20.アミューゼの企み
「ミンハル」
「はいはい」
ミンハルはぽんと私の肩に手を置いて、セイヴァンとアミューゼに近づく。私は顔を上げた。アミューゼも察して、セイヴァンの腕を掴む。
「セイヴァン様がいいです!セイヴァン様強いから。いいですよね?レイン嬢」
アミューゼは食い下がって、私に許可を求める。そう言われたら、否定できない。私はぎゅっと拳を握り、微笑んだ。
「もちろん。セイヴァン様がいなくても、私たちは大丈夫ですわ」
「サムス。アミューゼ嬢を頼む」
セイヴァンはまっすぐこっちに来て、そのまま肩を抱き寄せる。アミューゼはサムスに担がれそうになっていた。
「セイヴァン様、アミューゼは……」
「サムスが連れて行く」
バチッとアミューゼと目が合う。私はすぐに目を逸らした。「離して!」とアミューゼが暴れてサムスの手から抜け出すと、セイヴァンに駆け寄る。
「セイヴァン様、一緒に行きましょう」
笑顔のアミューゼとは対照的に、セイヴァンは眉間にシワを寄せる。アミューゼは悔しそうに私を睨んで。それから私の腕に抱きついた。セイヴァンの手が一瞬離れると、アミューゼは私を押して早歩きをする。
「レイン、崖から落ちて」
「え」
アミューゼは真剣に私に言う。風魔法もまだ使いこなせないし、みんなと逸れてしまったら魔物だって倒せるかわかんない。答えない私の腕をつねって、アミューゼは低い声を出す。
「レインに拒否権なんてないから」
そう言ってアミューゼが私を押した。肩を掴んでいたアミューゼも一緒に倒れたけど、
「バイバイ」
アミューゼはパッと手を離す。その瞬間、足元に黒い穴が現れて体が吸い寄せられる。バッとセイヴァンを見ると、セイヴァンも気付いてくれてこっちに走ってくる。私は手を伸ばしたけど、そのまま落下していった。
「レイン嬢!」
死んだ。そう思ったのに、セイヴァンの手が私の体を包んで抱きしめてくれる。セイヴァンが手を動かすが、魔法は出なくて……。私はセイヴァンにしがみついた。
「……レイン嬢、……レイン嬢!」
体を揺さぶられて目を覚ます。私、気絶してたんだ……。セイヴァンの顔を見ると、セイヴァンはホッとしたように眉を下げ、私の手をぎゅっと握った。私は起き上がってセイヴァンに尋ねる。
「セイヴァンは怪我してない?」
痛みも何も感じなくて、セイヴァンが庇ってくれたのだとわかる。あんな高いところから落ちて無事なわけない。
「大丈……」
セイヴァンが答えようとして顔を歪める。私は前のめりでセイヴァンの腕に触れた。
「どこ?背中?」
「大丈夫。ただこの怪我では戦えないから、助けが来るのを待とう」
セイヴァンが私を庇ってくれるなんて考えてもみなかった。あの時迷わず飛び込んでくれて嬉しかった。セイヴァンがブレザーを私の肩に掛ける。背中の怪我なんて服を脱ぐのだって辛いだろうにセイヴァンは優しい。私はブレザーを胸の前で握った。
「ねぇ、まほうは使えなかったんでしょ?どうやって助けを呼ぶの?」
「魔道具があるんだ。何かあった時のために常に持ってたから」
なるほど、魔道具か。私がこの世界に連れてこられたのも、魔法じゃなくて魔道具の力かもしれない。私はセイヴァンの服を掴んだ。
「ねぇ、別世界から人を連れてくる魔道具もある?」
「転生の話か?聞いたこともないな」
そっか……。がっかりしてるとセイヴァンは私の頭を撫でる。
「転生して幸せになれるのは物語の中だけだ。実際は他人を騙る罪に警戒しながら、知り合いのいない世界で一生を過ごすことになるだろう。だから、転生したいなんて考えないでくれ」
罪……。セイヴァンの言葉が深く突き刺さる。
「罪、なんですか?自分の意思じゃなくて別人の体に入ってしまうことは……。私だって望んでない。それなのに、……誰にも頼れない」
声が震える。セイヴァンが私を抱きしめてくれる。周りがわかってくれないことだってわかる。だけど、理不尽だ……。
「この世界には俺がいる」
セイヴァンに言われ、胸が苦しくなる。私が転生者だと知ったら態度が変わりそうで怖い。そう思ってるとセイヴァンが体を離し、私を背中に隠した。ピキッと物音がする。ミンハルたちだろうか。
ウガオォォォ
動物の形すら成していない魔物が近づいてくる。セイヴァンが剣を持って立ち上がった。骨が折れてるかもしれない……。そんな状態で戦うのも逃げるのも無茶だ……。私はセイヴァンの腕を引っ張る。
「私がやる。セイヴァンは休んでて」
今の私はアミューゼくらいの強さがある。だから、きっと大丈夫……。手を動かして魔法をイメージする。
「無茶だ、魔法は使えない」
セイヴァンが止めても集中する。でも、魔法は使えなかった。せっかくのチートスキルなのに、こういう時に使えないなんて……。セイヴァンが私の肩を抱いて、奥に進む。そんな状況じゃないのわかってるけど、セイヴァンの息が耳に触れてくすぐったくてドキドキする。とはいえ、魔物はじりじりと後ろを追ってきていて火を吹いた。




