22.諦めない心
「レイン嬢!」
セイヴァンに大きな声で呼ばれてハッとする。必死に手を伸ばすセイヴァンの姿に、私も揺られながら手を伸ばす。少し指先が触れると、セイヴァンはぐっと手を引っ張って私を抱きしめた。氷魔法で周りのコウモリを追い払う。端に追い詰めると氷の箱を出して、コウモリを捕まえた。浅く必死に呼吸をしながら、セイヴァンに抱き抱えられて一緒に地上に降りる。
「セイヴァン様!」
アミューゼがセイヴァンに駆け寄った。アミューゼは実は元の世界に戻る方法を知ってて、協力してくれたのかもしれない。僅かにそんな希望を、まだ抱いていた。そんなことを考えてると、セイヴァンが私の首に噛み付く。
「セイヴァン様!?毒が……」
アミューゼが肩を引っ張って止めるけど、セイヴァンは私の血を吸った。それからぺっと唾を吐く。何度も繰り返し、セイヴァンは毒を出してくれた。
「セイヴァン様、レインは悪女なのよ!助ける価値なんてない!」
叫ぶアミューゼの本音に胸が苦しくなる。やっぱり、アミューゼは私を殺そうとしたんだ……。目を瞑ると、セイヴァンが私を抱き寄せる。
「レイン嬢は普通の、いや……可愛い令嬢だ。笑って泣いて、たくさん悩んでる。俺はレイン嬢を死なせたくはない」
セイヴァン……。目頭が熱くなって、涙が出そうになる。力の入らない手でセイヴァンの手に触れたら、セイヴァンが微笑んだ。
「好き……」
「レイン!!」
思わず口から出た言葉を、アミューゼが咎める。セイヴァンは私の体を起こして、正面から強く抱きしめてくれた。でも、セイヴァンはがはっと血を吐く。小説ではどうしてたっけ……。アミューゼは噛まれて、セイヴァンが連れ出してる最中に自力で浄化した。私はアミューゼを見上げる。
「お願い……、助けて……」
このままじゃセイヴァンも死んでしまう。アミューゼだって、セイヴァンを助けたいでしょう?
「……あんた、ちゃんとやりなさいよ」
アミューゼが私を睨んでからてを広げる。白い光が辺り一面を包み、体が楽になったような気がした。セイヴァンも回復したのか体を起こす。
「アミューゼ嬢が……?」
「ええ。セイヴァン様のために浄化を行いましたの」
セイヴァンに寄り添うアミューゼに、セイヴァンがお礼を言う。私は体を起こし、セイヴァンから離れた。
「わっ、私ももう大丈夫ですわ」
「いや、まだ毒が残ってるかもしれない。急いでここから出よう」
それを言ったらセイヴァンだってそうなのに、セイヴァンは私を抱えて歩き出す。アミューゼの視線が怖い……。私はアミューゼを見ないようにセイヴァンの肩に顔を埋める。どうしよう、わかってはいるけどセイヴァンを突き放せない。命懸けなのに、自分を守ろうとしてくれたセイヴァンに酷いことなんて……これ以上出来ない。静かな時間が流れ始めてすぐに複数の足音が聞こえた。
「セイヴァン!レイン嬢!」
「アミューゼ!」
ミンハルたちだ……。ようやく私はホッとする。みんなが私たちの周りを囲んだ。
「ねぇ、俺らが心配してる間に2人はいちゃいちゃしてたの?」
「……まあな」
え!肯定するセイヴァンに驚く。肩を叩いて抵抗するとセイヴァンは笑った。
「顔真っ赤だな」
「や、やめてくださいっ」
私は慌てて顔を隠すとセイヴァンの腕から落ちそうになる。セイヴァンがぐっと私を引き寄せた。
「暴れたら落ちるぞ」
「じゃあ下ろしてください」
手の隙間からセイヴァンを見て頼むと、セイヴァンは笑うだけで。こら、とミンハルがセイヴァンの頭をぐしゃぐしゃに撫でる。私を抱えてるせいで抵抗できないセイヴァンはされるがまま不満そうな顔をしていて、いつも私が見る表情とは違って子供っぽくて可愛かった。
「アミューゼ……」
「あーあ、ほんと泥棒猫が厄介すぎるわ。私たちは運命の赤い糸で結ばれてるっていうのに」
ミレーナがアミューゼを心配して声を掛けると、アミューゼは大きな声で文句を言う。その言葉に周りの空気が一瞬ピリついた。
「セイヴァンのことだろ?気をつけろよ」
「わかってる」
ミンハルとセイヴァンがこそこそと会話をする。アミューゼは私よりこの世界に詳しいし、また設定を使って何か危害を加えてくるんじゃないかと思うと怖かった。震えがセイヴァンに伝わってしまったのだろう。セイヴァンが私の額に自分の額をくっつける。
「大丈夫だ、俺が守るから」
ドキドキして、胸が張り裂けそうでなぜか泣きたくなった。でもセイヴァンが言うと、本当に大丈夫なような気がして心強くて。たとえ世界が滅びようとも、私はもうセイヴァンなしでは生きていけないかもしれないと思った。




