、徐々に足を止めてくれる人が現れる。大袈裟に読み上げると、ワッハッハと笑い声が聞こえた。
「嬢ちゃん上手いなぁ」
「でも別世界に行くなんてありえねーよ」
おじさんたちが私に言う。ありえるんですよ、これが。でも確かに、現代ならともかくこの世界でも異世界転生ものが受け入れられるなんてAmiって人の凄さを実感する。
「このマシェリって奴がムカつくわ〜」
「でもマシェリが婚約者でしょ?ミーファが性格悪いのよ」
いやいや、マシェリにも問題があって。と思うけど確かに……。当たり前のものとして受け入れてたけど、浮気する公爵と身分違いな上に婚約者がいる相手に近づくヒロインもなかなかなのかも。それでも、それを覆してしまうのが愛で私はこの話も好きだった。
セイヴァンはこの小説を読んだら何て反応するんだろう。ありえないと言うのか、それとも共感するのか。今は私を受け止めようとしてくれてても、アミューゼが現れたらきっと変わる。小説というのはそういうものなのだ。
「面白かった。また読んでくれよ」
「次が楽しみだわ」
地面に置いた器に、何人かがお金を入れてくれる。このまま定着すればお金を稼げるかもしれない。ただ生憎明日からは王都にある学園の寮に戻らなきゃいけないけど、また休みになったらここに来ようと心に決めた。
帰宅して私は学園の情報を思い出そうとする。レインの取り巻きは3人。ケイトン伯爵令嬢とアモッサ伯爵令嬢とラネール子爵令嬢だった気がする。名前はただの取り巻きだからアニメには出て来なくて、ステラに聞く。後頭部ではアミューゼをいじめてたけど、物語開始前の中学の時まではどうしてたかわからない。高等部の時と同じように誰かをいじめていたのだろうか。3人を観察すればわかるかな?なんて考えながら、どんどん気が重くなる。いじめはやらないにしても、言動には十分気をつけなくちゃ。
次の日、学園寮に向かうため家を出ると止まっていた馬車のカーテンが開いた。中に見えた人物に私は驚く。
「あ、あの……セイヴァン……様。何で?」
「何でって、行き先は同じだろう?送るのも婚約者の務めだからな」
何で?私まだ幻の花を取りに行ってしか……、待てよ?私は今心の病を患っていると思われてる。それで過保護なのかな。
「あの、セイヴァン様……。受け止めてほしいって言ったのは階段から落ちるのをであって、セイヴァン様が思ってるような意味では……」
「階段から落ちるのが趣味なのか?」
真顔で聞かれてそれを肯定するのは憚られる。断じて趣味ではない。
「まぁいい。レイン嬢は何も気にするな」
馬車から降りて、セイヴァンは私の手を引く。正直右も左もわからない異世界で、知ってる人がいるのも優しくしてくれるのもホッとする。だがしかし、この手を取ってはいけないんだ。
私はセイヴァンの手を振り払う。セイヴァンはじっと私を見た。視線が痛い。
「私が簡単に手に入るとは思わぬことです」
レインはセイヴァンが好きだった。それでも素直になれないのがレイン・アルバドールなのだ。そっぽを向き正面に座る。小説通りに戻さなければ。お互い傷つく前に……。
しんと静かになる車内。元々セイヴァンは物静かなのだ。レインが喋らなければ会話はない。私たちを乗せた馬車は気まずい空気を無視して、ゆっくりと王都にある学園へと向かった。




