18話 美しいもの
「は?」
セイヴァンが驚いて固まる。私だって驚いていた。転生チートがあるとはいえ、ヒロインじゃない私も五大魔法全て使えるなんて。荒れる球にセイヴァンが手を翳して、魔法を止める。
「すごい魔力だな。五大魔法全て使うのは聖女の噂しか聞いたことがない」
「あ、はは」
そのまま光魔法も使えたらいいのに、何で闇魔法なんだろう。
「レイン嬢、魔法は手の動きも大事だが何よりイメージが重要だ。あの木に手をこう動かして、水をあげてみてくれ」
人差し指と親指だけを伸ばしてセイヴァンが形を作る。真似したら、少し離れた距離でも木に水がかかった。
「すごい」
ラプァールド山の時は、ただただ必死に魔法を使っていた。子供の頃に憧れた魔法使いになれたことを、今実感して感動すら覚える。
「レイン嬢、花畑を作ろう」
セイヴァンが私の手を掴んで動かす。手が桃色に光り、どさっと上から何かが降ってきた。セイヴァンが私を抱きしめる。隙間からたくさんの花びらが見えた。
「あっはははははは」
「レイン嬢?」
衝撃的で、私はお腹を抑えて笑う。声を出して笑ったのなんて久しぶりで、崩れ落ちそうになる私をセイヴァンが支えてくれる。ひーひー言って、肩で息する私の頬をセイヴァンは撫でた。
「そんな風に笑えるんだな」
「だって、あまりにも大量で……降ってきて……」
まだ笑いが止まらない。セイヴァンが指を鳴らして、雪を降らせる。花びらが髪や肩にかかったセイヴァンは、とても綺麗だった。
私は花びらの上に寝転がる。セイヴァンは少し驚いた後、私の頬に手の甲を当てた。ひんやりしてて気持ちいい。私はセイヴァンの手に触れた。こうしているとまるで夢の中にいるようで、ずっとこのままがいい……。
「姫奈先生はすごいなぁ……」
「ん?」
こんな世界を創り出してしまうなんて。美しい景色に美しい人、美しいストーリー。人の手で、一つの世界が創り出されるなんて今でも信じられない。あとは行き来する方法さえあれば完璧なのに……。セイヴァンが私の頬を指で撫でて、苦笑する。
「笑ったり泣いたり、忙しいな君は」
「へへっ」
この世界に来て初めて笑えた。それも隣にセイヴァンが居てくれるからだってのもわかってる。私はセイヴァンの指を掴んで、瞳を見つめる。
(私と居たら世界が滅ぶとしても、ずっと隣に居てほしい)
ふとそんなことを口に出しそうになって、ぐっと唇に力を入れる。ずるい質問。私は悪役令嬢なのに、都合の良い答えを期待してしまう。聞きたいけど、聞けない。
世界が滅ぶなんて、小説の中だけの話で現実味がない。ストーリーも少しずつ変わってる今、そんな未来が来るとも限らない。けど私たちは確信していた。それは避けられない運命なのだと。
「暗くなってきたから寮まで送る」
「……ありがとう」
セイヴァンに手を引かれ、起き上がる。私は繋がってる手を引っ張った。
「……ねぇ、今日のことは忘れて?全部」
「何で?」
口に手を当てて、笑いを堪えながらセイヴァンが聞く。醜態を晒しといて今更だけど、忘却魔法が使えないから口で言うしかない。
「私は悪女なの、こんな姿見られるなんて恥だわ」
「俺は今のレイン嬢の方が好きだが」
す、好きってそんな……。私はセイヴァンの腕を叩く。
「こんなのレインじゃないわ。びょっ病気のせいよ、そうよ。とにかく忘れなさい」
ああ、急いでレインの行った悪事を思い出さなきゃ。でも、でも処刑は回避したい。私はセイヴァンから逃げるように早歩きで寮まで戻る。それから侯爵邸で書いた、小説エピソードメモを出した。
レインはアミューゼに対して、嫌がらせだけでなく誘拐と暗殺未遂まで行っている。二度、アミューゼを襲おうとしてセイヴァンに助けられていた。とりあえず、暗殺はしないにしてもレインが関わっていた悪い仲間とは親しくなっておかなくちゃいけなそう。とはいえ、実行犯の情報は身体的な特徴だけで小説の中では語られていない。レインが処刑されると決まっても一度も現れることはなかった。
侯爵家の財力を使うしかないわね。私は急いでステラに手紙を書いて、連絡を取ることにする。たとえセイヴァンが私を好きになってくれたとしても、どうしようもないくらいに私は悪女になっておかなきゃいけない。
「辛い……」
私はベッドにダイブして、布団を握る。セイヴァンに優しくされる度に、決意が揺らぐ。でもそんなの、演じるプロとして失格だわ。ベッドに寝転がりながら、【運命の人】を読む。【氷の公爵のお姫様】を見返せない今、これが私の指南書で。私はお腹に手を当てた。
「嫌だわ、私のドレスが汚れちゃったじゃない。陰気で見えにくいのよ!」どうしてくれるの?」
そうそう、これが悪役令嬢。台本があると上手く演じられるのになぁ。私は小説を顔に乗せて息を吐く。またアミューゼに怒られてしまうわ……。




