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前世が人気声優だった私は、完璧に悪女を演じてみせますわ!  作者: 桜咲ちはる


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29.嵐の前


「ねぇセイヴァン、デートしよ」


 私はセイヴァンの元に戻って、セイヴァンの腕に抱きつく。セイヴァンは驚いてから、私の額に触れ前髪を撫でた。


「体調はもう大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫」


 両手の拳を握ってアピールすると、セイヴァンが安堵した表情を見せる。


「わかった。どこ行きたい?」

「綺麗な景色のところがいいな」


 魔王が現れたらどうなるか、わからないから。セイヴァンが使い魔を出して空に飛ばす。それから私の手を繋いだ。


「王都から少し離れるけど、綺麗な場所があるんだ。君もきっと気に入るよ」

「楽しみ」


 手を掴むセイヴァンのては強くて、表情も硬い。魔王が現れてしまったんだから、当然だよね。私は足を止めて振り向いたセイヴァンの肌に触れた。セイヴァンの口角を無理やり上げる。


「セイヴァン様、笑って」


 もうすぐ、魔王が暴れ世界は平和じゃなくなる。だから今は少しでも楽しんでおきたかった。セイヴァンが悲痛そうな顔をして、私に覆い被さり強く抱きしめる。


「ああ、楽しもう」

「大丈夫、私たちは負けないよ」


 いつも不安な時は声を出して乗り越えてきた。今回だってきっと大丈夫。馬車が到着して、レビウスが出てくる。私はセイヴァンの手を引っ張って馬車に乗った。向かいに座るセイヴァンを見ると、自然と笑みが溢れる。映像を通してみてたキャラクターが目の前にいるなんて、今でも信じられない。整った顔に切長の目、長いまつ毛に薄い唇。そのどれもが美しくて、絶対に死なせたくないと改めて思う。


「何を考えてる?」

「今が一番幸せかもなって」


 普通じゃ出会えなかった特別な人。セイヴァンが立ち上がり、私の隣に座る。


「大丈夫。これからもっと幸せにする」


 セイヴァンが私の手を強く、優しく握る。私はセイヴァンの肩に寄りかかった。


「そうだね」


 セイヴァンは強いから大丈夫。それより今は集中しなきゃ。私は今日、決意していた。セイヴァンに告白するって。想いは通じ合えたけど、あんなの、ちゃんとした告白じゃなくて。改めて私の気持ちをセイヴァンに伝えたいと思った。


「マイは呑気だな……」


 呆れた声でセイヴァンは呟く。私だって状況はわかってる。だからこそ、後悔のないようにしておきたかった。馬車が止まり、セイヴァンが先に降りる。セイヴァンの手を掴んで馬車を降り、顔を上げた私は息を呑んだ。


 目の前に広がるお花畑。色とりどりの花が並んで揺れている。日本にも綺麗なお花畑はあるけども、ここまで一面花だらけな景色を初めて見た。


「すごい……。すごいね」

「ああ、俺も好きなんだ」


 こんな場所、小説には出て来なかっただろうしセイヴァンが花畑を好きなことも初耳だ。


「何か思い入れあるの?」

「……昔、家族で一度だけ来たことがあって。いつか君も連れてきたいと思った」


 そんなふうに思ってもらえてたなんて、涙が出てくる。指で涙を掬おうとして、私は手を止めた。左手の甲や手のひらをじっくり見る。やっぱり気のせいじゃない。手が透けてる。私はバッとセイヴァンを見上げた。セイヴァンはまだ気づいていない。少しほっとしたのと同時に頭が真っ白になる。小説のアミューゼは一度もこんなことなかった。

 

 元の世界に戻るの?それとも……、死んじゃうの?どっちも嫌だ。私はセイヴァンの腕に抱きつく。


「マイ?顔が真っ青だ。馬車に戻ろう」

「嫌だ。まだ帰りたくない」


 このままセイヴァンと別れることになったら、私は立ち直れない。私はセイヴァンの腕を掴んで、まっすぐ向き直った。こんなの、理想とは全然違う。けど、いつまでここにいられるかわかんない。


「セイヴァン」


 私は背伸びをして、セイヴァンにキスをする。


「私、セイヴァンのことが好き。大好き。何が合っても、一生セイヴァンを愛してる……」


 たとえ離れ離れになっても、セイヴァンが手を伸ばし私の涙を指で掬う。


「俺もマイだけを愛してる。何が遭っても、離れない」


 本当にそうだったらいいな。せめて、せめて魔王を倒すまではこの世界にいたい。でも願いよりも時間はないかもしれない。空が紫色になって、セイヴァンが私を背中に隠す。キーンとスピーカーから出るような音が鳴った。


「オーホッホッホ。私の子供たちよ。創造神にひれ伏す準備は出来ているのかしら?」


 アミューゼの声だ……。本当にアミューゼは魔王側についたんだ。黒い化け物が王都に向かって飛んでいく。セイヴァンが私の腕を掴んだ。


「マイは逃げるんだ。王都から離れた遠い場所に、」

「嫌。私だって転生チートを持ったヒロインなの!」


 私だけ逃げるなんて出来ない。セイヴァンは迷って、その結果私の手を引っ張って馬車に乗り込んだ。


「レビウス、王都に戻れ」

「はい」


 私の手を強く握り、セイヴァンが呟く。


「マイ、俺から絶対離れるな」

「うん」


 きっと大丈夫。私はそう信じる。

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