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前世が人気声優だった私は、完璧に悪女を演じてみせますわ!  作者: 桜咲ちはる


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25.異世界生活


 何も考えたくなくて、私は休学してアルバドール家に戻っていた。セイヴァンに頼れない世界で、どう生きていけばいいんだろう。姫奈先生も戻り方を知らないんじゃ、存在しないだろうし。処刑を回避するには田舎でスローライフを送るしかない。まさに転生令嬢物語だわ……。そのためにも稼がないと。


 私は【運命の人】を手に取ろうとして、躊躇う。結局その隣の冒険小説を鞄に入れた。姫奈先生の作品は素晴らしいけど、今は読める気分じゃなかった。ステラに頼んで支度をして、私は侯爵領の噴水広場に行く。ベンチに座り、本を読み上げた。


「俺はキャプテンエドワードだ。宝は俺がもらう」


 この世界の小説はどれも面白い。心を込めて読んでると、徐々に人が集まってきた。大きな声で笑ってくれたり、感動して涙を流してくれたり。小説も声も、その力を思い知る。私はやっぱり、声優の仕事がやりたい。


「すみません、お嬢さん。少しよろしいですか?」


 読み終えて帰り支度をしていると、声をかけられる。黒いスーツに身を包み、整った顔立ちの紳士が私を見ている。


「いかがなさいましたか?」

「私はこういう者です。早速ですが、劇団に興味ありませんか?」


 名刺を受け取ると、名刺には劇団長と書かれている。私は顔を上げた。声優とは違うけど、演技はしたいしこれは何かの縁だと思った。


「ぜひ……」

「彼女は未来のフォールス公爵夫人です。就職はいたしません」


 黒髪で燕尾服を着た、私とさほど変わらない身長の男性が私の前に立つ。レビウス?適当なことを言うレビウスに、どうしてここにいるかも気になったけど私はとりあえずレビウスの服を引っ張る。


「私はセイヴァンを騙してたのよ。公爵夫人なんて無理だわ」

「ですがセイヴァン様はあなたを手放す気はないようです」


 そんなこと言われても……。でもレビウスがここにいるってことはそういうことなんだろう。レビウスは劇団長と勝手に話をまとめてしまう。劇団長が去って、レビウスが振り向く。


「セイヴァン様は待っておられます。大事なのは、あなたがどうしたいかです」


 セイヴァン……。目頭が熱くなる。


「レビウスは知ってるの?その、小説のこと……」

「いえ、詳しくは聞いてません。私はあなたを陰からそっと見守るように言われただけなので」


 セイヴァンたちにとっては自分たちが、自分の世界が全て創られたものだというのは衝撃だろう。なのに怒っていても、それでも私を心配してくれる。私はどうしたいのだろう……。元の世界に戻りたい。それは変わらない。変わらないけど……、まだセイヴァンと一緒にいたい。きっと元の世界に戻っても、セイヴァン以上の人なんて現れない気がするから。私は……。


「私はこの世界に……、でも……私はレインじゃない」


 ふと思った。私がそれを望んでしまったら、レインは帰れなくなってしまう。レインが好きで、愛してあげたくて。そんな私が、レインの体を借りたままなんて……。


「めんどくさいんですね、あなたは」


 レビウスがズバッと言う。でもだって、私はレインにも幸せになってほしい。めんどくさいとは言ってもレビウスはじっと、私が答えを出すのを待っていてくれる。私はセイヴァンと一緒にいたいし、レインを死なせたくない。だから処刑も、世界の崩壊も回避する。


「決めた。今の私はレイン・アルバドールなのよ」


 せめて魔王を倒すまで、この世界に残る。私はアルバドール侯爵邸までレビウスに送ってもらって、明日学校に戻る準備をした。姫奈先生に何て言えばいいのかわからないけど、アミューゼの力がなければ世界は崩壊してしまう。そのことを考えると憂鬱だった。


「もう良いのですか?お嬢様」

「ええ、もう治ったわ」


 ステラと抱き合って、別れを惜しむ。セイヴァンに会えるのは純粋に嬉しくて、頑張れそうな気がした。


 次の日、支度を終えて外に出るとすでに馬車は止まっていた。さすがステラと思ってると扉が開いて、私は驚いた。


「ゆっくり休めたか?レイン嬢」

「セイヴァン様!」


 馬車から降りて、セイヴァンがてを広げる。私は深く頭を下げた。


「セイヴァン様、秘密にしててごめんなさい。私、私はレインじゃないけど……セイヴァン様と一緒にいたいです」


 謝ってるけど、セイヴァンなら受け入れてくれるんじゃないかって勝手に期待してしまっている。私ってこんなずるい人間だったんだ。けど、セイヴァンは私を優しく抱きしめてくれる。


「その言葉が聞きたかったんだ。君が誰であっても、俺は君といたい」


 セイヴァンの優しさに涙が溢れた。セイヴァンと一緒ならきっと大丈夫。小説の未来を変えられる。馬車に乗ると、セイヴァンに手を引かれて足の間に座る。こんなの、物語の中だけの話だと思っていた。


「セイヴァン、ちょっと恥ずかしい」

「好き同士なんだからいいだろう?」


 セイヴァンが強く私を抱きしめる。恥ずかしいけど嬉しくて、私はされるがままにしていた。


「レイン嬢、君の本当の名前を教えてくれないか?」


 セイヴァンが体を離して、私の顔を覗き込む。人前で自分の名前を名乗るのは、随分久しぶりだ。


「麻衣です」

「マイか、素敵な名前だな」


 そう言って微笑み、セイヴァンが私にキスをする。今までで一番長く、甘く、優しいキスだった。

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