6.レインの願い
目が覚めえて、視界に映るシャンデリアにがっかりする。私はまだ【氷姫】の世界にいるらしい。寝返りを打って、ここがレインの部屋じゃないことに気づく。気を失ってからの記憶がない。ここはどこだろう……。
「お目覚めですか?」
見慣れない侍女が部屋に入ってくる。瞬きをすると、ここがフォールス領だと教えてくれた。フォールスってセイヴァンの家だよね?親切に家に上げてくれるとは思わなかった。メイアという侍女に支度を手伝ってもらって部屋を出る。ポーマが廊下に立っていた。
「お嬢様、おはようございます。体調はどうですか?」
「悪くないわ」
返事をすると、「3日も眠ってましたもんね」とポーマが言う。私は驚いて振り返った。
「3日?」
「はい、魔力切れ起こしてたんだから無理もないです」
私はぐーぱーと手を開いて閉じる。確かに空っぽだった力が戻ってる気がした。3日間も私もポーマも公爵領に居たのだろうか。メイアに案内され、私は食堂室に入る。すでにセイヴァンと、多分妹さんが食事をしていた。
「起きたのか」
「おはようございます、お姉様」
初めて見るリリーは、セイヴァンに似た銀髪に大きな空色の瞳をしていて、まつげは長くてぱっちりとした美少女だった。
「お姉様のおかげで私は助かったと聞きました。本当にありがとうございます」
まだ何も言ってないのに、リリーはお礼を言ってくれる。セイヴァンが離してくれたのだろうか。
「私のためにしたことよ」
「それでも、おかげで元気になりました。お礼は何でもしますので、お兄様におっしゃってください」
キラキラと眩しい笑顔でリリーは言う。セイヴァンを見ると、頷いてくれた。セイヴァンも何でもしてくれると捉えていいのだろうか。
「リリー、話してばかりだとレイン嬢が食事できないだろう」
「はっ、すみませんお姉様」
どうぞ、とリリーが椅子を指す。私はメイアに椅子を引いてもらい、席に座った。食事中はすっかり元気になったリリーの話を聞いて、相槌を打つ。色々と心配なことはあるけど、リリーが元気になってよかった。
「リリー、病み上がりなんだからはしゃぎすぎるな。ほら、部屋に戻ろう」
「はい。ではお姉様、また……」
セイヴァンに連れられ、リリーは食事室を後にする。いつセイヴァンに話を切り出そう。今日を逃せばセイヴァンはしばらく会ってくれない。食事室で待ってると、セイヴァンが戻ってくる。
「レイン嬢、あの日は言う機会を逃したが君に本当に感謝してる。リリーも幻の花のおかげであの通りだ。君がいなかったら対処法も幻の花を手に入れることもできなかった。礼を言う」
アニメだとセイヴァンがこうしてレインに向き合うことなど考えられなかった。感極まって涙が出そうになるのを堪え、首を横に振る。
「だがレイン嬢は、何故幻の花が効果あると知っていたんだ?」
ふと、セイヴァンに言われて固まる。あの時は必死で言い訳なんて考えてなかった。
「ほ、本を読んだのです。だいぶ昔だったからもうその本は手元にないですけども」
「そうか」
慌てて言い訳すると、深くは突っ込まれなかった。他人に興味がないセイヴァンに感謝する。セイヴァンは私に手を差し伸べる。恐る恐る触れると、セイヴァンは椅子から立たせてくれた。ぐいっと手を引かれ、セイヴァンとの距離が近づく。
「レイン嬢、君にお礼がしたい。俺にできることなら何でも言ってくれ」
来た。セイヴァンに無事恩を売れたらしい。私はにっこりと笑った。
「では、我が家に一緒に来てくださらない?」
馬車で聞いた話だが、あのまま家に帰ると魔力切れした理由を追及されるだろうからと婚約者権限を使って公爵領に連れていってくれたらしい。今までのセイヴァンならレインを家にあげることすら嫌がっただろうな、と思うから少しでも好感度が上がってくれたならよし。
侯爵領に着いて、先に馬車を降りたセイヴァンが手を出してエスコートしてくれる。私はセイヴァンの手を取り家に帰った。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
使用人たちが出迎えてくれる。騒がしかったからか両親も顔を出したから、軽く挨拶した。
「それで、レイン嬢。家に送るだけが礼じゃないよな?」
セイヴァンに聞かれ、私は首を縦に振る。こんなイケメンと別れるのは惜しいけど、それよりも私は家に帰りたかった。
「はい、セイヴァン様には私を受け止めてほしいのです」
「わかった」
セイヴァンが頷いたから、私は手を離して階段を上る。
「レイン嬢?」
「行きます」
セイヴァンに合図して、私は階段から飛び降りた。




