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前世が人気声優だった私は、完璧に悪女を演じてみせますわ!  作者: 桜咲ちはる


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2.レイン・アルバドール


 【氷の公爵のお姫様】略して【氷姫】は、大人気のネット小説だ。作家の美佑が、自身の書いた小説のヒロイン・アミューぜに転生し、氷の公爵セイヴァンと出会い恋に落ちる話だ。


 レイン・アルバドールは歴代最悪の悪女で、セイヴァンの婚約者。平然と浮気し、他人を見下す。アミューゼにも酷い嫌がらせをし、最後は婚約破棄されたのちに処刑される。


 つまり良いことなんて何一つないのだ。彼女の環境や性格から同情できる面もあるけど、典型的な悪役令嬢である。


 どうせ転生するならヒロインが良かったな、とレインの声優にあるまじきことを思ってしまう。変える方法など【氷姫】には書かれていない。アミューゼはセイヴァンと結ばれ、異世界で幸せに暮らすからだ。詰んでる。


「お嬢様、セイヴァン様がいらっしゃいました」


 コンコンとドアをノックされる。セイヴァン様?物語開始時には一歳雨音を気にかけないあのセイヴァンが?


「ちょっと待って」


 と制止したにも関わらずステラが入ってくる。そうだ、貴族は自分で着替えないんだ……。ドレスの着方もヘアセットの仕方もわからない私は頼るしかない。


「お、お嬢様……。今日は静かでいらっしゃいますね」


 恐る恐る話しかけてくるステラ。そうか、レインなら気に入らないとすぐ怒るから。


「怒る気もないのよ」

「お嬢様……」


 寝込んでる間に考えていた。これからどうしようかと。元に戻る方法はなく、しばらくはレインとして生きていかなきゃいけない。死にたくないし、レインのことを考えるとセイヴァンに好かれた方が良いに決まってる。けど、それだと世界は崩壊してしまう。そしたらどのみち、私は終わりだ。


「お嬢様、ご準備できました」


 鏡を見て感嘆の声を漏らす。化粧もせずに寝込んでいたから実感なかったけど、今の私は正真正銘レイン・アルバドールだった。


「フン、私は世界一美しいのよ」


 それなら、私の役目はただ一つ。完璧にレインを演じ切って、この世界の崩壊を防ぐこと。大丈夫、レインと数ヶ月向き合ってきた私なら演じられる。私は立ち上がり、セイヴァンの待つ応接室に向かった。


「突然何の用かしら?セイヴァン様」


 私の姿を見て、セイヴァンは立ち上がる。思わず見惚れるくらい美しい。


「婚約者なんだ。お見舞いくらい当然だろう」


 そうは言うものの目は合わせない。形式的なやつだって私でもわかる。私はステラに新しい紅茶を持ってくるように言い、正面に座る。


 悪女はこんな時、どんな会話をするんだろう。とりあえず誘惑したらいいのかな?ハードルは高いけど、私は子役経験もある声優よ。演じるのに離れているわ。


 私はセイヴァンの隣に移動し、頬に触れる。少し冷たい滑らかな肌。どんな手入れをしてるんだろうと気になった。私の手はセイヴァンに捕まれ、下ろされる。私はぐっと体を近づけた。


「公爵様に見舞われるなんて、私は幸せ者ですわ」


 セイヴァンは掴んだ手を押し返す。レインの素直な気持ちをと思って伝えたのに、こうも嫌われているのか。


「つれない人」


 私は掴まれた手を引き、セイヴァンの手首にキスをする。こんなにかっこいいセイヴァンが婚約者なのに、他の人と遊ぶなんてレインはバカだ。だけど、今から同じ道を辿ろうとしてる私は大馬鹿者だ。


 されるがままのセイヴァンの眉間に深く皺が寄っている。セイヴァンは可愛らしい、純粋無垢な天然ちゃんが好きだった。レインの行動に嫌悪感を抱くのも当然だろう。だけど、わかりやすく拒絶されるのは傷つく。……レインも、そうだったのだろうか。


「顔も見られたし、そろそろ帰らせてもらうよ」

「ええ」


 部屋からセイヴァンが出ていくと、どっと疲れが溜まりソファーに横になる。本当は誘惑なんて得意じゃないのだ。レイン役でセイヴァンとのシーンだと気を引き締めなきゃ、演技すら出来なかっただろう。あんな至近距離でセイヴァンと近づいて平気なわけがない。


 私は胸に手を当て、深呼吸をした。自室に戻って紙とペンを出す。今決まってることは2つ。セイヴァンとアミューゼをくっつけること、そして処刑を免れること。レインではないとバレたら罪に問われる可能性が高い。レインとして生きながら、その上で悪いことはしないと心に決める。


「ステラ、今私は何歳で今何月なの?」

「え?」


 唐突に聞く私にステラは驚く。自分の年齢も今の時期もわからないなんて、驚いて当然だ。けど、上手い説明は思いつかない。


「いいから答えなさい!」

「じゅ、14歳の8月です」


 声を荒げることは望ましくないけど、普通に会話したら変に思われてしまう。


 それより、レインとアミューゼは同い年。物語開始は高等部の入学式で、あと10ヶ月ある。ちなみにレインが処刑されるのは16歳の3月だ。やりすぎなければ大丈夫だろう。そう思えば楽そうに見えるけど、こういうものは物語の強制力があるから気を抜けない。


「レイン・アルバドール役、茅野麻衣です。よろしくお願いします」


 目を閉じ、小さな声で宣言してから目を開く。よし、大丈夫。今の私は、レイン・アルバドールよ。

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