30.災厄
人々が怯え、悲鳴を上げる。魔物が人や建物に飛び乗り、火を噴く。行きに見た王都の平王は見る影もなくて、私もセイヴァンもレビウスも馬車を降り魔物と戦う。さっき馬車の中で教わった魔法は強くて、小物くらいならサッと倒せる。
「公爵様!お助けを!!」
「もちろんです」
セイヴァンは王都でも名が知られてるみたいで、ちょくちょく声をかけられている。倒してホッとしたのも束の間、奥の方で人が魔物に引っ掻かれ血を流して倒れる。慌てて駆け寄ったけど、手遅れで奥さんらしき人が泣き崩れる。
「姫奈先生……」
いくら私が憎くても、自分の生み出した世界を人たちを危険な目に遭わせるなんて信じられなかった。私は演じる側で、物語を生み出したことはないけれど……もし同じ立場ならめちゃくちゃにしたいと思うのだろうか。
「マイ!」
そんなことに思考を取られて、周りが見えなくなっていた。セイヴァンが私を庇って腕を怪我する。
「ごめん……」
「大丈夫。怖いなら下がってて」
私の頭に手を置いて、真剣な表情でセイヴァンが言う。わかってる。これは遊びじゃないだ。
「もう大丈夫」
「そっか」
私たちに攻撃してくる魔物を、魔法で次々と倒していく。この展開のボスは魔王なのか、それともアミューゼなのか。数が多くて小物を倒すだけで体力が消耗する。短期で決着つけられる方法はないだろうか……。
「マイっ!」
セイヴァンが私の手をいきなり掴む。驚いて暴走しかけた魔法を、セイヴァンが氷魔法で止める。セイヴァンを見上げると青ざめた顔で私の手を見る。あぁ……。
「どうした?この手」
「だっ、大丈夫」
振り解こうとしたけど振り解けなくて、セイヴァンが私の手を掴んで騒ぎの中心から離れる。こう話してる間にも次々と犠牲者が出てしまうというのに……。
「いつから?魔物の毒か?」
「それは、多分違う……。その、元の世界から呼ばれてるのかも」
痛みはないし、この戦いの前から症状は出ていた。セイヴァンが私の手を両手で包み込んで、顔を歪める。
「帰らないでほしい……」
「私だって帰りたくない……」
セイヴァンともっと一緒にいたい。でも……。ドンッと後ろで大きな音が鳴る。この戦いに決着をつけなきゃいけない。
「セイヴァン、今はこの街を守ろう。じゃなきゃ一緒にいられなくなっちゃう」
「……ああ」
私はセイヴァンの手を引っ張って、魔物たちのいる方に戻る。レビウスと合流しようと姿を捜した私は目を見張った。
「レビウス!?」
足から血を流しているレビウスが、壁に寄りかかり浅く呼吸をしている。
「すみません、少しヘマしました」
「ゆっくり休んでろ。あとは俺がやる」
セイヴァンがレビウスの肩に触れ、魔物を攻撃する。私は治癒魔法が使えないから治してあげられない。私が聖女だったらどれほどよかったか、そんなこと何度も思った。
「ごめんね、私も行ってくる」
「お気をつけて」
手に力を込めて、魔法を出す。チートがあるはずの私でも苦戦するなんて、魔王にはどれだけの力があるんだろう。
「アミューゼ!聞こえてたら返事して!ちゃんと話をしよう!!」
私は魔物を倒しながら、空に向かって呼びかける。でも反応はない。
「姫奈先生!本当にこの世界を壊すんですか?」
その言葉に反応してか、私の足元に雷が落ちる。姫奈先生に聞こえてるんだ。
「姫奈先生は良い人のはずです!アミューゼやセイヴァンみたいなみんなに好かれるキャラを作れて、この美しい世界や物語を書ける。現場にもたくさん差し入れしてくれて、アニメが成功するように気にかけてくれて。美しい心の、きゃっ!」
「マイ!」
攻撃が強くなる。説得は本当に無理なんだろうか。雷が腕を掠めて血が流れる。痛い、怖い。でも、諦めるわけにはいかない。
「姫奈先生!私はこの作品のファンだから!この世界を守りたいです!」
街が破壊され、魔物が一回り大きくなる。地面が揺れ、立ってるのがやっとで。セイヴァンが私の手を掴んでレビウスの方に行く。まだ、まだ逃げるわけにはいかないのに。
「セイヴァン、まだ倒せてない」
「でもこれ以上は危険だ」
小説ではどうしてたっけ?必死に思い出そうと記憶をかき集める。確か、魔王が現れる場所は……。
「セイヴァン、王宮だ!王宮に行かないと」
「っ、わかった」
セイヴァンは方向を変えて、走り出す。魔王は自分が次の国王になるために、現国王を殺すんだ。長い階段を駆け上がって、息が上がって倒れそうになるのを必死で堪える。
「もうすぐだ、マイ」
「っ、うん」
セイヴァンの手をしっかりと握り、王宮に足を踏み入れる。広間で人が倒れていて、中央に男女が2人立っている。私たちの足音に、その2人は振り向いた。国王らしき人にナイフを突きつけ、魔王とアミューゼが私たちを見る。
「やっと来たわね。さすが悪役令嬢、ボロボロじゃない」
「はぁはぁ、姫奈先生……。こんなことして何になるの?」
ヒロインのアミューゼの顔に純粋さはなく、悪に染まっている。アミューゼはフンッと笑った。
「何にもならないわよ。でもあなたたちが幸せになるのが許せない」
「おい女、俺が国王になるって素晴らしい目的があるだろう?」
魔王がアミューゼの頭をガッと掴む。アミューゼは魔法を出して、魔王を攻撃する。
「おいおい、おっかねぇな」
「悪役が。おとなしくしてて」
アミューゼは私の方を向いて、攻撃を仕掛ける。セイヴァンが氷魔法で受け止めた。




