21.ヒロイン
「急ごう」
「でもその怪我じゃ……」
セイヴァンは走ろうとするけど、やっぱり痛みで固まってる。セイヴァンは私の背中を押した。
「レイン嬢、先に逃げろ」
「でも……」
そしたらセイヴァンは?ここは小説の世界で、ヒーローのセイヴァンは大丈夫かもしれない。迷いつつも、私がいた方がアクシデントが起こるような気がしてセイヴァンから手を離した。
「わかった。助けを呼んでくる」
あれから時間が経ってるだろうにミンハルたちは来てくれない。いくら魔道具だって不具合が起きてるかもしれないし。アミューゼならきっと、魔法が使える。私が走ると後ろから剣の音が聞こえてくる。大丈夫、だよね?きっと。でも……。
「レイン嬢!」
一瞬足を止めた、その瞬間にセイヴァンが叫んだ。振り向いて顔を上げる。魔物がセイヴァンを飛び越え、私に襲いかかってくる。セイヴァンを見捨てようとしたから、罰が当たったんだ……。目を瞑ると走ってくる足音が聞こえ、セイヴァンが私を抱きしめた。
「ぐっ……」
セイヴァンの呻き声に目を開けると、セイヴァンの背中から血が噴き出す。顔が青ざめ、全身から血の気が引く。怖くて、声も出せなかった。
「セイヴァン様が危険な目に遭うなんてありえない」
いつもの可愛い声が、低く怒ってる。それでも今は救世主だと思って安堵した。現れたアミューゼはセイヴァンの背中に手をかざす。白い光に包まれ、セイヴァンの傷が癒えていく。そしてアミューゼが魔物に手を向けると、魔物が消えた。アミューゼの魔力は段違いだと思い知らされる。力が抜け、倒れ掛けたセイヴァンをアミューゼが支えた。
「セイヴァン様、私が来たからもう大丈夫ですわ。帰りましょう」
1人で逃げようとした私より、アミューゼの方がずっと良い。私は2人に背を向けて歩き出そうとすると、セイヴァンが私の手を握った。
「アミューゼ嬢、感謝する。ところでミンハルたちは?」
「ミンハル様たちも必死に探しているんですけど、私はみんなと逸れてしまいましたの」
魔道具はやっぱり届かなかったのだろう。でもいくら魔力が強いとはいえ、アミューゼも1人になってしまうなんて。アミューゼがセイヴァンの腕に自分のを絡ませる。
「早く行きましょ。ここは不気味ですわ」
傷口が塞がっても怪我が完治出来てないのか、セイヴァンはアミューゼを振り解かない。良いことなのにすごくもやもやする。転生者だとしても、大好きなアニメのヒロインにそんなことを思うなんて自分が嫌いになった。
アミューゼが来た道は岩が落ちてたりで塞がれていて、戻れないらしい。私たちは仕方なく慎重に奥に進む。魔物を倒したからか、魔法が使えるようになっていてセイヴァンが小物を倒してくれる。
「セイヴァン様、さすがですわ」
「アミューゼ嬢の魔力も素晴らしかった」
セイヴァンに手を繋がれながら、2人の会話を聞くのは気まずい。顔を逸らすとうさぎの魔物と目が合って、ビクッと肩を振るわせた。セイヴァンが繋いだ手を前に向けて、氷柱で攻撃する。
「この世界魔物多すぎじゃない?」
「この洞窟だけよ、ほら」
私が聞くと、アミューゼが顎で前を指す。アミューゼの声に反応してか、洞窟が変形した。出口が塞がれ祭壇が現れる。私は目を見張った。思い出した……。ここ、高等部の新入生歓迎会で使ってた山だ……。そして予想通り、コウモリが現れる。これも魔物だった。
小説ではアミューゼが覚醒する前、一緒に穴に落ちたセイヴァンに守られる。しかしセイヴァンは怪我をし、取り乱したアミューゼが魔法を使い聖女の片鱗を見せる話だった。でも今のアミューゼは強いし、私もいる。私もセイヴァンから手を離して、魔法を出した。今回は、セイヴァンに怪我をさせない。
「やばい、魔力切れ起きちゃうかも……」
アミューゼがふらっと地面に座り込む。そんな……。でも魔法が使えないはずの空間で魔力を使ったんだから、消費も激しかったのだろう。ここは私とセイヴァンでなんとかしなきゃ……。
「レイン嬢、アミューゼ嬢を避難させてくれ」
「……でも、」
そしたらセイヴァンが怪我してしまう。2度も、置いていきたくない。私はセイヴァンの反対側に立ち、アミューゼを庇うように立つ。ビームを出しても次から次へとコウモリが現れる。ドンッと後ろから背中を押され、バランスを崩した。
「っ、レイン嬢!」
コウモリに首を噛まれ、体が浮く。コウモリに服を噛まれて逃げられない。下を見ると、私を見上げるアミューゼと目が合う。アミューゼが口角を上げたような気がした。私は冷や汗が出る。確かコウモリに噛まれたら一時間以内に解毒しないと死ぬ。でも抵抗する力もなくて、セイヴァンの攻撃もコウモリが避けて当たらない。このまま死ぬんだ、私……。セイヴァンは氷に乗って上に上がる。そのまま私に手を伸ばすけど、私の手は痺れていて上がらない。どうせこの世界の人間じゃないし、死んだら元の世界に帰れるかもしれない。アミューゼに睨まれるのも疲れた。いいかな、もう……。




