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前世が人気声優だった私は、完璧に悪女を演じてみせますわ!  作者: 桜咲ちはる


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24.この世界の主役


「最近セイヴァン来ないわね。ようやくフラれたの?」


 教科書を読んでると、アミューゼが意気揚々と昼休みに聞いてくる。「どうかな……」と私は誤魔化す。何か用事があるみたいで、セイヴァンはしばらく中等部には来ていない。未来の話を聞いて、きっと思うところがあったのだろう。私の方は何も進展がなかった。Ami先生には迷惑がられたのか返事はなく、少しだけ変化したもののいつも通りの日常を送っている。


「レイン嬢」


 久しぶりに聞いた声に心を弾ませる。振り返ると、セイヴァンが私の手を掴んだ。手汗かいてないかな?と今まで気にならなかったことが気になってくる。顔を上げると、セイヴァンは気にしてなさそうに見えた。


「セイヴァン様、最近来てらっしゃらなかったけど忙しかったんですか?」

「ちょっとね。騎士団に行ってたりしたんだ」


 騎士団……。公爵家の仕事だろうか。


「お忙しいのに中等部に来て平気なんですか?」

「レイン嬢は会いたくなかった?充電しに来たんだけど」


 私は首を横に振る。私だって会いたかった。セイヴァンが私をぎゅーっと強く抱きしめる。そうしているとミンハルたちもやってきたが、みんな疲れた顔をしていた。


「君、とんでもない話をしてくれたね」

「ミンハル」


 恨みがましくミンハルが私を見る。セイヴァンは止めたけど、やっぱり魔王関係で動いてくれたんだ……。心配と同時に、私の根拠のない話を信じてくれたのが嬉しい。


「ありがとうございます、信じてくれて」

「君の話なら何だって信じるさ」


 私は嬉しくて、セイヴァンを抱きしめ返した。その瞬間、体を押されてよろける。セイヴァンが私を支えてくれた。


「やめてよ!」


 アミューゼが叫ぶ。アミューゼが突き飛ばしたんだろうか。アミューゼは顔を真っ赤にして、目に涙を溜める。


「セイヴァンは私のなの!私の理想がセイヴァンなの!せっかくアミューゼになれたのに、どうして……」


 正ヒロインだから、アミューゼが怒るのも無理はない。けど、ここは現実だ。セイヴァンたちにも意思がある。私はセイヴァンから離れて、アミューゼに向き直った。


「ごめんなさい。けど、私もセイヴァン様が好きなの」

「やめて、私の作品を壊さないで!」


 頭を抱えて蹲るアミューゼ。今、私の作品って言った……?


「もしかして……、姫奈先生?」


 【氷の公爵のお姫様】の作者……。アミューゼ、いや姫奈先生がピクッと反応して顔を上げる。


「そうよ。セイヴァンもミレーナもミンハルたちも、全部私のキャラなの。レインに転生者なんて設定は作ってない。なのにどうして、」


 アミューゼが立ち上がって、私の首に手を伸ばした。強く締められて、息が苦しい。すぐにセイヴァンたちが私から姫奈先生を引き剥がした。


「アミューゼ嬢!何するんだ」

「全部この女が悪いのよ!泥棒猫!」


 私は声が出せなかった。この世界は、セイヴァンは……姫奈先生が作った。作者の世界を、私が壊してはいけない。


「レイン嬢!」


 私は走った。少しでもセイヴァンと生きていいんだと思ってしまったのが間違いだった。演者の私に、その資格はない。


「レイン嬢待ってくれ」


 セイヴァンが私の肩を掴んで振り向かせる。私はセイヴァンの顔が見れなくて俯いた。涙が零れ落ちる。


「どうしたんだ?」

「私はっ、セイヴァン様にっ好きになってもらう資格がない……」


 泣きながら言う私を、セイヴァンが抱きしめる。


「資格なんていらない。俺が君を好きなんだ」

「でも……、この世界は姫奈先生が……アミューゼが書いた小説なの……」


 私の言葉に、セイヴァンが固まったのがわかった。当然だよね。いきなり自分のいる世界が、誰かに創られたものだと知るなんて。


「セイヴァンを創り出したのは姫奈先生。私はこの世界、【氷の公爵のお姫様】のファンなんです」


 もう隠してはおけなかった。全てを説明してでも、セイヴァンを姫奈先生に返さなきゃいけない。


「ごめんなさい……」


 セイヴァンから離れ、立ち去ろうとする。セイヴァンが私の腕を掴んで、声を荒げた。


「この世界も俺も、人が勝手に作ったということか?」


 私は頷く。セイヴァンは私の腕を引っ張った。


「だから俺の意思はいらないし、転生者のレイン嬢もストーリーを変える権利はないだと?」


 私は俯く。セイヴァンたちに意思があるのはもうわかってる。けど、私が変えられないの。すでに現実はストーリーから大きく逸れてしまったとしても。


「そんなの馬鹿げてる。誰が描こうが、俺は俺の意志で人生を決める。ミンハルたちだってそうだ」


 そう言ってセイヴァンは私から手を離した。もういい、とセイヴァンが横を通り過ぎる。私は蹲って、涙を流した。あれだけ嫌われたかったのに、いざ嫌われると胸が苦しい。せめてもう少しだけ、セイヴァンに愛してもらいたかった。でも本来そうしてもらうべきは姫奈先生だから……。結局レインは、嫌われ者の悪女だ。

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