13.悪女の務め
あれからセイヴァンに隙を与えないように、急いでご飯を食べた。立ち上がって、私は知ってる顔を見つける。
「リゾル様!」
私は侯爵子息のリゾル・タイナーを見つけて腕に抱きつく。彼も今日誘惑した1人だ。
「やだわ、セイヴァン様がいるのに堂々と浮気なんて」
冷たい声が耳に届く。ちらっと見るとアミューぜがセイヴァンの服を掴んでいた。今のアミューゼの声?気になるけど先に食堂を出たくて、リゾルを連れて出ようとすると後ろから抱き上げられた。
「俺じゃ不満ですか?レイン嬢」
私を抱き抱えて、セイヴァンが私を見下ろす。無表情で空気が冷えるのを感じる。私はセイヴァンから顔を逸らした。
「だって面白くないもの」
「……」
セイヴァンは私を椅子に座らせて、噛み付くようにキスをした。セイヴァンの胸を叩くと、少ししてから離れる。
「真っ赤だな」
セイヴァンが私の唇を撫でる。それからまた軽くキスをした。
「他の男に目移り出来ないようにしないと」
「セイヴァン、様……」
本当に私に惚れたのか、婚約者への躾の範疇なのか。セイヴァンは私の手を引っ張って立ち上がらせると、教室まで送ってくれる。
「み、見られてましたけどいいんですか?」
「見せつけたんだ。君を奪おうとする不届きものが現れないようにね」
アミューゼのことだったんだけど、まだ好意は持ってないのだろうか。
「セイヴァン様、気になる方がいたら我慢しないでくださいね」
「さっきの男が気になるが」
ぐいっと手を掴んで顔を近づけてくる。私はもう片方の手でセイヴァンの胸を押した。
「じょ、女性でです!」
「……君はそれを気にしてたのか」
セイヴァンは私の前髪を除け、額を撫でる。
「私の婚約者は君だ。君以外と親密になることはないよ」
ドキドキして嬉しくて、大切に想われてるんじゃないかと錯覚してしまう。セイヴァンは私の頭を引き寄せて抱きしめた。
「君の病が早く治ればいいのに」
その言葉にハッとする。心の病だと思われてる間は心配され、セイヴァンはアミューゼぬ目を向けられないんじゃないか?それはまずい。けど現代でも完治は出来ない上、治癒魔法の効かない病をこの世界で治ったと証明することは難しい。完全に嫌われるというのは無理なのだろうか。私は意を決してセイヴァンの頬を叩く。
「この私が病にかかるわけないでしょ」
「セイヴァン様!」
アミューゼが駆け寄ってきて、セイヴァンに抱きつく。セイヴァンはアミューゼを引き剥がした。アミューゼの方はすでにセイヴァンに好意を抱いているみたい。
「頬を叩くなんてレイン様ひどいわ!セイヴァン様、こんな人やめたらどうです?私がお側にいますから……」
アミューゼから明確な敵意を感じる。何だろう、この違和感。小説と展開が違うから?
「これは俺とレイン嬢の問題だ。部外者は口を挟まないでくれ」
はっきりと言ったセイヴァンに、アミューゼは涙を溜めて私を睨む。私だってアミューゼとセイヴァンが付き合うことを望んでいる。でもそう簡単にはコントロール出来ない。まるでセイヴァンも、私と同じように生きてるみたいに。
私は背を向けて教室に入る。教室に戻ってきたリゾルやラーデルは私を避けるように顔を逸らす。悪女の道が遠のいた気がした。取り巻き達も来て、アミューゼの席を囲む。
「レイン様とセイヴァン様と一緒に食事したんですって?」
「転校生だからって調子乗ってるみたいね」
アミューゼの髪を掴んで引っ張るケイトン伯爵令嬢。
「レイン様と友達になったんです。転校生いじめなんてダサいわ」
さっきあんなこと言ってたのに、手のひら返しが早くて驚く。強気な言い方にアモッサ伯爵令嬢が手を振り上げた。私は立ち上がって、アモッサ伯爵令嬢の手を掴む。
「いじめなんてつまらないわ」
「え、レイン様……」
きっといじめを先導してたであろうレインが止めたことで、3人が驚く。私は堂々と微笑んだ。
「美しくないものは嫌いなのよ」
「っ、レイン様に感謝しなさい」
3人が悔しそうに捨て台詞を吐いて席に戻る。アミューゼは俯いたまま、何も言わなかった。
私が止めて解決したと思ったのに、次の日からアミューゼへのいじめが始まった。朝は机の上に一輪の花が花瓶に入れて置かれ、その周りにはゴミが散らばる。昼にはアミューゼの持ち物が花壇に捨てられ、泥だらけにされた。机に虫の死骸も入れられるようで、都度アミューゼが魔法で浄化してるものの精神的には辛いだろうと思った。
でも悪役令嬢の私がアミューゼを助け、犯人捜しなんてしたらキャラ崩壊もいいところ。心苦しいけど、アミューゼとセイヴァンの物語のために悪役に徹することしか出来ない。セイヴァンが気づいて助けてくれれば、と思うけど昼休みに教室の前までしか迎えに来ないセイヴァンは気づかなそうだった。




