28.お茶会
セイヴァンとミンハルとサムスとベンと私という、想像していたお茶会とは違うメンバーでテーブルを囲む。ハーブティーだけでもたくさんのメニューがあって、選ぶのに迷う。
「レイン嬢、目キラキラしてる」
「こんなたくさんのハーブティー飲んだことないんですもの」
ケーキも選ぶのに、ハーブティーから先に進めない。他の3人はすでに決まっていて、悩んでるのは私とベンだけだった。
「全部頼もうか?」
「いや、それはもったいないから!」
セイヴァンはすぐお金を出そうとする。小説やアニメを読んだ時は、何でも買ってくれる男性をかっこよく見えてたけど実際は生活もあるし恐れ多い。
「セイヴァン、相当惚れてるなぁ」
「婚約者なんだ。当然だろう」
セイヴァンは想像以上に言葉で愛を伝えてくれるから、聞いてる私が恥ずかしくなる。でも同時に嬉しく思った。
「レイン嬢、顔に出てるよ。可愛い」
「え……、まっまあね」
レインの顔なのだ。私がどんな顔しようとも、少しくらいじゃこの美少女の顔は崩れないだろう。そんなふうに思ってた時だった。ドクンといきなり心臓が跳ね、苦痛に襲われる。私はテーブルに手をつき、前かがみになってカップが床に落ちて割れる。
「レイン嬢どうした?」
「だ、大丈夫……」
喋るのも辛いくらい胸が痛くて、床に倒れかける。セイヴァンが抱き留めてくれて、そのまま私をお姫様抱っこした。
「悪い。レイン嬢を医者に連れていく」
「うん、気を付けて」
セイヴァンが歩き出そうとした時、視界が真っ暗になった。3人が立ち上がって、剣がぶつかる音がした。
「何者だ」
「貴様らは知らなくてもよい。俺はその女に用があるのだ」
少し目を開けると、男が手を前に出す。その瞬間、セイヴァンたちが倒れた。私もセイヴァンと一緒に転ぶ。
「魔王……」
セイヴァンたちに劣らないくらいの美形。モブじゃない。アニメ化したらこんな感じなのか。ククク、と魔王が笑う。
「そうだ、やはりお前は殺すべきか」
片手で首を絞められる。苦しい。セイヴァンが立ち上がり、私の間に入ってくれるが圧倒的な力で吹っ飛ばされる。魔王がこんな早く、しかも自ら動くだなんて。
「……アミューゼに頼まれたの?」
アミューゼならヒロインだから、その気になれば魔王すら動かせるだろう。魔王は不敵に笑って私を突き落とす。セイヴァンが私に駆け寄った。私はゴホゴホと咳をする。
「また会おう」
片手を上げて、魔王は消える。姫奈先生が魔王側に付くなんて……。本当に自分の世界を壊そうとするのが信じられない。
「レイン嬢、すまない。君を危険な目に遭わせてしまった」
「大丈夫……、相手は魔王だから……」
今この世界の聖女はアミューゼしかいない。つまりアミューゼを味方に付けられないと魔王に負けてしまう。私は女子寮に走った。
「レイン嬢!」
何としてでも姫奈先生を説得しないと。手あたり次第アミューゼの居場所を聞くが、誰も知らないらしい。アミューゼの部屋に行くと、同室のミレーナがいた。ミレーナならきっとアミューゼの居場所を知ってる。
「ミレーナ!アミューゼどこにいるか知ってる?」
入口に手をついて息を整える。ミレーナはキッと私を睨んで、思わず固まる。え……。
「あなたのせいで、アミューゼは退学したのよ」
責めるようにアミューゼが私に言う。私は返す言葉がなかった。優しいミレーナに敵意を向けられたことでようやく自覚する。姫奈先生を追い詰めてしまったんだと。私と同じで、姫奈先生だってこの世界で一人心細かったはずなのに……。帰りたくて、でも唯一ヒーローのセイヴァンがいて。セイヴァンだけが頼りだったはずなのに、私が……。
「同情するならセイヴァン様と別れて」
でも一つだけ、言えることがある。私はまっすぐにミレーナを見た。
「何があっても、私はセイヴァンと別れない」
セイヴァンが私を好きでいてくれるうちは。それだけははっきりしてる。ミレーナがカッとなって私に手をゲル。私は風魔法でその手を防いだ。
「アミューゼが敵になるというなら、聖女には私がなるわ」
ヒロインじゃなくても、私だって転生者だ。声優だって何だって、諦めたらそこで終わってしまう。怖いけど、私はこの世界を……セイヴァンをもう物語の世界とは思えないんだ。
「あなた、図太いのね」
悔しそうに、ミレーナが言う。私は髪をふぁさっとなびかせた。
「だって私、悪女レイン・アルバドールだもの」
欲しいものは何でも手に入れてみせるわ。ミレーナに背を向けて、私はアミューゼの部屋を出る。震える手を強く握った。大丈夫、世界はうまく回るはず。アミューゼの力を借りなくても、セイヴァンと私……転生者がいるからきっと大丈夫。だよね?




