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前世が人気声優だった私は、完璧に悪女を演じてみせますわ!  作者: 桜咲ちはる


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7.帰る条件


 落ちる間に見えたセイヴァンの顔は驚いていた。ドンッとぶつかり、強く抱きしめられる。私は目を開け、周りを見渡してがっかりした。


「戻って、ない……」


 転生した時の条件が揃ってるのに、景色は【氷姫】の世界のままで。セイヴァンが私の肩を掴んで離す。


「レイン嬢、気は確かか?」

「え、ええ。ちょっとやってみたかったの」


 私、本当に戻れないの……?ぽろぽろと涙が零れる。頭に手が置かれ、引き寄せられる。セイヴァンに抱きしめられたのだと気づいた私は、涙が引っ込んだ。


「大丈夫だ、俺がいる」


 暖かく、力強いセイヴァンの声に大丈夫じゃないのに安心する。元に戻る方法がないなら、ここで生活するってことで。処刑を免れた上で、セイヴァンとアミューゼをくっつけなきゃいけない。でも、元に戻ることも諦めない。


 私はセイヴァンの胸を押し、体を離す。アミューゼが現れた後だと物語の強制力に引っ張られるかもしれない。私はセイヴァンを見上げた。


「セイヴァン様、婚約破棄してください」

 

 セイヴァンが目を丸くする。私の頬に触れようとした手をセイヴァンは引っ込める。


「どう、して?」


 今度は私が目を丸くした。何も聞かず了承してくれると思ってた。父親が国王に頼んだ婚約で、セイヴァンには何のメリットもないはずだから。何て答えよう。悩んでるとお父様がやってくる。


「レイン、お前は何を言ってるんだ?セイヴァン様、娘は心の病にかかっておりまして、突然おかしなことを言うんです。本心ではないので、どうかお気になさらぬよう……」


 私はお父様を睨む。うちにとって、公爵家との婚約は超大事だろう。でも私には、処刑を回避する方が大事だ。


「セイヴァン様、私はこの通り元気ですわ。なので本心です!」


 必死に手を振って飛び跳ねて、元気をアピールする。セイヴァンは口に手を当てて苦笑した。それから私の腰に手を回して引き寄せる。


「あからさまに否定されると傷つくな」

「え、あの……」


 傷つくとか嘘ばっかり。答えられずにいるとセイヴァンが私の頭を撫でる。


「今は余計なことを考えるな。ゆっくり休んで。また来る」


 セイヴァンはそう言って、私のことをステラに頼んで去っていく。これはー……、まずいなぁ。セイヴァンの好感度が予想より上がってる?悪役令嬢ものだと、正ヒロインとくっつくはずだったヒーローが転生ヒロインを溺愛する展開が待っている。私に限ってそんなことはないと思うけど、小説の中に入ってる今はそうとも言い切れない。レインになりきらなきゃ。


 それからも私はレインとして、残りの休みを過ごそうとしていた。ステラがドアをノックして来客を知らせる。その人物の名前を聞いて顔を引きつらせた。4日前にも会ったばかりだというのに……。


「セイヴァン様、もう私に会いたくなったのかしら?」


 いくら何でも堕ちるの早すぎない?こうなったら悪女になって嫌われるしかない。立ち上がって振り向いたセイヴァンは相変わらずかっこいい。見惚れるのもほどほどにして、私はセイヴァンの首に腕を回した。


「ああ、君が心配でね」


 表情を変えずに答えるセイヴァンに、私の方がどきまぎしてしまう。腰に手を添え、引き寄せるセイヴァン。何だか恋人みたい。


「あら、心配しなくても私は元気よ。オーホッホッホホ」


 わざとらしく高笑いをする。隣に座るとセイヴァンは私の手を握った。


「いくら私が魅力的だからって、惚れるのが早くなくて?」


 自惚れにもほどがあるセリフ。でもレインは平気でこういうことを言う。セイヴァンが私から目を逸らす。


「受け止めるって約束したからな」


 セイヴァンの言葉に止まる。受け止めるって、そういう風に取ったの?私は立ち上がってセイヴァンを見る。


「どうせ数年後には嫌になってるわよ」


 自分で言ってて悲しくなる。けどそれが悪役令嬢の宿命だから。セイヴァンは怪訝そうに眉を顰める。セイヴァンは立ち上がって、私の手を掴むと跪いた。


「信じれないのも当然だ。だが俺は、君を幸せにすると証明する」


 まっすぐな言葉に絆されそうになる。私は手を引っ込めた。学園に行ったらすぐ男遊びをしなくては。婚約破棄になったら家にも勘当されるよね?生活する手段も考えよう。


「セイヴァン様、私これから用事があるの。見送って差し上げますわ」


 どうぞ、とドアを開けてセイヴァンを追い払う。去り際、セイヴァンは私の頭を撫でた。くーっ、かっこよすぎる。


 セイヴァンを見送って、私は何するかを考える。得意なことと言えば声を使う仕事だけど、この世界にアニメはない。演技……はその団体に入るのが大変だろうし、と考えて私はパンッと手を叩く。


「そうだ、朗読劇」


 私なら完璧に出来る。そう思って家の書庫を探して本を読むけど、惹かれるものがない。恋愛、それも純愛ものがいいんだけど……。私は何か良い本がないか、街に探しに行くことにした。

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