12.外れたストーリー
「アミューゼ・リバティーです。よろしくお願いします」
何度瞬きを繰り返しても、そこにはヒロイン・アミューゼが立っていた。まだ中等部なのに、何で……。どうして?
「席はアルバドールさんの隣ね」
「はい」
アミューゼが近づいて来る。心の準備が何も出て来ない。にこっと可愛く笑うアミューゼから目を逸らして爪を噛む。いや、良かったのかもしれない。セイヴァンに惚れる前にアミューゼが出てきてくれて。でも小説と大きく外れたストーリーに不安がある。リリーを助けたから、未来が変わったんだろうか。
アミューゼはさすがヒロインという人気ぶりだった。チャームポイントの愛嬌で人を惹きつけ、多くの生徒に囲まれている。魔法学の授業でも、聖者の片鱗が垣間見える強力な光魔法で高得点を叩き出していく。
「レイン様もやってみたら?楽しいわよ」
「男爵令嬢のくせに、レイン様に話しかけるなんて」
見学してた私に近づくアミューゼを、取り巻きたちが囲んで文句言う。争いごとは苦手だけど、レインのせいだから仕方ない。私はため息を吐いた。
「実力を見せるまででもないから見学してるの」
「本当は魔力ないだけじゃないですか?」
可愛い顔で結構毒のあること言う。おとなしくて可憐で純粋な定番ヒロインかと思ってたけど、実際は違うのかも。魔力を見せてもとは思いつつも、レインならこの挑発には乗らない気がして私はにこりと微笑んだ。
「無駄なことに体力使うの嫌いなのよ」
「アルバドールさん!無駄とは何ですか!その態度、評価に響きますよ!」
げ。私の言葉に先生が顔を真っ赤にして怒る。聞こえてたんだ。魔法で就職できなきゃ将来が大変だろうか。でもレインならきっと、フォールス公爵夫人になる未来以外考えてないだろう。私は無視してベンチに座った。気にせず魔法を使ってるのが羨ましく思う。元の世界にはない特別なもの。キラキラの中で両手を広げ、くるくる回ってるアミューゼは眩しかった。
「レイン嬢」
食堂に向かってると名前を呼ばれる。キャーと悲鳴が上がる。振り向くとセイヴァンたちがいた。私は目を丸くする。ここは中等部、何でセイヴァンがいるの?「おーい」とベンが私の顔の前で手を振った。
「な、何で?」
セイヴァンに限ってレインに会いにきたなんてことはない。もしかしてヒロインの噂が高等部にまで広がってる?そうだ、きっとそうだ。
「一緒に食べようと思って」
さらっと言うセイヴァンに驚く。私と……?ってこれ、まずいんじゃない?小説にない展開来ちゃってる。
「わっ、私は1人で食べたいのです」
セイヴァンに背を向け去ろうとしたら、私に誰かが抱きつく。隣を見ると、アミューゼがいた。
「私、レイン様の友達のアミューゼです。ぜひ、お昼ご一緒させてください」
と、友達!?いつ友達になったのだろうか。でもチャンスかもしれない。小説とは違うけど、アミューゼとセイヴァンの仲を進展させられる。
「アミューゼがそう言うなら」
「決まりですわ。行きましょう」
アミューゼが私とセイヴァンの手を引っ張って食堂に行く。中等部の食堂も高等部に負けないくらいキラキラしていて豪華だった。アミューゼが手を引っ張ったまま椅子に座る。私とセイヴァンでアミューゼを挟む形になったが、セイヴァンは私の隣に移動した。
「さすが婚約者」
「当然だろ」
私の隣に座ろうとしていたミンハルがアミューゼの隣に行く。魔法学園の食事は魔法で提供される。急に現れた食事に私はわかっていても驚いた。
「セイヴァン様、先日は助けていただいてありがとうございました」
アミューゼが両手を合わせてセイヴァンにお礼を言う。セイヴァンは一瞬アミューゼをみたが興味なさそうにフォークを口に運ぶ。
「助けたってセイヴァンが?」
「はい。道に迷っている時にお声がけしたら丁寧に教えてくれましたの」
ここでもストーリーがズレてるのか。すでに接点があるなら両想いになるのも早そうだな。
「声かけたって君が?公爵に気軽に声かけるなんて怖いもの知らずだねぇ」
「でもセイヴァン様は優しかったですよ」
だってアミューゼはヒロインだもの。可愛いし、優しいのも当たり前。悪役令嬢のくせに胸が痛くて、手が止まる。
「どうした?」
それに気づいたセイヴァンが私の髪を撫で、耳に掛ける。私は耳を押さえて首を横に振った。
「何でもないですわ」
「レイン嬢」
セイヴァンが私の顎を掴んで上を向かせる。セイヴァンの指が唇に触れ、思わず口を開ける。するとセイヴァンが小さく切ったステーキを私の口に入れるから、私は口を押さえてステーキを噛んだ。
「しっかり食べないと倒れるぞ」
「やるねぇ、セイヴァン」
恥ずかしくてセイヴァンから目を逸らすと、驚いてるアミューゼの顔が見えた。そうだよね、驚くよね。私だって状況がわかんない。セイヴァンは何を考えてるの?




