5.幻の花
ボンッと大きな音を出し、黒い球が魔物に飛んでく。こんな技じゃなかったけど、って大きくない!?木よりも大きい魔物の半分くらいの大きさの球が魔物に当たり、魔物が呻き声を上げ倒れた。バッと3人が振り向く。
「すごいです!お嬢様」
「一体どんな魔法を……」
感激するポーマと驚くレビウス。私だってわからない。この世界には魔法の呪文は存在しないのに……。セイヴァンが寄ってきて、私の手を掴む。
「手が間違ってるんだ。真似してみろ」
パッと手を離し、セイヴァンが手を動かす。私も動かしてみるけど難しい。するとセイヴァンは私の後ろに周り、抱きしめる形で手を掴む。二次元のイケメンが至近距離にいて、平気なわけがない!体温が直に伝わる。正面からじゃなくてよかったかもしれない。私の顔は今、真っ赤だろうから。
「……こうするんだ。聞いてるか?」
「ひゃ、ひゃい!」
ダメだ、何も聞いてなかった。それを察してか、セイヴァンがもう一度教えてくれる。手を動かし終えた時、ビームが手から放たれ魔物を焼き尽くした。
「やはり、膨大な魔力だな……」
「お嬢様は天才ですね」
笑顔のポーマとは反対に、セイヴァンは眉を顰める。
「レイン嬢、それだけの魔力を持っていて、何故魔法を使うのを渋っていたんだ?」
何でセイヴァンが知ってるの?確かにレインは魔力が少ないことを気にして、授業ですらあまり使わず見学していた。やばい、別人だってことがバレてしまう。
「わっ、私は自由気ままに暮らしたいのです。王国魔導士なんてごめんだわ」
どう?レインっぽい?セイヴァンは目を丸くしていたが、少ししてぽんと私の頭に手を置いた。
「確かにな。なら今だけ力を貸してくれ、レイン嬢」
大きくて、氷の公爵の名に恥じないひんやりとした冷たい手。肌のなめらかさとは違い、骨ばったゴツゴツとした手に心臓が跳ねた。
セイヴァンに手を引かれ、頂上を目指す。次第に木の枝が覆い被さるように交互に重なり、空が見えなくなる。カラスの鳴き声が耳を突き破り、おどろおどろしい石碑が見えた。間違いない、頂上だ。
「レイン嬢、今からやる動きを覚えてひたすら撃ち続けてくれ」
「わかったわ」
セイヴァンは先ほどより少しゆっくりめに手を動かしてくれる。1度目を終え、繰り返そうとした時に「ぐおぉぉぉぉぉ」と呻き声を上げ、それは現れた。
「ドラゴンか」
セイヴァンが氷魔法で攻撃し、ポーマとレビウスが剣で斬る。私は深呼吸をして、教わった通りに手を動かした。ビームが手から放たれる。異世界転生して魔力がなかったらと思うと、恐ろしい。この設定を作ってくれた姫奈先生に感謝だ。
どれくらい魔力を使っただろう。がくっと足に力が入らなくなり、膝をつく。セイヴァンたちももう限界みたい。魔物の攻撃を受け、怪我をしている。どうにかしなきゃ……。私は思いっきり叫んだ。
「おりゃあああああああ!」
ぐっと手を前に出す。するとドラゴンは唸り声を上げ、爆散した。
「やった……」
私はその場に座り込む。私の手で倒せた……。視界が開け、岩の上に一輪だけ白い花が生えていた。原作じゃ、何輪あるか描写されてないから知らなかった。セイヴァンが近づいて、花を摘もうとする。
「待って」
止める私を怪訝な顔して振り返るセイヴァン。わかってる、早く持って帰らなきゃいけない。けど今摘んでしまったら?アミューゼが同じ病にかかった時助けられなくなる。
「この先、セイヴァンの……セイヴァン様の大切な人が同じ病にかかったとして、後悔しませんか?」
未来のために残すってことは、妹さんを見殺しにすることだ。そんな道は選ばないってわかってる。でも未来を知ってる者としては、忠告するべきだと思った。
「しない。リリーより大切な人なんていない」
予想通りの答え。アミューゼとまだ出会ってないから、そう答えるしかないだろう。
「ならよかったです」
と私は返事する。私だってそうしていただろうから。私は今日、未来を変えてしまった。そのことでどんな不都合が起きるのか、想像すると怖い。でもきっと、セイヴァンなら……ヒーローならどんな困難でも乗り越えられるんだろう。
「早くお花、持っていってあげてください」
どうぞ、と手を前に出した瞬間体がぐらつく。セイヴァンが私の肩を支えた。
「悪い、魔力切れ起きてるかもな」
セイヴァンがレインに謝るなんて……。謎に感激してしまう。けど何か言いたいのに、口が動かなくて私は意識を失った。




